春にして君と出会い
過ぎ去った季節は、年を追うごとに美しく輝きを増す。
本当はきっと良いことも悪いこともほぼ
幼いながら、泉は「彼ら」が特別な子供たちであることを理解していた。
匂い立つ紅梅のように華やかで、しかしどこか可愛らしく少女のような、日高。
白梅のように凛として、いとけない年の頃から冴えた美貌の
二人の美しい
そして彼らの従兄弟、永屋は、精悍な顔立ちと溢れる才気で存在感を放っていた。
子供たち、といっても泉が彼らに出会った頃、彼らは既に大人になりつつあった――日高二十三歳、吉美十八歳、永屋二十歳の時であり、泉はまだ十歳の誕生日を迎えたばかりであった。
永屋はこの年、
一方、当時の葛城氏はといえば、遥か昔に遡れば皇族の血を引いているが、権力の座からは程遠い一氏族である。泉は当主の次男で、葛城氏の頂点にすら立つ見込みのない存在であった。そんな泉が彼らと関わることになったのは、彼が幼くして比類なき学才と、医術、陰陽術への興味を示した神童であったからに他ならない。
父親は泉を大学寮、
ある春の日、病弱な迦琉を
「今日はお顔色も良いようだったな」
診察が済み、板張りの床を歩きながら、内薬司の医師は上機嫌で言った。泉はこくりと頷いた。
華やかな宮中にはもはや慣れっこになっていた泉であったが、帝の居所に入るのは初めてだ。
「何だ、まだ緊張しているのか?」
泉はぶんぶんと首を横に振った。
「ほお?」
医師は口の端を釣り上げる。いつになく子供らしい顔をするものだなあ、と医師は笑いを堪えながら言った。泉は悔しくなって唇を引き結ぶ。
そこに、ころころと丸いものが転がってきた。
「……毬?」
蹴鞠に使う鞠より小ぶりな毬だ。なぜこんなところに。
「あっ、ひめみこさま、なりませぬ!」
女の甲高い声が聞こえたかと思うと、少し離れた衝立の後ろから人が飛び出してきた。
その光景を、泉は今もはっきりと覚えている。
泉は息を飲んだ。
毬を追って豊かな黒髪をわずかに乱し、頬を上気させた、しかし美少女というには
……まるで、天女ではないか――そう思った瞬間、泉は毬を拾い上げ、脱兎のごとく逃げ出した。
「おい!」
医師が抗議の声を上げたが、構っていられない。
泉は庭にまろび出たが、何せ宮廷の庭である。十歳の子供にはあまりに広く、走り回っているうちに、自分がどこから来たのかわからなくなってしまった。
「そこで何をしている」
背後から咎めるような声を投げかけられ、彼は肩を竦めた。
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