出どころ不明の食事より、自分の出したゴミ
案内された宿の一室に入った瞬間、ジュラールはこの後の展開が予想できた。この後訪れるであろう出来事がどちらになるかを考える。考えられる展開としては大きく2つ。1つ目は同行者が許容し、そのままにするパターン。もう1つは、
「……信じられない。これが人に提供する部屋?」
どうやら2つ目の展開らしい、と背後から感じられる冷気に身を震わせながら、この後なにを指示されるのかを考える。この程度であれば、宿主に怒鳴り込むほどではないし、しばらく外を歩いておけ、だろうとあたりをつけ、荷物を下ろす準備をする。
「ラル。ちょっと掃除するから。何か晩ご飯買ってきて」
やはりそちらだったかー、と旅行の際には持ち歩いているイヴ専用の清掃道具一式を背中からおろし、この宿に来るまでに見かけた店のラインナップを頭に浮かべる。このあたりなら、溶岩焼きが名物なので、溶岩焼きは外せない。あとは副菜に2品ほど欲しいところだが、この場では適切なものが思い浮かばない。直接店を眺めて決めようと決心する。
と、そこでふとした疑問が浮かんだ。
「そう言えば、俺の物置は大丈夫なのか?」
「え?」
「いや、俺の物置も結構汚いは汚いだろう?けど、俺が物置で作業しててもイヴはあまり関係なしで入ってくるじゃないか」
旅行先で神経質なほどに掃除する姿は度々みるが、家で過ごしている時に、ジュラールに掃除をしろとうるさく言うことはこれまでなかった。その差はどこにあるのだろう、と不思議に思う。
「例えばだけど、ラル。すごく美味しそうな食べ物が道に置かれてたとして、食べようと思う?」
「またいきなりだな。……まぁ、思わないな。どうしてそこに置かれてるかわからないし、そもそもいつから置かれてるかも、何で作られてるかもわからない」
「じゃあ、その食べ物が、私が料理するところから、置くところまで、一部始終全部見てたら食べようと思う?」
「そうだな。どうしてそこに置いたかは気になるが、食べてもいいぐらいには思うかな」
少なくともどこの誰が置いたかもわからないようなものよりは、食べようという気になれる。
「つまりはそう言うこと。確かにラルの物置は汚いけど、ラルが定期的に物を放り込んでることを知ってるし、全部ラルが置いたものだってわかってるから掃除してとは言わないの。それに私が頻繁に足を踏み入れるところじゃ無いし」
「おいいまサラッと本音が出たぞ」
そもそも、いつからここまで掃除をするようになったのだろうか、と記憶を遡るが、これといってきっかけになるようなものが思い当たらない。覚えている限り、出会った瞬間から頻繁に掃除をする、というわけではなかった。
「いつからそこまで掃除にこだわるようになったっけ?」
「私もはっきりとは覚えてないけど、一回焼け落ちた城の中に殴り込みかけたことがあったでしょ?」
言われ、該当する記憶を手繰り寄せる。該当するものは幾つがあったが、焼け落ちた、というのと、イヴと共に乗り込んだのであれば一件しかない。焼けてからそれなりに時間の経った場所で、それでも乗り込んだのは、勇者召喚の痕跡を探しての事だ。
「確かにかなり煤もあったが、あれ以上に汚い場所にも行っただろう?」
具体的には王都の地下水道や毒沼。後は海岸にあった塩の町もジュラール的には清潔とは言い難い。それらに比べると、消火され、煤にまみれた場所にはそれほど汚いという感覚はない。
「あ、私も別に煤まみれとかはどうでもよかったんだけど、そこじゃなくて。捜索してる時に、埃だと思ってたのが、髪だったのね。慌てて投げ捨てたんだけど、どうにもそっから寝泊まりするときは最低限掃除したくなって」
そういう経緯があったのか、と納得する。
「ま、結局誰が触ったのかわからないところが落ち着かない。何が落ちてるかわからないようなところで寝泊まりできないだけだから」
そう言って、掃除道具を手に取り、本格的に掃除を始めるイヴ。ジュラールも、夕食を調達するべく宿を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます