俺はゲイでもバイでもない!サディストだ!

紫蛇 ノア

第1話

SM系BL作家と知られる古谷麗子の部屋では毎週金曜の夜になると、甘々とした声が聞こえる。


「麗子、来い。」


嗜虐心たっぷりの視線で彼女を視姦し、花宮千景は恍惚とした視線を向ける古谷に命ずる。


古谷はじゃらりと足枷を鳴らしながら花宮の元へと行こうとする。

しかし、足枷は女性の身に重く、這いずるように花宮の足元へと辿り着く。


期待した目を向ける古谷に蔑みの視線を向けた花宮は、じゃらりと彼女に着いた首輪の鎖を無理やり持ち上げる。


「さぁ、さっさとこの服を着てください。この意味、貴女のエロばかりの脳みそでも当然分かりますよね」


「………」


羞恥に染まる頬。囀りをとめる薄い唇。


花宮の命令はいつも唐突だ。彼の手には、ぎりぎり局部が隠れるような際どい服が握られていた。


「僕は頑張ってる人が好きなんですけど。だから頑張れますよね?」


にっこりとした花宮の微笑みに気圧され、彼女はそれを受け取った。首を引き上げられたまま、急かす花宮の言葉に従ってなんとか着ることができる。


古谷は褒めるように鎖をさらに引きあげて、その額に口付けた。


花宮はビジネスバッグから目だけを隠す仮面を取り出し、強引に彼女の頭に付けた。これは、彼女が古谷麗子だとバレないようにという最低限の配慮だ。


彼女の鎖を引っ張ったまま、花宮は冷え切った夜の世界へ彼女を連れ出す。


彼女が風邪を引かないように、一定の配慮をしながら、公園へと向かった。


花宮に連れられた古谷も、笑みを浮かべている。


どちらの笑みも、傍から見れば歪んだ笑みかもしれない。


この愛は、傍から見れば歪んだ愛かもしれない。


だが、彼と彼女はこれで満たされている。


花宮が彼女の担当編集だった頃に頼まれたこの趣味は、今は愛となって続いている。


編集からドSの女王様と呼ばれる彼女は、この夜だけはドMの雌豚と化し、花宮の言葉を喜んで受け入れていた。

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