第679話 ひかりのしめすさきへ
あたりの風景は見たことがあるものだった。
真っ黒い静かな空間で、床は格子状に青白い光が走っていた。
かってイ・アと戦った場所だ。
「違う……」
再びノアの声が聞こえた。
何が起こっているのかわからないまま、声のした方向へと走っていく。
走り進んでいくと、人影が見えた。
「リーダ」
見たことのある人物だった。向こうもオレを認めて声をあげた。
赤髪のノアを大人にしたような女性。それはレイネアンナだった。
涙目の彼女は、走っているオレに近づいてきた。
「リーダ様! ノアが、ノアが……」
縋るような仕草でオレを見上げ、涙声の彼女が訴える。
「ノアがどうしたんだ?」
「リーダ……様……、ノアを助けて……お願い」
「そのつもりだ。レイネアンナさんも、一緒に……」
一緒に助けに行こう。
オレがそう言いかけたとき、レイネアンナは消えた。
「ノア!」
代わりに視線の先には、ノアがいた。ノアは魔物に襲われていた。
もう、先ほどからわけがわからない。オレの意思などおかまいなしに次々変わる光景に混乱しっぱなしだ。
だけど、悠長なことを言っていられない。
魔物に取り押さえられているノアを放置するわけにいかない。
それにしても、あれは……ゴブリンか?
ノアを襲っている魔物は奇妙なお面をしていた。
お面は写真のように精巧な絵が描いてある。血の涙を流している女性の絵だ。ちょっとしたホラー映画にでてきそうで怖い。
加えて、お面をしたゴブリンには小さな羽が生えていた。そんな3体の奇妙なゴブリン。
1匹がノアにのしかかり、残り2体は様子を伺うように、そばに立っていた。
「ノアちゃん」
ノアを挟んでオレの向かいにはサムソンがいた。彼も走ってノアへと向かっている。
「ぎゃぎゃっ」
そして、ゴブリンの一匹が倒れる。
オレやサムソンとは別方向からやってきたミズキが剣を投げたのだ。
剣はゴブリンの体に深々と突き刺さり、ゴブリンが倒れる。
そこでノアは初めてオレ達が近づいている事に気付いたようだ。
「皆!」
ノアが声をあげガバリと起きて、自分にのしかかったゴブリンを突き放した。
「ノアちゃん! 今行くから!」
そして、これまた別方向からノアへと向かっているカガミが叫んだ。同僚達は別々の方向からノアへ向かい駆けていた。
オレも負けてはいられない。ラストスパートとばかり必死になって走った。
武器を用意する必要は無い。
相手はゴブリンだ。蹴り飛ばしたほうが手っ取り早い。
走る勢いを乗せて、ゴブリンの顔面を蹴り飛ばす。
サムソンも同じ事を考えたようだ。タックルしてノアからゴブリンを遠ざけた。
こうなれば後は楽勝だ。
あっという間に、ゴブリンを蹴散らすことができた。
「ノアノア、平気?」
「……うん」
ミズキの問いにコクリとノアは頷いた。怪我がなくてなによりだ。
「つか、ここって、夢の中か?」
「やだよ。夢ならさ、もうちょいまともでないと」
「どうやって、この場所から出れば……皆と合流しないとまずいと思います。思いません?」
状況が落ち着いたのを見て、皆が現状について口にする。
「そうだな」
早くハロルドと合流しないといけない。ここに来る直前までセ・スと戦闘中だったのだ。
だけど、問題はなさそうだ。
少し離れた場所に、細長い光の柱が立っていた。
「あれだ。あれに飛び込め!」
前回の経験を生かして、皆に指示を出す。
「うん」
ノアが真っ先に返事して、光の柱へとかけていく。
それにオレ達も続く。
ところが……。
「ぎゃっぎゃっ」
ゴブリンが鳴き声をあげ、足をバタつかせ近づいてくる。奴らはまだ生きていた。
殴りつけるくらいでは完全に倒せないか。
「あいつ、剣が刺さったまま向かってきているぞ」
「多分、死に忘れだと思います」
死に忘れ。死ぬ事を忘れた魔物。
何度倒しても復活してしまう、そんなしぶとい魔物だ。
「皆、先に行け」
とりあえず相手はゴブリンだ。オレだけでもなんとかなる。
こんな場所よりハロルド達の方が心配だ。
「リーダ、あのね」
「なんだい?」
「ううん。なんでもない。でも、絶対、あいつを倒さなきゃ」
オレの言葉に、頬を涙にぬらしたノアは微笑む。
そして、光の柱へと向かって駆け込み、消えた。
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