第401話 たるからとびだすよ

 白孔雀の実験を思い立った翌日。

 さっそく行動に移すことにした。


「ごちそうさま」

「あれ、リーダ。お前、どこにいくんだ?」

「庭。郵便番号……いや、白孔雀を飛ばすのに必要な言葉を調べようと思ってさ」


 朝飯を食べて、すぐに外へでる。

 今日は一段と寒い。

 吐く息が微かに白く輝く。この調子だと、雪が降るのも近いかもしれない。

 それはともかく、まずは館の庭に旗を立てる。

 旗と言っても、木の棒に布を括り付けた簡単なものだ。

 たまに吹くそよ風で、旗が小さくパタパタと音を立てる。

 そんな控えめに揺らめく旗を、看破の魔法で見るのだ。


「旗。簡易な旗。木製の竿、布。作成時期……3日未満。5タムカ、1銅貨に満たず。基準に満たず……。目的、満たさず……」


 看破で見える表記は次々と切り替わる。

 それは、思ったよりも長い時間続いた。

 途中まではサムソンがぶつくさと言いながら読んでいたが、ついには諦めてしまった。

 旗は、足音を変える魔法の触媒にできるらしい。

 もっと使える魔法の触媒であれば、試す気にもなれるが、どうでもいい魔法の触媒だと試す気にもなれない。

 それにしても、看破で見ることのできる表示の切り替わりが終わらないな。

 延々と、いろいろな要素を表示している。

 看破の魔法は、魔力を込め、そして長時間見つめることで次々と表記が変わっていく。

 いつもであれば、最初のあたりに出てくる表示で事足りる。

 たまに暇つぶしに、看破を使うのだが、すぐに読むのに飽きてしまい最後まで見ることは無い。

 だが、今回はお目当ての情報を見つけるまで、延々と見続ける。

 表示の切り替わりはなおも続いていたが、表示されるのは文字化けしたような何か読めない記号の羅列だった。

 それが延々と続く。


「おっ。しる……べ……の、言葉……」

「標の言葉アッザ、スー、ホルベル……これっぽいね」

「そうだな。もう、あの文字化けで終わりかと思ったぞ」

「あれでおしまいだったら、とんだ徒労に終わっていたよ」


 最後の最後に現れた、標の言葉。

 これが、白孔雀を飛び立たせる先を示す言葉に間違いないはずだ。

 とりあえず地面にその文字を書き写す。


「どうだった?」


 背後からミズキの声が聞こえた。

 オレとサムソンを後で見ていたのか。


「ちょうど今終わったところ」


 振り向いて、答えようとした時に、後にいたのはミズキだけではないことに気がついた。

 最初から付き添っていたノアにカガミ、それからユテレシアに、小太りの神官をはじめ、数人の神官。


「あれ? いつの間に?」

「結構前からだよ。気がつかなかったんだ。まぁ、サムソンもリーダも、結構集中して魔法使ってたんだ」


 ミズキがオレが地面に書いた文字をのぞき込みながら言った。


「そうだったのか。そんな長時間使ってた覚えはないんだけどね」

「アッザ、スー、ホルベル……か。アサントホーエイ……似てるといえば似てるか」


 サムソンが地面に書いた文字を見て呟く。

 言われてみれば、似ているな。


「さて、これを調べて次どうするんだ?」

「そうだね。少し離れたところに行って、白孔雀を使って飛ばしてみようかなと」


 下を見たままサムソンが呟いた問いに、とりあえずの計画を伝える。

 どれくらい距離をとればいいかな。

 あと、白孔雀は結構魔力使うしな。オレ一人だと無理だから、メンバーどうしようかな。


「白孔雀ですか?」

「白孔雀を飛ばすとは一体」


 ユテレシアと、もう1人、小太りの男が興味深そうに尋ねてきた。

 あの人は……賭博と海の神ナニャーナの神官だったかな。

 神具が用意出来なかったと、とても悔しがっていた人だ。


「魔法の実験ですよ」


 一瞬、白孔雀のことを細かく話すかどうかを考えたが、大丈夫だろう。

 よくよく考えたら既に大平原でも使ってるし。


「魔法の実験で白孔雀でございますか。いやはや、私では理解の及ばぬ魔術の考察と見えます。見学してもよろしいですか?」

「かまいませんよ」

「ありがとうございます」

「ところで、ユテレシア様達は、何かご用があってこちらに?」


 オレが二人の見学を承諾した後、カガミが二人に質問する。

 言われてみれば、朝一に尋ねてきた理由を聞いていない。


「えぇ、こちらのブロンニ様が是非ともノアサリーナ様に渡したいものがあると言うので、館の場所を案内したのです」


 カガミの問いに、小太りの男を指し示しながらユテレシアが答える。


「私に、渡したい物ですか?」


 急な申し出に、ノアがオレをチラリと見た後、聞き返す。

 ノアはお客人としての神官達がいるからだろう、お嬢様モードですまし顔だ。


「はい、我らが神殿の神具でございます」


 そう言って片手を上げると、後に控えていた男が、うやうやしく箱を持って近づいてきた。

 彼が箱をガチャりと開ける。

 中には酷く頭の小さいこけしに似た人形が入っていた。

 木製の人形だ。

 胴体かと思われた部分は木製の樽だ。小さい頭は猫耳をつけたひげ面のおじさん。

 なんだこれ?


「ごめんなさい。ノアぁ、わからないわぁ」


 ふわりと空から降りるように近づき、箱を除きこんだロンロもお手上げのようだ。


「これは?」


 ロンロの言葉を聞いた後、ノアは小さく首を傾げて、ブロンニという神官へと質問する。


「はい。神具……これは遊戯人形でございます。この神具の使い方は、説明せねばわからないでしょう」


 小太りの神官ブロンニは笑顔で人形を手に取ると、樽の部分を2つに分解した。

 樽の下半分はとりはずし、外した部分を小さく振る。


『カチャカチャ』


 小さな音がなった。

 中は空洞になっていて剣を模した模型が入っていた。


「剣の模型……ですか?」

「そうでございます。そして、この樽の上部分をごらんください。側面に小さな隙間が空いているでございましょう?」

「えぇ」

「そこに、この剣をグサリと!」


 まさか……。


「ひょっとして、すべての隙間に剣を差し込む前に、頭が飛び出す?」

「おぉ! さすがでございます! 一目で、その仕組みを見破るとは!」


 ブロンニは目を見開き、満面の笑顔で男はオレの言葉を肯定した。

 元の世界にあった、おじちゃん危機一髪じゃねーか。

 次から次へと、コメントしづらい物を……。

 白孔雀の実験をしていたときに持ち込まれた神具。

 ノアへと渡したいというナニャーナ神の神具。

 それは、元の世界のおもちゃにそっくりな……これまた微妙な代物だった。

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