第783話 変貌した村

 自動操縦の飛行島は昼夜問わず飛び続け、気がつけばピッキー達の故郷上空にいた。

 思えばあっという間だった。飛行島は速い。

 飛行島の庭に備え付けた地上を見る魔導具……テレビのようなそれに皆が集まっていた。


「間違いないんスよね」

「そうだな。上空から見ているのもあって、イメージが違うだけかもしれないぞ」


 オレたちは困惑していた。

 サムソンが自信をもって進んだ目的地は、上空からみると予想外に大きな集落に見えた。

 集落というより、広大な畑をもつ街。


「いや、間違いないようですよ。下に広がるのはロンボ村ですね」


 困惑して対応を話し合っていると、イオタイトが言った。


「思ったより大きな村だったんスね」

「いえ。すこし飛んで様子をみてきましたが、どうも広くなったのは最近のようです。危険はなさそうなので、降りてもかまわないかと」

「ですが、飛行島は大きいですし、リーダは王子なので……いきなり降りるのはやめたほうがいいと思います。思いません?」


 確かにカガミの言う通りだな。

 飛行島の一部を降ろすにしても、どこに降りるのがベストかわからない。

 一応、オレは王子だしなぁ。お偉いさんが、いきなり村のど真ん中に降り立つのは迷惑だろう。先方の心の準備的に。


「おれっちが、先触れに行きましょうか?」

「玄関から、こんにちはでいいじゃん」


 どうしようかと考えていると、ミズキが魔導具に映る村の一部を指差した。

 それは門だった。


「そうだな。前回と同じように海亀にのっていくか」


 ミズキの案を採用することにした。

 海亀の背に小屋を乗せて、そこに皆で乗り込んで、門から村に入ることに決める。

 立派な門だ。門番くらいはいるだろうし、取り次いでもらえるのではないかと考えた。門から入れば、先方も準備など可能だろう。

 今更だけど、先に手紙くらい送っておけばよかったな。


「海亀の背の小屋に入るのって、久しぶりだよね」

「すごい! 広々としていると思います。思いません?」

「あぁ、それなら王都の魔導具大工から、素材を分けてもらったからな」


 海亀の背に乗せた小屋は新バージョンになっていた。レイネアンナに、ハイエルフの双子、メンバーは旅をしていたときより増えたが、それを補ってあまりある広さだ。

 豪華な小屋に皆で乗り込み、小さな飛行島を使い地上に降りる。

 フラケーテア達双子のハイエルフによって、魔法がつむぐ植物の網にくるまれた海亀が、飛行島に吊される形でじんわりと降下していく。

 編み目ごしに外を眺めると、飛行島がすごい高度を飛んでいたことを実感できた。


「出発進行!」


 目的地から少し離れた場所に降り立つと、ピッキーが掛け声をあげて海亀が出発する。

 出発進行の掛け声を聞くと、なんだか昔を思い出す。

 久しぶりになる海亀での移動に、同僚達も懐かしさを感じたようで、皆が小屋に引きこもることなく、外にでて揺れる景色を楽しんでいた。

 それはノアも一緒だったようで、目をキラキラとさせ外を見ていた。

 もっとも、海亀の小屋で進む時間はすぐ終わる。


「もうすぐ到着です」


 ピッキーが声をあげた。楽しい時間はすぐ過ぎる……というより、目的地の近くで降りたからなのだが、少し物足りない。

 それだけ海亀の小屋で進む時間は楽しかった。それはノアも同じだったようで、なんだか到着して残念そうだった。

 目的地であるピッキー達の故郷。以前は無かった木製の壁が張り巡らされ、固く閉じられた門には門番が数人いた。全員がピッキーと同じ種族だ。つまりレッサーパンダの獣人。鍋のような兜をかぶり、質素な槍を構えている門番達はどこかコミカルな印象だ。

 そんな彼らが守る門は立派だ。本当に、前とは印象が違う。大きな変貌だ。


「ピーッ!」


 そんな立派な門にたむろしていた門番の一人が、オレ達を見つけるやいなや笛を鳴らした。


「ど、どうしましょうか?」


 いきなりの対応に困惑したピッキーが指示を求めてくる。


「一旦停まって、様子を見よう」


 少しだけ様子を見ることにした。

 敵対的な行動というわけではないが、どうにも妙な動きが気になった。笛を鳴らした門番は、ピーピー笛を吹きながら右往左往するばかり。

 他の門番は槍をほっぽって、集まって相談を始めている。


「なんだか面白そうだよね」


 ミズキがヘラヘラ笑いながら、混乱している門番を眺め言った。

 最初こそ、オレ達も緊迫感をもって見ていたが、すぐにどうでも良くなっていた。


「もう、進んでしまおう」


 埒があかないので、海亀で近づく事に決めた。

 向こうも戦う気は無さそうだ。もめ事があっても、今のオレ達なら対処可能だろうという判断だ。

 ところがそんなことは無かった。


「どうします、リーダ?」


 カガミが困った顔でオレを見た。

 大抵の事は対処可能だと思っていたが、予想外の反応には考えが追いつかないものだ。

 門番は、オレ達が近づくと、そろって土下座して頭を上下する。

 オレ達をみて、すぐさま地面を見る。ゆっくりとしたペースで、オレ達と地面を交互にみる様子はまるで拝んでいるようだ。


「あの……オイラは、ノアサリーナ様の従者で……おうちに帰ることにして……」

「英雄様だ。英雄様だぞ」


 ピッキーがおずおずと門番に声をかけるが、門番はそんなピッキーに対して妙な事を言いながら態度を変えようとしない。

 だけど、そんな状況もようやく終わりを告げた。

 固く閉じられた門が、内開きにギギっという音をたて開いたのだ。


「あっ、父ちゃん!」


 ピッキーが安堵の声をあげる。

 開いた門の向こうに、彼の父親がいた。それからカラフルなシルクハットを被った……村長と屈強な護衛がいた。

 ともあれ、これでこの妙な状況から解放……。

 少しだけ安堵し、余裕が出来たときだった。


「ちょっと、リーダ、あれ!」


 ミズキが門の奥に広がる村の一方を指さし声をあげる。

 なんだろうと彼女が示す先をみる。


「あっ」


 そこに、予想外の代物を見つけた。

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