第394話 せんとうをすすむもの
「では、私からノアサリーナ様にお願いしてきます」
そう言って小屋の中に戻る。
とりあえず、エテーリウ達の話を伝える。
「私、パス」
オレが説明をし終わった直後、ミズキが両手を上げてふざけた事をいいやがった。
「えー」
「えーって、だってさ、沢山の人がいるなか先頭を進むんでしょ? やだよ、パスパス」
「うぅん。じゃあカガミさん」
「私ですか?」
「うん。茶釜を好きに乗ってるの、ミズキとカガミだしさ。ノアの晴れ舞台で、茶釜から転落したりするリスクを減らしたいんだよ」
「茶釜は賢い子ですし、誰が乗っても大丈夫だと思います。思いません?」
カガミも、そっけない返事だ。
「ノアの為に一肌脱ごうという心意気はないのか。まったく」
「リーダがやればいいじゃん」
ミズキがとんでもない事を言いだし、それに同僚のみんなも頷く。
「いやいや。ちょっとそれはアンフェアだろ」
「偉そうなこと言ってたのに……」
「よし、じゃあジャンケンで」
「いいっスよ」
「しょうがないな」
渋々だが、同僚たちも同意してくれるということで始まったジャンケン。
結果はオレの敗北。
「なんで皆チョキ出すんだよ」
「最初はグーって言いながらパーを出す常連だから」
「先輩は、いっつもソレっスよね」
そうだっけ。
こうして同僚達の策略にひっかかったオレが先頭。
エルフ馬といわれる巨大ウサギの背にのって、一行の先頭を進むことになってしまった。
まぁ、オレが少しがんばるだけで、ノアの立場が良くなるなら、どうってことない。
「じゃあさ、もうちょっと何とかしようよ」
「何とか……ですか?」
「外見とかさ」
「いわれれば、確かに。このどぎつい7色は嫌ですね」
「せめて帝国に入る時くらいは、もっと光を弱くしたいぞ」
「あんまり眩しいと、ノアちゃんが目立たないとか言えば、なんとかなりそうっスね」
「そうそう」
自分は茶釜に乗って先頭を進まないとなると、同僚達は気が楽になったようだ。同僚は楽しそうに明日へ向けて具体的な話を始めだしやがった。
気楽なものだ。
「あっ、そうだ。リーダ」
「ん?」
「どんな格好で進めばいいか、アドバイスもらってきてよ」
「格好?」
「だって、リーダ先頭じゃん」
「今の服装のままでいいのかとか、アドバイス受けといたほうがいいと思います。思いません?」
はいはい。
そういや旗とか持って先頭を進むのだよな。
ノアのためだ。
しょうがない。
がんばるかな。
「桶……ですか?」
神官団に聞いてみたところ、人数分の真っ白いマントと、木桶を抱えて戻ることになった。
そんなオレの姿をみて、全員が意表をつかれたといった反応を見せた。
「白いマントはわかるが……それは何っスか?」
話は少し遡る。
一番近くにいたエテーリウに声をかけると、すぐに各神殿の神官が集まってきた。
服装の方は、綺麗な服装であれば問題ないという一言で終わった。
ノア以外が同じ色のマントをして、誰が主で、誰がしもべかを一目でわかるようにするのがいいという話になった。
ここまでは、なんとなく理解出来る話だ。
主役はノアで、あとは似たような格好をしたモブキャラってことだろう。
問題は次。
オレが何を掲げ入国するのかという話になったときだ。
「今回は不死の軍勢を聖なる力で倒し進んだ皆様です。出身を明らかにする旗や、武勇を誇る武具の替わりに、神具を掲げ進むのがいいかと」
ここまでは、理解できた。
出自をアピールする旗。
武勇を誇る武具。
聖なる力をもっていますよと、アピールする神具。
消去法でいくと、神具だろう。
問題は神具。
すぐに手配できるのは、3つ。
ケルワッル神殿にあった帽子。とさかを思い起こす真っ赤でモヒカンのような飾りがついた帽子。飾りと言っても、オレの身長くらいある長いものだ。
こんなの被る気になれない。
2つ目は、イレクーメ神を模した神像。
イレクーメ神が、大きなリュックを背負った女の子のため、この神像もパッと見、女の子のフィギュアだ。3頭身にデフォルメしたフィギュア。
これを掲げて進む自分を想像して、いたたまれなくなったので却下。
そして、3つめがタイウァス神の神具である桶だ。
「というわけでさ、一番無難な桶を持って帰ったよ」
「本当に微妙な物しかないんだな。錫杖とかありそうなのに」
「心の底からそう思うよ」
「ただの桶なんスか?」
「いや、どんなに使っても桶の水は尽きず、その水は聖なる力を持つんだって」
「へぇ。せっかくだからさ、あの聖水、水増ししておけば? 大分使ったじゃん」
確かにミズキの言う通りだ。
魔改造聖水もずいぶんと減った。
とりあえず桶の水で継ぎ足すかな。
「聖水を水増し。水だけに」
「はいはい」
魔改造聖水の入った樽に、神具である桶から水を垂れ流し聖なる水を補充する。
それなりの勢いで水は出るが、それでも樽が巨大なため、なかなか一杯にならない。
蛇口をひねり、お風呂に水をためているような感覚。
いっこうに一杯にならない桶を眺めつつぼんやりと時間を過ごす。
ん?
そんな時のことだ。
ノアがオレのズボンを軽く引っ張った。
「どうしたんだい? ノア」
「あのね。皆がね、レコーディングするって……」
「れこーでぃんぐ?」
「皆でお歌を歌って、綺麗な音で流そうって」
「そっか」
オレがボンヤリと聖水を水増しするあいだに、そんな話になっていたのか。
どうせまとめて流せば同じ曲になるのだろうし、どうでもいいと思うけれど。
それよりも、オレは辛そうな表情のノアが気になった。
「どうしたの?」
「私、歌わなかったの」
そっか。
ノアは魔法の矢を撃ったり、星降り使ったりと大忙しだったからな。
「気にすることはないさ」
「うん……」
ノアはオレをみて笑ったが、それは作り笑いだった。
酷く痛々しい笑顔だ。
「あのね」
「なんだい?」
「私が歌うと……お歌がダメになるの……私が……呪われているから」
ノアがぽつりぽつりと言った。
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