第625話 たべられて、そして

 フル回転している魔導具を、敵にぶつけて壊し、その時の衝撃で魔導具を暴走させてしまう。

 そんなミズキのアイデア。

 それは盲点とも言える、ちょっとした思いつきだった。


「そう言われれば……」

「それだったら、どの魔導具でもいけるだなァ」

「ミズキお姉ちゃんすごい」

「んなら、これをつかうだ」


 次に暴走させる魔導具も、ゲオルニクスが提供してくれた。

 どこからかノームが持ってきたのは、金属でできた鳥の模型だ。

 模型の首をゲオルニクスがひねると、ゴキリと音を立てて淡く輝きはじめた。


「フクロウ……っスか?」

「そうだよ。クロボイヤスの鉄フクロウだ。んー、もう一個入るだな」


 それから、また別のノームが持ってきた鳩の模型をスピーカーの魔導具へ投げ込む。


「これ以上は入らないぞ。これで準備完了……と」

「念には念を入れて、もう一セット作った方がいいと思います」

「そうだな」

「ノームに、早く戻ってきて欲しいよね」


 方針が決まっているからか、皆がリラックスして饒舌になった。

 だから、しばらくは不安なく過ごせていた。


「あっ。また大きな円がでた」


 ところが、いつまでものんびりムードではいられない。

 地図に再び出現した赤い円。

 ノームの報告を待つことなく、ノイタイエルを破壊できなかったと判明したのだ。


「爆発する餌作戦が効かなかった?」

「どうだろう……。俺はノームの報告を待つべきだと思うぞ」


 サムソンの言葉に頷く。

 デコイが上手くいったので、当然のように機雷も上手くいくかと思っていた。

 それはある意味正しく、機雷は当たったかに見えた。

 ところが無傷って事になると、事情が変わってくる。


「さっきの魔導具と、次のヤツだったらどっちが破壊力が上なんスか?」

「今から、こっちの方を上にするだ」


 プレインの質問に、そう言いながらゲオルニクスが地面に魔法陣を描いていく。

 凄いスピードでよどみなく魔法陣を描いていく。


「早っ」

「自動手記の鉄筆を使っている」


 驚くミズキにヒンヒトルテが言う。

 よく見ると、ゲオルニクスは小さな金属製の棒を持っていた。

 なるほど。魔導具を使って描いているのか。

 それから、ノームが数匹、金属製の輪っかがついた箱を抱えて近づいてきた。

 あれは、前にゲオルニクスが背負っていたヤツだ。


「背負い玉座を使われるのか?」

「今ある中で一番強い魔導具だからなぁ。こいつを縮小する」


 そして、ゲオルニクスは、小さくなった魔導具をグッと握った後、スピーカーの魔導具に投げ込んだ。

 一方、再び出現した赤い円はゆっくりとではあるが動き始めた。しかし、随分と円は小さい。先ほどの10分の1ほどの大きさだ。

 地竜よりもやや大きいくらい。

 もしかしたらダメージを受けているのかもしれない。

 それであれば、体当たりされてもなんとかなりそうだ。

 地図に映った赤い円は、ゆっくりとこちらに近づいていた。

 気がつけば、地竜はほどんどいない。

 沢山いた地竜は、いつの間にか姿を消したようだ。

 赤い円がほとんどない大きな地図。

 そんな中で、ジワジワと近づいてくる赤い円が不気味だ。


「場所がわかるんスかね?」

「今までの動き……もしかしたら音で分かるんじゃ……」


 カガミが困惑したように呟いた。

 デコイへの反応などから、音か振動で探知していたのは疑いようが無い。

 だけど、それなら今の動きは不可解だ。

 確かに近づいては来ているが、だからといってオレ達の場所がわかるような動きでもない。

 フラフラと動いた結果、偶然にも近くにいたといった感じだ。


「スピードが上がっていない、俺達の場所は分かっていないと思うぞ」

「どうするべきであろうか?」

「もう一発いっとく?」

「そうしよう」


 とりあえずミズキに頷き、準備済みの次弾を投入することにした。


「今度は、少し大きな赤い円が見えるね」

「ホントだ。ノアノアの言う通り……結構大きい円だね」

「背負い玉座には、魔力を込めただよ。そうじゃないと、暴走しないだ」


 先ほどとは違い、地図にやや大きめの赤い円が表示され、ゆっくりと相手の赤い円に近づいていく。今度は、自分から当たりにいくわけだから、機雷ではなくて魚雷かな。


「てやんでぇ」

「うん。分かってるだよ」


 そして、一足違いで偵察に行ったノームが戻ってきた。

 ノームの声に、ゲオルニクスが頷いている。


「あっ、止まった」


 ゲオルニクスを除く全員で地図を眺めていると、トッキーが相手の赤い円を指さした。


「どうする?」


 相手が止まったのを見て、サムソンが質問をなげかける。

 先ほどから、こちらの意図を外すような動きが不気味だ。

 魚雷代わりの魔導具は、相手をすり抜け進む。

 爆発しないのかと一瞬だけ気になったが、高低差があるのだろうと納得する。


「どうします?」


 今度は、カガミがオレに質問してきた。

 周りを見渡すと、皆がオレを見ていた。

 地図はというと、動かない赤い円と遠ざかる赤い円。それとあと2……いや3つの赤い円。これは地竜だろう。

 地竜と思われる円は3つとも違う方向へと進行方向を変えたので、気にしなくてもよさそうだ。


「ぶつけてしまおう」


 少しだけ悩んだが、予定通りぶつけることにした。

 ゲオルニクスからノームに頼んでもらう。

 動かない的に当てるのは簡単だったらしい。

 ほどなくして巨大な赤い円が出現して、消えた。

 成功したようだ。

 そう思った。


「てやんでぇ」


 だが、聞き慣れた鳴き声と共に現れたノームの報告で、状況が一変した。


「当たる瞬間……ノイタイエルが地竜に変わって、逆に飲み込んじまったらしいだ」


 困ったような表情で、ゲオルニクスが言う。


「地竜に変わった? ノイタイエルが?」

「そうらしいだ」

「それで魚雷を……飲みこんだ?」


 どういうことだ。いきなり妙な展開になった。

 嫌な予感がしてくる。


「もしや、幻術で偽装したのでは?」


 そこに解答を出したのは、ヒンヒトルテだった。

 幻術で、偽装……。つまり、オレ達とは違うタイプの囮。

 しくじった!

 思い違いをしていた。


「ミツケマシタ……」


 オレが自分の失敗に気がついたと同時、静かな声が辺りに響いた。

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