第559話 閑話 静かな夜と、お手紙セット(ノア視点)

 ずっと静かな日々が続く。

 サムソンお兄ちゃんやカガミお姉ちゃんは、大学に。

 そしてチッキーやミズキお姉ちゃん……それからプレインお兄ちゃんは王都に出かけることが多いのだ。ハロルドは、新しい訓練がとっても大変らしい。訓練が終わったら、寝てしまう。

 リーダは、毎日帰ってきてくれていたけれど、今日は帰れないらしい。

 お勉強が大変だという。

 だから今日のお食事は、カガミお姉ちゃんと私、そしてロンロの3人だ。

 カガミお姉ちゃんは、そんなにたくさんおしゃべりしないので、お食事はとっても静かだった。


「静かだよね」


 まるで私の心を見透かしたように、カガミお姉ちゃんが小さく微笑みポツリと言った。

 食器の音がカチャリと響く。


「うん。リーダは明日帰ってくるのかな」

「そうね……明日のテストが終われば、リーダは帰ってくる予定だよ」


 テストに合格しなくては卒業できない。

 だから、明日のテストに合格しなくては、リーダは卒業できず困ったことになってしまう。


「明日は、いつ頃帰って来るのかな」

「きっと、夕ご飯までには戻ってくると思うよ」


 少しだけ考えてカガミお姉ちゃんが答えてくれた。


「うん」


 その言葉を聞いて小さく頷く。

 カガミお姉ちゃんとも三日ぶりに会う。

 スプリキト魔法大学では、魔法の研究が大変だという。サムソンお兄ちゃんとカガミお姉ちゃんは研究で大忙しだ。だから学校に行って何日も何日も泊まり込んで研究する。

 とっても大変そうだ。


「早く卒業するためには頑張らないといけないからな」


 サムソンお兄ちゃんがそう言っていた。

 リーダもきっと研究で帰れない日が増えるんだろうな……。


「そうだ。ノアちゃん。お手紙書こうか?」


 静かに食事を続ける私に、カガミお姉ちゃんが提案した。


「お手紙?」

「えぇ。今日は、どんなことやりましたかとか、ちょっとしたことを連絡するお手紙」

「スプリキト魔法大学に送るの?」

「そう。他にもミズキに、プレインくんが、王都にお出かけしている時には王都にも送っていいと思うし……」


 カガミお姉ちゃんが、スプーンを片手に、ちょっとだけ上を見て考える。


「あとね。トゥンヘル様やアロンフェル様にも!」

「そうだね。お手紙送る人は沢山いるね」


 お手紙。

 カガミお姉ちゃんのお話を聞いてぐるぐると考える。

 今日はどんなことをしましたか?

 マヨネーズはいっぱい売れましたか?

 それから……それから……。

 少し考えただけでも書くことをいっぱい思いついた。


「うん。沢山お手紙書きたい」

「じゃあ、ご飯食べ終わったら、お手紙書く準備しよっか」

「準備?」

「そうね。紙を用意してペンを用意して……便箋もあった方がいいかな。封筒も欲しいね」

「ビンセン……でしたか」

「そうそう。字を書きやすいように、線が引いてある紙」


 手紙をいっぱいかくためには準備が必要なのか。言われてみればもっともだ。

 沢山のお手紙。

 食事が終わって、すぐに行動開始だ。

 カガミお姉ちゃんと準備をした。

 紙を同じくらいの大きさに切って、それから線を引く。線を引き終わったら、カガミお姉ちゃんが魔法でいっぱい増やしてくれた。


「リーダが戻ってきたら、豆判を出してもらわなきゃね」

「うん。あのね。ここにね、お花の絵を書きたいの」

「いいね」

「お手紙だからぁ、蝋も必要ねぇ」

「そっか。封蝋しなきゃ、大事なお手紙がみんなに見られちゃう」

「なんだ、ノア、食べ物のお話?」

「違うの。お姉ちゃん。お手紙のお話」


 準備を進めているとロンロにお姉ちゃんも近寄ってきた。みんなでワイワイと話し合いながらお手紙セットを作った。


「今日は遅いから、続きは明日にしましょうか」


 お手紙セットが用意できた頃、夜も遅くなって寝る時間になった。


「明日はリーダが帰ってくるから、最初のお手紙は王都に送ろう」


 お布団に入って天井をぼんやりと見ながらぐるぐると考える。

 でもお部屋が真っ暗になってふと怖くなった。


「あのね……ロンロ」

「どうしたのぉ、ノア」

「皆がもっともっと遠くに行っちゃったらどうしようか。お手紙が届かなくなるくらい遠くに……」

「遠くに?」


 真っ暗な部屋の中でふと寂しくなった。

 大学に行くようになってから、皆がバラバラになった。


「ずっとずっと皆が忙しくて……誰も居なくなったら……リーダもいなくなったら……」


 嫌なことを思いついてしまった。私のつぶやきはいつのまにか涙声になっていた。


「大丈夫よぉ」


 ロンロが、いつものように、のんびりとした声で言った。


「バラバラにならない?」

「そうね。きっと、リーダが、何とかしてくれるわ。ずっとそうだったでしょ?」


 静かにロンロが言った。

 リーダが……。


「うん、そうだね」


 リーダは研究しないのかな。ずっと一緒にいてくれるかな。

 毎日帰ってきてって、お願いしたら、困ったりしないかな。

 私は、ロンロを心配させたくなくて、ガバッと布団に潜り込んだ。

 それから、目をギュッとつぶって眠ったフリをして、沢山……考えた。

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