やおよろず

瓦偶人

プロローグ

 相対する二人が居たのは、何もない空間であった。

 仲が良いという雰囲気ではないが、けして険悪な関係という訳でもなさそうだった。前からの知り合いなのかもしれなかったが、あまりに彼らの容姿がちがうので妙というか変というか、なんだか不思議な感じだ。


 一人は美しい女性で、背に鳥のような翼を持っており、もう一人は生身が甲冑そのものであるような、山のごとき偉丈夫であった。


「そう。そろそろ始めるのね?」


 つややかな髪を指先で弄びながら、嗜虐的な笑みを彼女は浮かべた。

 そんな彼女の言葉に、偉丈夫は答える。


「左様。古来の神々は滅びつつ、膂宍そしし空国むなくにのごとき劣悪な外域よりやって来た仏神、蕃神ごときが、我らが土地の代表面だいひょうづらをするばかりか、今来いまきの客神共も入り込んでこの地を荒し破壊する始末。なれば、もはやこの地のことごとくを原初の葦原とする他はあるまい」


「よく分からないけど、要は国を滅ぼすって事で良いのよね?」


「左様」


 偉丈夫の返事に、有翼の女はますます笑みを深めた。


「まあ、私としては面白そうだし、協力するのも構わないけど、そんなに上手くいくのかしらね・・・・・・ほら、なんだっけ。御上おかみとかなんとか、貴方の土地には怖いのがいるでしょ」


「心配無用。各地の荒振神あらぶるかみには賛同多く、日神ひかみも己が類縁が、この地を今後も知らしめすのであれば文句はあるまい」


「ふーん?」


 偉丈夫の迂遠な表現に、彼女は首を傾げたが目的は概ね理解出来たので、特にそれ以上踏み込むことはせず、彼女は会話を切り上げる。


「それじゃ、私はそろそろ行くけど・・・・・・用があったらまた呼んで、話でも聞かせてちょうだい」


「あい分かった」


 短い返事を聞いて、彼女はその場を去ろうとする。

 その時、ふと忘れていたことでも思い出したのか、自分の荷物を漁りながら偉丈夫へと彼女は口を開いた。


「そうそう、忘れていたけど・・・・・・これ。丁度手に入ったからあげるわ」


 差し出された彼女の手には、透き通る光沢をもつ飴色をした林檎のような実が乗っていた。

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