第464話 あやしいじはく

 聞きもしないのに、黒幕の名をわめくならず者達に違和感を抱く。

 わざわざ宣伝するように黒幕の事を言うのは怪しい。

 とりあえず、ロンロをジェスチャーで呼ぶ。


「なぁに?」

「これから、あいつらを尋問するから、表情見ていて妙な所があったら教えて欲しい」

「わかったわぁ」


 先日のロンロから教えてもらった話もあって、黒幕は別にいると思う。

 怪しい人名は3人。

 鎌をかけてみることにした。


「すみません。気になっていることがあるのですが……」

「なんだ?」


 ならず者の一人が横柄に答えた。

 御者の男から、後ろ手に縛られながらなのに、随分と偉そうなものだ。

 ポーズとセリフがまるで合っていない。

 こうしてみると、凄い余裕だ。

 それに、ならず者とは行っても身なりの良い人が多い。

 普通に町の住人が、襲ってきましたという風体の人が殆どだ。


「なぜ聞きもしないのに、アーキム……ラーキム。そう、アーキムラーキムという店の名前を出したのですか?」

「そりゃ、そいつがアーキムラーキムに所属の職人だからだろ」


 そんな、ならず者に問いかけたのだが、それに答えたのは御者のお姉さんだった。

 え?

 そうなの?

 身元調べられるとわかるから、自分から言った?

 いきなりつまずいた気がするが、とりあえず当初の考え通り進める。


「いえ、違います」

「違う?」

「えぇ。黒幕は別にいます。えぇ……と、名前が思い出せない……いや、そうだ。ムランドード!」


 彼らに背を向け、影からメモを取り出し、名前を呟く。

 それから、チラリとロンロを見る。

 違うようだな。

 首を振ったロンロの反応から、違うと判断した。そうとなれば次だ。次。


「……ではなくて、そうそう、ハシュマッタ!」

「慌ててる。慌ててる」


 オレが振り向く前にロンロが喚きながら近づいてくる。

 ハシュマッタという人が黒幕か。


「ですよね?」


 振り向いて自信満々に問い詰めると、捕らえられた多くのならず者が揃って慌てていた。

 特に、口をパクパクとさせオレを見返す髭面の慌てようが酷い。


「なるほどねー。ハシュマッタか。そういうことか。あの人は、アーキムラーキムの貴族付きだから……つかまった後、貴族の力で裏から手を回して助けてもらうってわけか」


 御者のお姉さんが、納得したように頷く。

 貴族に繋がりのある人が黒幕か。

 それにしても、この人って事情通だよな。


「で、でも証拠が無いなぁ」

「そうだ! 証拠だせ! 証拠!」


 これでいろいろ喋ってくれると思っていたが、悪役特有の決めぜりふで反論してきた。

 証拠か。

 確かに、こいつらを兵士につきだしたとしても、黒幕は別にいますとは言えないか。

 でも、あれ?


「逆に聞きますが、えぇと、アーキムラーキムの店主が黒幕という理由もないのでは?」

「いや。買い占めをしたのはアーキムラーキムだ。職員を引き抜いたのもね。ついでに帳簿に使った金の跡があれば、店主であるラジサーンが黒幕といわれても反論はできないさ」


 オレの疑問に答えたのは、御者のお姉さんだった。

 ならず者も、合唱するように「そうだ! そうだ!」と同調する。

 なんか御者のお姉さんという味方をつけて、勢いづいている気がする。


「あっ。先輩。お金といえば、この人達がもらったお金の出所を調べるってのは?」


 どうしようかと考えているとプレインがオレに近づき言った。

 お金の出所……あぁ、報酬のことか。

 報酬があるからこそ、悪事に荷担したということか。

 確かに、他に理由はなさそうだな。

 でも。


「報酬なんて貰ってないだろう」


 プレインの考えはえらく楽観的だったので、指摘する。


「そうなんスか?」

「なんで報酬を払うんだ? 報酬渡す必要ないだろ?」

「え?」


 プレインがオレの言葉にわからないという感じで首を傾げる。

 周りの人もだ。


「報酬、貰ってないですよね?」


 念の為、盗賊に確認する。

 なんで皆、報酬を受け取り済みだと判断しているのだろう。

 仕事ってのは、完遂してこそ受け取るものだろう。

 それに、相手の立場になれば、前金を渡す必要もない。


「お前……どうして、そう思うんだ?」

「いや。黒幕の立場になって考えたら、助けなければ罪に問われるわけですよね?」

「そうなるね。だけど、罪にも軽重ある。罪を償うなり、犯罪奴隷として生きる道もある」


 なるほど。

 オレは、ずっと牢屋って線で考えていたけれど、確かに、刑期を終えて町にもどることもあるか。

 でも、問題無い。


「それは無いでしょう。こんな罪を犯しても、無罪なり、無罪に近い立場で戻れるような働きかけができるなら、逆もできますよね?」

「そういうことね。確かに、平民を殺してしまうほうが楽か……それなら、お金を……そんな事、思いもつかなかったねえ」


 オレの言葉に、御者のお姉さんは感心したように頷く。

 よく見ると、周りの人達が揃ってオレを凝視していた。

 そんなに驚かれるような事を言ったかな。

 テレビドラマで良くある話だろ。黒幕は知らぬ存ぜぬで貫くタイプ。

 もう一つのパターンは、出所した犯人が真犯人をゆするタイプ。

 それで、返り討ちにあって殺されちゃうんだよな。

 そういや、こちらの世界では、そんなドラマ無いか。

 吟遊詩人の歌も、複雑な話ししないし。


「いや! 待ってくれ! その話、本当なのか? 金をもらえず、殺されるって」


 結局のところ、証拠が無いことの説明だけしかしていない。

 どうしようかと、考えあぐねていると、ならず者達がいまさらながらに、揃って焦りの声をあげだした。

 遅いよ。こういうことは、罪を犯すまえに気がついて欲しかった。

 この様子だと、黒幕を示す証拠ないしな。

 こいつらの証言だけではダメで、証拠が必要か。


「どうしたらいいんだ……」


 うなだれ呟く髭面が視界の端にうつる。

 どうしたら……か。

 オレだったらどうしただろうな。

 うーん。


「証拠があれば良かったっスよね」


 まったくプレインの言う通りだ。

 黒幕を示す証拠があればな。

 あんまりグズグズしていられない。サラムロが何かやらかす前に解決しないと。

 いや、待てよ。

 証拠……証拠が無くても大丈夫じゃないか。

 なかなかの閃きに、オレは思わずにやついた。

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