第586話 がっぽがっぽ

「到着」


 飛行島のコクピットに座ったまま、小さく声をあげる。

 無事、飛行島を所定の位置へと着地させることができて一安心。

 着陸は、どうにも気を遣う。


「すぐに、サムソン様とカガミ様に、トーク鳥を送るでち」


 2階の窓から、下をのぞき見ると、チッキーがミズキとノアに宣言していた。


「あと、トッキーと、ピッキーにもね。今日はせっかくだから全員集合しよう」

「わかったでち!」


 チッキーが、トーク鳥を繋いでいる厩舎へと駆けて行く。


「順調っスね」

「あぁ」


 コクピットのある2階から、広間に行くとプレインがいた。

 彼の言葉に頷き、王都での事を思い出す。

 大神殿での話し合いは順調に終わった。

 スライフから聞いた遺跡の場所などを伝え、まずはそれら全てに懸賞金をかけてくれることになった。


「それなりの大金になりますが……、本当に私達は出資しなくても大丈夫なのですか?」


 向こうが計画する懸賞金の額に、思わず聞き返してしまった。


「もちろんでございます。全て心得ております」


 心配するオレが、大神殿で聞いた心強いボルカウェンの言葉。

 遡って使用料を支払うという形で、遺跡に対する懸賞金も全て神殿が出すという。

 オレ達にとっては理想的な話だ。逆に、トントン拍子に進んで怖いくらい。

 神殿での話し合いも。商売の途中経過に関する話も、帰り道も順調だった。

 そんなわけで、特に何事もなく、元いた場所へと戻ることができた。

 神殿での話し合い。そしてその後に確認したマヨネーズとお茶の売れ行き。どちらも順調だ。

 お茶はそれほどでもなかったが、マヨネーズは驚異的な売れ行きを見せていた。

 貴族相手に、獣人達3人が行った営業活動は効果てきめんだったのだ。


「ちょっとしたブームっスね」


 レシピや新作ブレンドのマヨネーズと頑張ったプレインは、特に大喜びだ。

 工房を立ち上げた時に借りた借金の返済などで、十分な金額が手元に残るわけではない。

 それでも商売としては大成功だ。

 今月から、月あたり金貨400枚前後がオレ達の取り分らしい。


「借金の返済は、早めに済ませておきたいんだ。だから、リーダ達への払いは……金貨400枚くらいで許して欲しい」


 王都の外れにある真新しいマヨネーズ工房で、バルカンが言った言葉を思い出す。

 古い建物を改築したマヨネーズだけを作る工房での言葉だ。


「それで十分だよ。利息が高いからな。それにマヨネーズが一過性のブームという可能性もある、借金を優先するのは当然だ」


 借金の返済を優先するため金貨400枚が限界だとバルカンは言うが、とんでもない。十分な金額だ。

 やはり貴族相手の商売は割が良い。

 頑張ったプレインとピッキー達には、ボーナスを支給しなきゃな。

 あとパッケージをデザインしたミズキもか。

 これに加えて、ギリアでのお茶とマヨネーズの売り上げもあるのだ。


「順調だ」


 ロッキングチェアに座り、思わず呟いた。

 王都での出来事を思い返しながら、広間の窓から外の風景を眺める。

 ロッキングチェアに揺られ、順調な進捗を思い出し笑みがこぼれる。

 それに、すっかり見慣れた風景を見ると落ち着く。


「資料集めも、お金儲けも、順調だな」

「そうだよね」

「うん。良かったね」

「本当に。これからは、黙っているだけでお金と資料が、ガッポガッポですよ。ノアさん」

「ガッポガッポ!」


 オレが両手をにぎにぎしながら、ニヤリとノアに笑いかける。

 ノアは少しだけ目をパチクリさせた後、オレの仕草を真似して笑った。

 さてと、これでお金の使い道は……触媒の購入に集中できるな。

 いや、念の為、少し待つか。

 神殿がかけた懸賞金が少なかったら、オレ達が追加したほうがいいだろう。何が起こるかわからないからな。

 そう考えると、資金繰りも、安心せず考え続けたほうがいいだろう。

 さて……後、お金になりそうなのは……。


『ゴンッ』


 痛い。オレがノアに笑いかけ、ふと今後について考えていると、殴られた。


「何するんだよ。ミズキ」


 すぐに振り返り、オレを殴りつけた張本人を睨みつける。


「まったくもぅ。ノアノアに変な言葉を教えないで」

「変な言葉?」

「ガッポガッポ……とかさ」

「そうっスよ」

「ガッポガッポは……ダメでしたか?」

「そうだよ。ノアノア、真似するとこんなダメな大人になっちゃうから、言っちゃダメです」


 ミズキがオレを指さしそんな事を言い、プレインが大きく頷く。

 そんなに酷いか?


「ダメだってさ」


 まぁ、仲間の忠告には従おう。皆仲良くがモットーだ。


「そっか。残念だね」


 ノアは小さく笑って頷いた。

 それから、しばらくはのんびりと過ごした。

 ミズキがトッキー達を迎えに行ったくらいで、わりと暇な時間。


「今日は、御馳走を作ろう」


 ノアの一言をきっかけに、午後は丸ごと晩ご飯の準備をすることになった。

 プレインは狩りに行き、オレとノアは山菜を採りに行く。

 ドライアドのモペアが力を貸してくれるので、沢山の美味しい山菜が手に入る。


「カボゥカボゥ」


 山菜採りから帰宅途中、カーバンクルがノアの頭上を飛び回る。

 木々の高いところにある木の実もカーバンクルが取ってきてくれるので、手軽に沢山の食材が手にはいった。

 ノアに褒められてカーバンクルは大はしゃぎだ。

 逆に、木の実を見つけたにもかかわらず、手柄を取られたロンロは黙っていた。


「じゃ、ボクが料理するっス」

「拙者が肉を焼くでござるよ」


 集めに集めた食材は、プレインとハロルドが料理をする。

 夕暮れ時には良い匂いが漂ってきた。

 久しぶりに全員が揃う一日。


「ただいま……」


 カガミの声を聞いて、ピョンと椅子から飛び降りて玄関へと足を運んだノアの顔が曇る。

 久しぶりに会うカガミの顔は、憔悴しきっていた。

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