第1話転校生

今日、俺が新たに二年生になって最初の始業式を迎えている。


校舎に入る前にクラスを確認していかなければならない。

大抵の学校は学年が上がるたびにクラスが変わるだろう。この明星みょうじょう高等学校も同じだ。

だからしっかり確認しておかなければ恥をかくことになる。

ぼっちの俺はそれだけは避けなければならない。


相馬相馬っと、あったあった。今年は1組か。

誰とも関わらず空気のように過ごす俺にとって、どのクラスでも大して変わらないだろう。


下駄箱に行き靴を履きかえる。

靴を入れる場所が出席番号順で並んでいて、俺の場所は一番低いとこだった。

靴を入れるときに屈まなければいけない場所だ。

これを毎回するのは億劫だな。


階段を上り自分の教室を目指す。二年の教室は三階で一年の時より一つ下がって楽になっている。


教室に入ると黒板に座席表が貼られているので確認しに行く。

俺の座席は窓際最後列……の左隣りだ。


まぁ相馬そうまという名字だから窓際最後列はないだろう。

あそこはカ行までの連中のものだ。サ行では中々踏み入ることを許されない。


席につき一息つくと周りから声が聞こえる。


やれ、誰々と一緒で安心した。やれ、誰々と離れちまったよ。

どうだっていいことを周りに聞こえる声で喋るな。


このクラスは騒がしい。

皆が落ち着きなく喋っている。


そんな時教室に入ってきた奴が今までで一番の声量で喋った。


「このクラスに転校生が来るらしい」


「マジ?今日から?」

「男と女どっち?」

「転校生来るクラスとかマジラッキーじゃん」

「何かもっと情報ないの?」


転校生というワードだけでクラス中の全員が色めき立ち余計に騒がしくなる。


たかが転校生でなんだって言うんだ。

お前らどうせブサイクだったり、面白くなかったりすると途端に興味なくすんだろ。

勝手に期待されて勝手に落胆される身にもなれよ。


「俺ぜってー転校生と仲良くなる」

「あ、私も私も」

「お前らじゃ無理だろ」


転校生の興味はいまだ尽きることがないようだ。


「つーか、転校生の席ってどこなんだろうな」

「それ気になるー」

「席近いと仲良くなるチャンス多いよな」

「それだわー頭いいわー」


全然頭よくねーわ。誰でも気づくだろそれぐらい。


「はい、席につけ」


と、そこで教室に入ってきた担任の菅谷すがや先生が席につくよう促す。

それにより先ほどまでうるさかったクラスメイト達が席につき始める。


全員が席についても窓際最後列、つまりは俺の隣の席だけが空いていた。

これはまさか――


「お前らも知っているだろうが、今日うちのクラスに転校生が来ている」


「おおー、やったぜー」

「先生、男? 女?」

「はやく会いたーい」

「ヘイ、転校生カモン」


先生の一言により先ほど静かになったクラスメイト達がまた騒がしくなった。

最後の奴はテンションおかしくなってねーか?


「あーうるさい落ち着け。ほらお呼びだ、入れ」


先生が入れというと扉のところで待っていたであろう転校生が扉を開けて入ってきた。


転校生が入ってきてクラスメイト達は彼女を見て固まっていた。

俺も一瞬見惚れたほどである。そう一瞬、あくまで一瞬だけだ。


その見た目は肌が透き通るような白さで身長は女子にしては高め160センチ超えくらいだろう。セミロングの髪は茶色に染まっており、スカートから見える脚は細い。けれど程よい肉付きをいている。モデル体型というやつだろう。


「今日から転校してきました、神谷紗菜かみやさなです。女優をしてますがこの学校に通ってる間は皆さんと同じ普通の学生です。気軽に仲良くしてください」


そう言い終わると神谷は檀上でお辞儀した。


その所作一つ一つが綺麗で洗練されていた。

さすが女優だな。これも演技のおかげなのだろうか。


そしてクラスメイト達も徐々に復活していっていた。


「うおおー、美少女きたー!」

「すっごいかわいい!」

「ていうか女優!?」

「やばすぎ! やばすぎ!!」


復活した途端騒がしいなこいつら。神谷だってこれだけ騒がしいと困っているように見える。


「おい、お前ら静かにしろ」


そう言っても美少女人気女優が来たということでクラスメイト達のボルテージは中々収まらない。


「……はぁ、神谷の席は一番後ろの空いてるとこだ」

「はい、わかりました」


先生がため息をつきつつもしっかりと神谷に席を伝えている。


その席は窓際とは言ってないけど一番後ろで空いているのは窓際、俺の隣だけだ。


ほら、神谷がこっちに向かってきてる。


「お隣だね、よろしく」


そうして笑顔を作った神谷が俺に向かって話しかけてきたのであった。

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