第450話 うんてんせき

「久しいな」

「リスティネル様? どうしてここに?」


 なぜここにリスティネルがいるのかわからない。

 予想外の登場に、驚きしかない。


「何を言っておる。其方が望んだのであろう? タイマーネタをよこせと」

「届けてくださったのですか?」


 そういえば、自爆してしまったタイマーネタの代わりを、要求していたことを思い出した。

 あの大きさだ。

 白孔雀では運ぶことはできない。

 だが、必ず届けると連絡をもらっていたので安心していた。

 どうやって持ってくるのだろうと疑問に思っていたわけだが、まさかリスティネルが持ってくるとは思わなかった。


「あぁ、もってきておる。ついでに飛行島の試運転をしたかったというのもあるがな」

「飛行島の試運転ですか? もしかして、私たちの飛行島が?」


 飛行島の話になると、サムソンがぱっと顔を上げた。

 空飛ぶ島である飛行島。

 以前、世界樹にあるハイエルフの里で、巨大な飛行島と戦った時に半壊したオレ達の飛行島。

 ギリアにある屋敷の別邸とされる、あの空飛島が整備され、復活したのか。


「もちろんよ。持ってきておる」


 サムソンの問いにリスティネルは大きく頷くと、くるりとオレ達に背を向けて、海亀の小屋から外へ出ていった。

 着いてこいということだろうか。


「あの、オレ達、留守番が……」

「シューヌピア、其方が残っておれ」

「よろしいですか?」


 小屋の外には、見知った顔、シューヌピアが立っていた。

 彼女は、小屋から出てきたオレを見ると軽く会釈した。


「ええ、もちろんって……シューヌピアさんも来てたんですね。カスピタータさんもきているのですか?」

「いえ、兄は世界樹に留まっています。ここには、私と守り主様、それからトゥンヘルさんとアロンフェルさんできました」


 リスティネルは、シューヌピアに声をかけた後、さっさと先へと進んで街道とは逆方向、森へと入っていく。

 少しくらい待って欲しいが、その気はないようだ。

 トゥンヘルはハイエルフの大工だったはず、アロンフェルという人は知らないな。


「何をぼやぼやしておる。早くついてこい」


 はいはいと、リスティネルの後をついていく。

 シューヌピアであれば、他のやつらも知っているし留守番を任せても問題ないだろう。


「結構歩くのですね」

「偽装したとはいえ、あまり人目につくところで下ろすのも面倒くさそうなのでな」


 そういって、リスティネルはズンズンと森の中に入っていく。

 もうすぐ春が来るというのが、足下に緑色の雑草が増えていることから見て取れる。

 まだ寒いが、きっとすぐに暖かくなるのだろう。


「木々がへし折れているぞ」

「少しばかり着地に失敗したのでな」


 森の木々が薙ぎ倒されて、そこに大きな飛行島が見えた。


「あれ、オレ達の飛行島じゃない?」

「其方らの飛行島だ。もっとも、他の飛行島も何個かくっつけてあるし、上に乗ってた建物も作り直したので、様相はだいぶ変わっておる。だが基本は全部、其方らの飛行島だ」

「なるほど。あと、斜めになってるのは……」


 サムソンが言う通り、その大きな飛行島は斜めになっていた。

 微妙に斜めに着地していた。


「ふむ」


 リスティネルは少しだけ首を傾げると、手を静かにあげる。


『ズズ……ン』


 すると、小さな地響きをたてて、飛行島が水平になって着地した。


「トゥンヘルめ。まったく大雑把なものよ」


 溜め息交じりにリスティネルは、飛行島の端、階段状になっている部分をゆっくり登り、中へ入っていく。


「2人だけしかおらんかったわ」


 そう言って建物の影で、リスティネルは作業をしている人影に声をかけた。

 ハイエルフの大工トゥンヘルだ。


「いやー、これはこれは。リーダさんに、サムソンさん。久しぶりです」

「トゥンヘル。飛行島が斜めになったままであったぞ。あのままでは住み心地が悪かろう」

「いや、それは、守り神様が無茶な着地のさせ方をするので……、あと、そのせいか飛行島が動かないのです……」

「まったく上手くいかぬものよ」


 トゥンヘルの抗議めいた言葉に、何でも無いように応じ、目の前にある2階立ての家へと向かって進んでいく。


「アロンフェル! リーダさんと、サムソンさんだ!」


 途中、トゥンヘルが目の前にある家とは違う方向を見て声を上げる。

 そこには小さな三階建ての塔が建っていた。

 目の前にある家の外に、三階建ての塔が一つ、小さな祠が二つ、そして厩舎であろうか木造の小屋に加えて大きな池がある。

 目の前にある小さめの家は装飾が施され、ハイエルフの里にあった建物を彷彿させる。

 彷彿とさせるどころじゃないか。

 木の香りが漂うハイエルフの家そのものだった。


「随分変わりましたね」

「以前あった建物はもうボロボロであった故、建て直した。だが、数多く仕込まれた基礎になる魔法陣などには手をつけておらん」

「よくわからないものは全部倉庫に押し込めてありますので、後ほど皆さんで確認してください」


 何やらやっていた作業をやめて、トゥンヘルも後をついてくる。


「ありがとうございます」

「後は、二階にある部屋に、サムソンさんが残していたメモを参考に、飛行島を動かす仕組みを用意しました。ご案内しましょう……と、その前にアロンフェルが来ていないな」

「放っておけ、そのうち顔を見せるであろう」

「ですが……」

「皆が揃ってからでよいであろう。それにアロンフェルは呼んだだけで来るような者ではなかろ」

「それは……そうです」


 そう言いながらトゥンヘルが小走りにオレ達を追い抜き、家の中を案内してくれた。

 最初に案内されたのは、2階にある小さな部屋。

 椅子が中央に置いてあり、その前にテーブルがあるだけのシンプルな部屋だ。

 そしてテーブルの上には、まるでゲームセンターにあるゲーム機のようにスティックとボタンがあった。

 よく見るとテーブルの下にはペダルが二つある。


「なかなか面白いものであったよ」

「サムソンさんが残したメモを参考に作ってみました」

「そうそう、動かすのが結構面倒くさかったんでな」

「へぇ、面白そうな操縦席だ」

「よくあんな落書きみたいなもので、ここまでのものを」


 サムソンが嬉しそうに小走りでテーブルの前まで走り寄り感想を漏らす。


「これで正しかったでしょうか? いえ、こういう風なものであろうかと皆で話し合って作ったのですが……」

「えぇ、もちろんです。いや、正直いえば実際は触ってみないと……ですが、私のイメージとぴったり合っています」


 サムソンはとても嬉しそうにテーブルに駆け寄りレバーを触る。

 足のペダルも、カチカチと踏んでみたりする。


「上手く動いて楽しかったよ。ただ、少しばかり着地が面倒くさいがな」


 そうか。ここまではリスティネルが操縦していたんだっけか。


「うん。確かに面白そうだ」

「少し動かしてみるがよいよ」

「よろしいですか?」

「もちろんです……と言いたいのですが、先程のショックで、動かなくなってしまったのです」


 サムソンの問いかけに、トゥヘルさんは残念そうに頭を下げ、それからちらりとリスティネルを見た。

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