第467話 ほんせんしゅつじょうしゃ

 予選が終わり、5日が過ぎた。

 お菓子の祭典ヘーテビアーナは続いている。

 予選の時にはあれだけ沢山あった、細々としたお菓子は数が減っている。

 立ち並ぶ店の品揃えは大きくかわり、大きめのお菓子を店先では売っている。

 それから、今は大きなお菓子で作られた神輿に似た物が、町中を闊歩している。


「ハラッハ、ワイアハ! ハラッハ、ワイアハ!」


 なんだかよく分からない掛け声をかけながら、動いて、食べられるお菓子の家が練り歩くのだ。

 それに、お祭りだということで、みんなが大盤振る舞いだ。

 案内をかって出てくれた、ラテイフの案内で街中を歩く。

 甘い香りが漂うコルヌートセルは、予選の時とは違い、繊細で巨大な細工菓子が目立っていた。


「第3皇子のナセルディオ様が甘いものがお好きらしいそうです。それで、多くの貴族が、コルヌートセルの菓子職人を贔屓するようになったのです。それもあって、今年のヘーテビアーナは特に賑やかなんです」


 いつもとは違い、着飾ったラテイフが案内をしつつ状況を教えてくれた。


「なるほど。ナセルディオ様というのは、人気のある方なのですね」

「えぇ。特に貴族のご婦人方はには絶大な人気があるらしいですよ」


 ノアの父親は人気者なのか。


「リーダ、危ない」


 物思いにふけっていたら、ノアに袖を引っ張られた。

 ふと見ると近くに大きなお菓子細工の神輿が通る。

 10頭立ての馬車にひかれた神輿。ラテイフによると馬車の上に乗っている彫像や、パステルカラーの家は、全部お菓子でできているという。

 楽器を演奏しながら馬を器用に操る御者も、なかなかすごい。


「もぅ。リーダはすぐにボーッとするんだからぁ」

「ごめんごめん」


 頭を掻きながら、ロンロを見上げると、視界に緑色の何かが見えた。

 お菓子細工の神輿が、何かをばらまいたのだ。


「あれを受け取ってください」


 ラテイフが楽しげに声をかける。

 慌てたように、ノアがオレの頭に当たって、バウンドした緑色のソレをキャッチする。

 それは葉っぱに包まれたお菓子だった。


「へぇ。お菓子の御輿は、お菓子をばらまいているのか」

「よかったです。空中でキャッチすると願いが叶うって言われているのですよ」

「面白いですね」


 よく見ると、カガミとトッキーがキャッチしていた。

 いいな。カガミ。


「願い事を思い浮かべながら食べるといいですよ」


 ポリポリとノアがお菓子を食べるのを見ていると、目が合ってニコリと笑った。


「おいしい?」

「うん」

「そうだ! あれ追いかけてさ、全員分のお菓子を貰ちゃおうよ」

「いいな。チッキーも、ピッキーも、受け取れなかったしさ。のんびりあれを追いかけながら観光しようか」

「賛成」


 ノアも乗り気だ。

 ゆっくり進む、お菓子を配る大きな神輿。

 なるほど。

 あの神輿は、いつもお菓子を配りながら歩いている訳ではないのか。

 たまに配るお菓子を目当てに、後をつけながら観光していく。


「苦労したっスね」

「美味しいでち」

「サムソン様も、来れば良かったのに」


 トッキーが自分の取ったお菓子をチラチラと見ながら言う。


「大丈夫っスよ。ボクが2つキャッチしてるから」


 そんなトッキーに、プレインがお菓子の入った包みを摘まんで見せる。

 サムソンは、飛行島の修理が面白いらしく、今日は不参加だ。


「どうにも、甘い物はちょっとこりたぞ」


 なんてことを言っていたしな。

 正直なところ、オレもそろそろ辛いものが食べたいなと思っている。

 とは言うものの、お祭り自体は大満足だ。


「なんか面白いことやってる」

「射的か」


 お祭りならではのゲームをする屋台もあった。

 元の世界と同じように、屋台の中に棚があり、景品がおいてある。

 それをオモチャの弓矢で射落とすと、景品ゲットだ。

 こういうのは、どこの世界でも同じようなことするんだな。


「景品もらっちゃった」


 一番はしゃいでいたのは、ミズキ。


「先輩、これどうっスか。ビスケットで出来た馬車の模型」


 次が、プレイン。

 子供を差し置いて大人がはしゃぎすぎるというのはいかがなものか。


「まったく、大人げない」

「はいはい。射的0点だったからって、すねない」

「おいら、特別賞でした」

「おっ。トッキー君の飴細工美味しそうっスね」


 祭りを心の底から楽しむ。

 なんだかんだと言って、コルヌートセルの町にきてからというもの、いろいろとあった。

 沢山あった問題も、一通り解決したこともあって、夕方までずっと祭りの会場をウロウロとして1日を終える。


「今日はありがとうございました」

「いえ、こちらこそ、こんなに祭りを楽しめたのは久しぶりです」


 ラテイフの店によって、それから飛行島へ戻る。


「姉ちゃん! やった! 本選に出場できる!」


 出迎えてくれたサラムロが、姉であるラテイフにぶつかるのじゃないかという勢いで報告する。

 予選通過したのか。

 彼が持っていた巻物が予選通過の証明らしい。

 本戦は、4つの店が出場することになるようだ。


「あっ、ちゃんとノアサリーナ商会の名前もある」


 ひょっこり後ろから覗き込んでいたミズキが声を上げる。


「ノアサリーナ商会?」


 ギリアで作ったオレ達の商会だ。

 マヨネーズを売るための商会。


「そうそう」


 怪訝な声をあげるオレにミズキがニコニコ顔で頷く。


「ギルド長の提案なんです」

「菓子職人ギルドの?」

「そうです。色々な協力を受けて、名を記さないのは、コルヌートセルの菓子職人としていかがなものかと……」

「なるほど」

「あの、もし迷惑でしたら、名前を載せないようにギルドへお願いにいきますが……」

「いいよ。いいよ。問題なし。じゃあ、本戦もがんばろ!」


 やる気満々なミズキに、ノアも両手を挙げて賛成していた。

 しょうがない。乗りかかった船だしな。

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