第27話筆談
あれから考えないようにしていても時間は自然と経ち木曜日がやってきた。
木曜来んなってめっちゃ考えてたんだけどなぁ。
放課後になり図書室に向かう。
別に一緒に行く理由なんかもないから当然別々に行く。
図書室に着くと文月先生が待っていた。
「あ、相馬くんね。確か去年も図書委員よね?」
「そうですけど」
「じゃあなにするかわかる?」
「だいたいは」
「じゃあ神谷さんに仕事教えてあげて。先生やることあるから」
そう言い文月先生は図書室から出ていった。
えーいてくんないの?
去年はしっかり教えてくれたのに。
先生いるから二人きりじゃないとか先生に神谷のこと任せられるとか思ってちょっと安心してたのに。
帰ってきてくんないかなぁ。
……はぁ、仕事しよ。
特にやること自体は少ない。
以前に神谷に説明したように本の整理と貸し出しの受付くらいだ。
ん? 以前に神谷に説明したってことは仕事教える必要ないのか。
なんだ、じゃあ話さなくていいのか。
全く何が不安だったんだか、なんも問題ないわ。
そう考えていると図書室の扉が開いた。
さっそく誰か本借りに来たのか?
「相馬くんごめん、遅れちゃった」
入ってきていたのは神谷だった。
まぁ当然といえば当然だ。
図書委員なんだから来るのが当たり前、来ない方がおかしい。
けど実際は来てほしくなかったんだよな。
なんか平然と話しかけてきてるし。
遅れて謝るのは礼儀正しいと思うけど今回は別に遅れてないんだよな。
ちょっと先生と会話した時間くらいしか遅れてない。
約束云々なくとも、そんなことで話しかけないでもらいたい。
俺が無視をしても神谷は笑顔でいる。
なんか不気味だな、いつもならちょっと不機嫌になるじゃないか?
いやわかんねぇわ、こいつ平然と演技するからほんとわからん。
「それが整理する本?」
これも無視をすると今度はよく見ると口元がちょっとムッとなっていた。
へー、演技しててもやっぱ本心って出るのか?
ってなんで俺神谷のことよく見てんだよ。
仕事しろ、仕事。
っていってももう貸し出しの受付だけなんだよな。
今回は本の整理ほとんどないみたいだし。
適当に本を取って受付のところに座って読む。
神谷も隣に座ってくる。
鞄からノートを取り出してきた。
ここで勉強するのか、意外と真面目なのか。
そう思っていたけどなんか書いてノートをトントンしている。
チラッとだけ見てみる。
興味はないけど見ないとずっとトントンしてそうだよな。
『ゴールデンウィークの予定いつ話す?』
あー、その話しなきゃダメなんだよな。
これ無視したら多分強制的に連絡先交換させられるんだろう。
これにはもう逃げ道ないな。
俺が読んだことに気づき神谷がノートをこっち側に寄せてきた。
話しかけちゃダメだから筆談ってこと?
お前最初に平然と話しかけてたんだけど。
まぁ図書館で大きな声出されたら困るから筆談でいいけど。
なんなら俺のノートじゃないしね。
『今でいい』
書いて神谷に見せる。
神谷が反対側のページに書き始める。
『じゃあ話すけど、勉強教えてほしいんだよね』
『お前勉強できねえの?』
『仕事あるからで本当はできるから』
『あーはいはい。そういうのいいから』
「この本借りたいんですけど」
俺らが筆談していると本を借りたいという見知らむ男子生徒が来た。
その男は神谷の方に向かって本を出していた。
神谷に向けて出してんだから俺が対応するのも変だと思っていると神谷が何やらノートに書きだした。
この状況でまだ筆談すんのかよ。
『相馬くん貸し出しってどうやるの?』
あ、そうだ。
仕事の内容自体は教えたけどやり方については教えてない。
これでなんでできないんだよとか言ったらそれこそ嫌な上司だ。
この男子生徒くんは神谷に本向けてるけど今回だけは俺が対応しよう。
「はい、返却は二週間後で」
そう言い本の裏に貼ってある紙に返却する日付を書いて男子生徒に返す。
男子生徒くんはちょっと残念そうにしながら本を受け取って出ていった。
なんだ? 借りたい本がなかったのか?
まぁそういうときもある、その本で我慢してくれ。
『相馬くんちゃんと仕事教えて』
『今見せた通りやればいい』
『ちゃんと教えて』
ちゃんとってところをしっかり大きめに書いている。
教えなきゃダメか?
貸し出しは今やったことだけだから見たまんまやってくれればいいんだけど。
返却も日付確認して返却の判を押して受け取ればいいだけでもし超えてたらちゃんと期日通りにとか言うべきだろうけど俺は帰ってきてるから気にしてないんだよな。
まぁいいか、見るだけより説明した方がわかるだろうし。
『貸し出しは本の裏にある紙に返却日を書いて渡せば終わり。返却期日は二週間。返却されたのは受け取って日付確認して目の前の判子押すだけ』
説明だと書くのだる。
なんでこんな長文書いて説明しなきゃなんねぇんだよ。
マニュアル置いとけ、マニュアル。
『それだけ?』
『それだけ』
っと、早速来たな。
こいつも神谷に本向けてる。
まぁ元から神谷にやらすつもりだったから手間が省けたようなものだ。
「貸し出しですね、えっと」
神谷が日付を書いているが、アホだろこいつ。
二週間後とは言ったが今日の二週間後はゴールデンウィークで休みなんだから返却は休み明けだろ。
休日を期日になんてしないだろ。
これ俺の説明不足かな?
神谷がそのまま渡そうとしていたので止めて訂正だけしておいた。
「返却はこの日までにお願いします」
神谷が本を渡し初めてのお仕事を無事にやり遂げました。
まさかそのまま休日で書くとは思ってなかった。
今回は神谷一人でやり遂げたわけではないな。
『日付休み明けって説明されてない! ちゃんと教えてって言ったのに!』
ですよね、怒られるよね。
別にわざとではないんだけど滅多にないから言い忘れてただけなんだよ。
ほんとに怒られてるかは声出してないし顔も見てないからわからんけど。
顔見たとしてもわからんだろうな、演技よくするから。
『今教えたから今度から気をつければいい』
『もう、ちゃんと気をつけてよ』
気をつけるのはお前だよ。
と思ってると、また一人来た。
なんだ? 今日は多いな。
いつもはもっと少ないはずなんだけど。
こいつも神谷に向けて本を出している。
まぁ新人の教育には丁度いい。
今度こそしっかりやってくれよ。
「貸し出しですね」
本を受け取り正しく日付を記入でき本を返す。
「この日までに返却お願いします」
やればできるな。
こんな簡単なことをまた失敗したらどうしようかと思ってたわ。
受付を終えた神谷がまたノートに書き始める。
『ゴールデンウィークの予定』
と書いてる途中でまた貸し出しの人がきた。
今回も神谷の方なのでできるようになったので任せることにした。
神谷が対応していると、また人が並びちょっとした列になり始めた。
結局ゴールデンウィークの予定を聞けず先生が来て図書室を閉めるまで続いた。
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