第449話 いがいなおきゃくさん
一生懸命説明した。
おかげで事なきを得た。
というより、ノアの聖女としての名声と、特別招待状の威光によるものだ。
捕らえられるなんてことにならなくて良かった。
ちなみに、兵士達にはアレが海亀に見えなかったらしい。
確かにモヒカンの巨大な亀がつっこんできたら焦るし、海亀には見えないか。
「だが、いかに聖女様といえど、町に騒ぎを持ち込んだ責任はとっていただきたい」
南門の兵士長はそう言った。
そして、海亀は町に入ることが禁止された。
だが、オレ達が、町への出入りすること自体は、自由にしていいらしい。
「なんだか、相当揉めていたように思います。思いません?」
「カガミ氏の言う通りだ。なんかお偉いさんが議論していたな」
聖女様を追い返すわけにはいかない。
でも、町を混乱させたのに、お咎め無しというわけにもいかない。
そんなわけで、対応をどうするのか悩んだようだ。
ごめんなさいと、謝るほかない。
当の海亀は、久しぶりに故郷の海藻を食べることができてご満悦だ。
「よくこんなに買えたな」
山盛りになった、四角い板状の海藻を見て不思議に思う。
遠方より仕入れた品物だ。
それなりの値段がしたのではないかと思う。
「なんかさ、職人が急に辞めちゃって使い切れないから、どうぞってさ」
「お菓子屋から買ったのか?」
「そうそう。運んでる人は、もう売り先がきまっているって言われてさ。もしかしたら菓子職人に余り物を譲ってもらえるかもよ……って言われて、探して見たの」
ふらりと町に入ったきり、帰り遅いなと思っていたが、結構苦労したのか。
「へぇ。それにしても、これがお菓子の材料になるなんてな」
「せっかくだから、そのお菓子とやらを明日買いに行こうか?」
この白い板が、どういうお菓子に変わるのか興味がある。
「そうっスね。観光もかねて」
お菓子の都といわれるコルヌートセルの第一印象は、甘ったるい香りだ。
嫌なにおいではないが、洋風のお菓子特有の香りが漂う。
真っ白い壁と、うす黄色の壁の家に、カラフルな屋根。
立ち並ぶ多くの店が、お菓子屋だからだろうか、可愛らしいという言葉の合う町並だ。
そして、活気に溢れていた。
お菓子の祭典ヘーテビアーナが、もうすぐ始まるということで、今は準備の追い込み作業ということだ。
そう聞けば、なかなか良いタイミングで訪れることができたと嬉しくなる。
のんびり観光して過ごせば予選開始で、祭りには始まりから終わりまでの全期間楽しむことが可能ということだ。
行進も、第1皇子にお任せしたしな。
「海亀さんは?」
「町に入れないから、お留守番だね」
「だったら、おいらが留守番します」
今日は、海亀の背で過ごすからいいけれど、明日以降は誰かが留守番をしなくてはダメだろうな。
だけれど、いつもピッキーに任せきりというわけにもいかない。
万が一を考えると、同僚かオレの誰かが残る必要もあるだろう。
「留守番は交代制にしよう。どうせ、しばらくこの町をぶらつくだろう?」
「そうっスね」
「それじゃ、とりあえず明日の留守番を決めよう。じゃんけんだ」
……ということで、オレが負けてお留守番。
もう1人は、サムソン。
「お土産期待しててね。留守番暇だからって、出歩いちゃダメだよ。迷子になっちゃう」
「うるさい。ミズキ。はよ行け」
こたつにこもったままの海亀のお守りとして留守番する。
ロバに、茶釜と、その子供達も、こたつに入って出てこない。
「どうするんだ?」
「何が?」
「ノアちゃんのお父さん。おそらく第3皇子で間違いないだろ?」
「相手が皇子ってのは驚いたな。どうするかっていうのは、ノア次第だよ」
あまりにも、暇なので、ゲームをしながらサムソンと雑談して過ごすことになった。
昼飯はノアが置いていってくれたカロメーと昨日の残りがあるので、ある意味暇なのだ。
考えてみると、皇子といわれれば腑に落ちることも多い。
手紙の豪華さや、使者の偉そうな態度。
国から出られないというのも、立場というものがあるのだろう。
だが、ノアが会いたいというのなら、成り行きに任せるほか無い。
もし、何か問題があるのであれば、その時に対応するしかない。
「そうか。そうだよな」
「ところで、屋敷の魔法陣はどうしたものかな」
「行き詰まっているな」
屋敷の地下にあった超巨大魔法陣。
思った以上に進捗よく、パソコンの魔法に取り込むことができた。
そして、プログラム言語への変換もできた。
だが、分からない事が多い。
魔法陣とプログラム言語の対照表を作成し、その対照表をパソコンの魔法に取り込む。
そうやって、変換をしているのだが、未知の言葉があった。
そこは、星マークでわかるように変換しているのだが、星マークが多すぎるのだ。
「やっぱり、今以上の資料が必要か」
「そうだな。あとは、対照表の洗い直しが必要だと思うぞ」
「今後はそちらにも力を入れるか」
「一応、魔導具から魔法陣の抽出もできそうだから、それも資料になると思う」
「へぇ」
「フェズルードで見つけた本に方法が載っていた。魔導具のメンテナンス方法だそうだ」
サムソンが、部屋の隅にある柱、模様のように魔法陣が描かれていて、たまに白い光が走る柱を見ていった。
「メンテナンスか……魔導具も手入れが必要なんだな」
「そうらしいな」
メンテナンスに、魔導具から魔法陣を抽出か。
「それなら、魔導具の効果を、魔法陣にすることで、魔法として使えるのか?」
「試したが、上手くはいかなかった。一応、カガミ氏はもう少し研究するらしいけど。だめでも、新しい魔導具を作るヒントにはなる」
「いいな。少しでも進めることができれば、いずれ問題は解決する」
「あとは……残された時間だな」
ノアが居ないときには、こんな話ばかりになる。
超巨大魔法陣と、オレ達の残り時間。
オレ達の命約は、減り続けている。
以前、テストゥネル様が言っていたように、減るスピードは穏やかだ。
だが、ゆっくりと、確実に減っている。
あと23。
つまり、ノアがオレに託した願いはあと23個あるということだ。
ノアの願いが叶う度に、ノアが幸せに近づく度に、オレがこの世界に留まる力は失われる。
皮肉なものだ。
「だが、命約数に関しては対処方法がない。今まで通り、進めるしかないな」
「そう……だな」
それは、サムソンとの雑談がしんみりとした雰囲気で進んでいた時だった。
『バァン』
突如、豪快な音をたてて扉が開いた。
いきなりのことで、椅子から転げ落ちそうになりながら、入り口を見る。
「おや、2人だけか?」
そこには、金髪縦ロールの派手なお姉さん。
正体は、金竜。
世界樹にいるはずのリスティネルが立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます