第672話 のこりふたり

 すぐに飛行島の端、ギリギリまで駆け寄りミランダを注視する。ミランダの背後にローブ姿の人影があった。

 そいつの伸ばした腕により、ミランダは背後から胸を貫かれていた。

 囮だとわかっていても、リアルな姿をしたミランダの傀儡が壊される瞬間にギョッとする。

 だが、狼狽えるばかりではない。敵の存在は予想していたことだ。

 計画通りに、皆が出現した敵への対処へと動く。

 最初に反撃したのは当の本人、ミランダだった。

 傀儡のミランダは、大きく膨れ上がり、氷の塊となって彼女の背後に立っていたローブ姿を包み込んだ。

 続いて、あたり一帯が明るくなる。はるか頭上から強い光が降り注いでいるのだ。

 それは氷漬けのローブ姿を照らす。


「スライフ!」


 何をするのか知らないが、打ち合わせ通りに動く。

 ノアはハロルドの呪いを解き、ミズキは茶釜に乗って周囲を警戒する。

 オレはすぐさま黄昏の者スライフを呼び出し、敵をタイマーネタで狙撃するのだ。

 ミランダとオレの攻撃はほぼ同じタイミングになった。

 ほんの少しだけ先行したのはミランダ。


『チュゥン』


 甲高い電子音に似た音がした。

 ローブ姿を照らした光は収束し、光線となって奴を焼きつくさんとする。

 一瞬でローブ姿を拘束していた氷は蒸発し、苛烈な光は飛行島を撃ち抜く。

 だけど、その凄まじい破壊力でさえ敵には無力だった。

 ローブ姿は上を向き光を浴びて平然としていた。見上げた拍子にパサりと脱げたフードから、水色の髪をした端正な顔立ちの男が見えた。彼に叩きつけられた光線は、飛行島を貫く。だけれど彼は、微笑み平然としていた。

 それだけで只者ではないことがわかる。それに気配でわかる。アレは人間では無い。

 油断はしない。


「ラルトリッシに囁き……」


 即座にタイマーネタ使い、その超威力で追撃を行う。


『ドォォン……』


 爆発音にも似た轟音を響かせ、黄色い光線が敵を飲み込む。


「当たった?」

「いや、ダメっス! 誰かが横から、あいつを突き飛ばして助けたっスよ」


 オレの言葉に、プレインが反応する。


「しかし、全てが無駄ではない。助けに入った者は消失した」


 続けてスライフが言葉を付け加える。

 敵は3人。1人を消せたか。


「じゃあ、あのローブ姿はどこに?」


 オレの独り言。その答えは、直後にでた。


「そうか。タイマーネタか……。ラルトリッシに囁いた事は少々意外でもあり、納得いく答えでもある。さて、私の姉であるイ・アを殺害したのは君達で相違ないな?」


 オレの視線の先に奴はいた。水色の髪で目を隠した男だ。

 彼は空中に見えない床でもあるように立ち、静かに問いかけてきた。無機質で抑揚の無い少年の声だ。

 その問いに、オレ達は誰も答えない。答えることなく、オレ達は攻撃を続けた。

 初撃はミランダ。再び上空から光線で攻撃する。

 先程は無防備に受けたように見えたが、どうやら違ったようだ。

 彼は光線を振り払うように手を振った。その動きに連動するように、光線はぐにゃりと曲がり彼の体を避ける。

 続けてオレはタイマーネタを放つ。

 だが、タイマーネタから放たれた光線は当たらない。

 水色の髪から覗く口元に笑みを浮かべ、彼はフッと消えてしまった。


「消えた?」

「違う、一瞬で移動した! すごいスピード」


 ミズキがオレの言葉に答え、一方を指差す。

 彼女が指差す先、先程の男が空中に立っていた。


「あぁ、失礼。私の姉ではわからないか。私は統一王朝副王セ・スという。姉の名はイ……」


 まるで、何事もなかったように、彼は微笑み言葉を続けていた。

 どういうつもりかわからないが、とりあえずタイマーネタの攻撃は避けるしかないようだ。なら、ちょうどいい。当たるまで連写してやる。

 オレは迷いなくがちゃんとレバーを倒し、次弾を装填する。


「少しは話ができないものかな」


 さらに続く彼の言葉を無視して放つ一撃。

 しかし、またしても当たらない。早すぎて当てることができない。


「今度はどこだ?」

「リーダ!」


 オレが再びミズキに声をかけた瞬間、ハロルドがオレの名を呼んだ。

 さらに、一瞬でオレの側に寄ったハロルドが剣をふるう。


『ガァン』


 響わたる金属音で、初めて奴が接近していた事に気がついた。

 音も、気配も、感じなかった。

 ハロルドがいなければオレがやられていた。


「ヌゥン!」


 ハロルドが大声をあげ、剣を振り抜く。

 奴……セ・スは片手で攻撃を受け止めるも、その威力に押され吹き飛ぶ。

 もっとも攻撃が効いたわけではないようだ。くるりと体を回転させて、オレ達の飛行島の端に着地する。


「まだまだぁ!」


 ハロルドはその行動を予測していたようだ。声をあげ、接近すると再び剣を振るった。

 着地し体制を整える前に追撃を受けたセ・スは両手を突き出し剣を受け止める。


『ガァン』


 再び響わたる金属音。今度は先程とは違い、それだけに止まらない。ハロルドの振るった剣から大量のマグマが吹き出し、セ・スへと襲いかかる。


「今でござる。リーダ!」


 バッとセ・スから離れつつ叫ぶハロルドの言葉で意図に気がつく。

 一瞬でマグマは冷えかたまりセ・スを拘束していた。チャンスだ。


「ラルトリッシに囁き……」


 石でできたバリスタの模型ともいえるタイマーネタの矢じりがセ・スを捉えた。

 そして、そこから放たれる光線が逃げようとするセ・スにぶち当たった。

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