第700話 はーもにー

 超巨大ゴーレムをみて満足したオレ達は、村人からの歓待をうけて、夜を過ごした。

 カガミは遺跡の研究について熱心に聞いていた。

 サムソンは、超巨大ゴーレムの資料をヒンヒトルテからもらってご満悦だ。

 オレは、村で作っているという漬物が大いに気に入っていた。

 翌日、村を後にする。名残惜しいが、やることもあるし、気になるならまたくればいい。

 村を出発して数日、行きと同じで平和な日々が続く。

 ノアは超巨大ゴーレムで皆が勢揃いしている絵を描いてすごしている。

 広間で描いている様子をチラリと見ると、ずいぶんと絵が上手くなっていて、完成が楽しみだ。


「あのゴーレム、もしかしたら動かせそうだぞ」

「エアロバイク漕がなくても?」

「俺達は、大量のミスリル銀をもっているだろ? あれを使えば、出来そうだ」

「へぇ。じゃあさ、超巨大ゴーレムで魔神も倒せるかもね」

「勇者の軍がありますし、でも、お手伝いはできると思います」


 帰りの話題はもっぱら超巨大ゴーレムの事だ。やっぱり皆、巨大ロボが好きなのだ。

 そんな平和な日々、海亀の背にある小屋を取り巻く柵によりかかり外をみていると、ノアが近づいてきた。


「お土産よかったね」


 ノアは、オレがぽりぽりと漬物を食べているのを見て、笑って言った。


「そうだね」


 笑顔でうなずき、ぽりぽりときゅうりの糠漬けに似た漬物を食べる。

 オレが美味しいと食べていたら、お土産にくれたのだ。

 塩のきいた旨味が美味い。

 カガミはピクルス代わりに、ハンバーガーに合いそうだと言っていた。確かに、合いそうだ。ハンバーガー……しばらく食べていないな。カガミにねだろう。あれ、作るのめんどくさいし。


「そういえば、プレインお兄ちゃんが秘密兵器を作っているんだって」

「秘密兵器?」

「そう、秘密なの」


 ノアに言っている時点で秘密も何もないけど……何を作っているのだろう。

 そういえば、昨日もほとんど部屋に閉じこもっていたな。

 サムソンもそうだし、個室が充実すると、皆が広間に集まる時間が減るようだ。

 秘密兵器のことをノアから聞いた夜に、少しだけ聞いてみると、魔導具を作っていると教えてくれた。


「ずっと、自分は何ができるんだろうと試行錯誤してたっスけど。物を作るのが好きみたいで、楽しいんスよ。こんな、手を動かして、作っていく、工作みたいなのが」


 そう語る彼は楽しそうだった。

 好きなことができるのはいいことだ。帰りは平和だし、みんなが好きにすればいい。

 それから数日後、御者台に座り、茶釜に乗るミズキとノアを眺めつつ進んでいるときの事だ。


「ノアちゃんとミズキ姉さん、あっ先輩も、ちょっと来て欲しいっスよ」


 小屋の窓から身を乗り出したプレインから声がかかった。

 広間へといくと、テーブルは片付いていて、A4サイズで辞書くらいの厚みがある箱が置いてあった。それは中央にチューリップが描いてあり、その周りには色違いのビー玉に似た宝石があつらえてある木箱だった。


「できたっス」

「秘密兵器ができたの?」

「そうっス。秘密兵器」


 ノアの質問に、プレインが笑顔で答える。

 彼が箱を手に持って、ノアに向かって少しだけ傾けると、小さく音が鳴っていることに気がついた。


「あっ、これって」

「ちょっと見てくれは悪いっスけど、全部の機能をつめこんだ。ノアちゃんのための魔道具……名付けてハーモニーっス」

「私のための?」

「というより、皆のための魔道具っスね。神様の音楽を奏でて、それから空気が綺麗になって、ノアちゃんが使うと星降りまで使えるんス」


 少しだけ考えた後、ノアの質問にプレインが答える。その様子から、呪いの中和については、実装しているがノアには言わないつもりだと気がついた。そのあたりは、後で詳しく聞けばいいかな。


「前に言っていた他の機能は?」

「それもばっちりっス。詳しくは資料をまとめてるっスよ」


 そう思っていたら、サムソンがノアをチラリと見て質問を重ねた。

 プレインが静かに微笑み頷く。呪いの中和も大丈夫らしい。


「ところで、ハーモニーってどういう意味なんだっけ?」

「和音って意味っス。もともとは昔の言葉で、調和とか一致なんて意味らしいっスよ」

「いいね。じゃ、沢山作る方法と配ることも考えなきゃな」


 そこで話は一旦おしまい。

 やはり、後でプレインに聞いたら呪いの中和についても実装されていた。

 ミズキはもうすこし見てくれをよくする方法を考えているらしい。

 その日の夜、広間で夕食を食べている時、これからの話になった。


「帰ってからのことになるが、究極を超える究極の製作のことだ。現状は、すでに究極を超える究極は完成している。だけど、現実的ではない数の積層魔法陣なので、サイズを縮める努力をしてきた。ここまではいいか?」

「え? 完成してたんスか?」


 プレインが驚きの声をあげる。なんとなく、一通り動くものができているとは思っていたが、完成していたのか。

 カガミは知っていたのか冷静に頷いていた。


「あぁ。プログラムとして見れば、動く。だが、今のままでは現実的な量じゃないから、手作業で無駄を省くアプローチをとっていた」


 それは当初の打ち合わせ通りだ。

 まずは動くプログラムを作る。それから、テストを繰り返しつつ、現実的なサイズに落とし込む。最初に決めた方針は今でも間違っていないと思う。


 サムソンが「帰ってからの予定だが」と前置きして言葉を続ける。


「手作業でサイズダウンすることには、限界があると思う。そこで究極を超える究極は一旦置いておいて、開発環境の強化を優先したい」

「でさ、結局のところ、魔法の究極ってそのまま書いたら何枚?」

「112,008,748枚」


 夕食の鍋をつつきながらミズキが何気なく質問した言葉に、サムソンが即答した。

 いちいちに……あとなんだっけ。

 さらりと言われたので分からない。

 大きな数だとは思うけれど。


「え? 一億?」


 その言葉の意味をきちんと理解していたのは、カガミだけだった。

 他の皆が首をかしげる中、彼女が大きな声をだす。


「いまのままではゴミの部分が多いから、数が膨れ上がる」

「ゴミ……ですか?」

「パソコンの魔法は、基礎魔法陣の存在を想定していないからな。基礎魔法陣は、なんというか独特の形式をしたモジュールで、いろいろと使いづらい。だから、パソコンの魔法に、基礎魔法陣の中から必要部分のみ取り出して、再構築する仕組みを入れないと、無駄な部分が沢山ある魔法陣が作成されてしまう」

「えっ? でもさ、魔法の究極は? 魔法の究極もそうだったの?」

「あっちは手作業でなんとかなったが、究極を超えるやつはだめだ。いままで手作業でやってきて、ちょっと見直してみたが、あと何年もかかりそうだ。かといって、屋敷の地下にあるバグだらけの魔法陣を、デバッグするのも、つらい」

「だからこそ開発環境の強化……パソコンの魔法を強化って事っスね」

「そういうことになるな」


 矢継ぎ早にされる同僚の質問に、サムソンは的確に答えた。


「その作り直しに、どれくらいの期間をサムソンは想定していますか?」

「1年くらいになりそうだぞ」


 1年か……。


「基礎魔法陣から必要な要素のみを抽出するってやれば、もっと短く作れたりしないっスか?」

「プログラミング言語から、魔法陣へのコンバート部分だけを効率化できると思います」


 やはり1年という期間が気になるのだろう。プレイン、カガミが、別の案を出した。


「1から作ったほうがいいと思うんだが……」

「とりあえず、安全に早い、そんな手段を検討しよう」


 少しだけ考えたが、時間が惜しい。

 ということで、作業時間の見積もりをしてから、どういうアプローチで進めるかを決めるという方針にした。

 いずれにせよ、サムソンとしては、究極を超える究極は1万枚程度の積層魔法陣に落とし込みたいらしい。

 それでも1万。究極を超えるというだけあって、やはり道は険しい。

 食後になっても皆の話は続き、最終的にちょっとした会議になった。その成果としてメモ書き程度ではあるが計画書も出来上がった。


「何度考えても、やることは一杯だな」


 話し合いから数日後、オレは小屋の屋根に寝そべってつぶやいていた。

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