第363話 ちょうぜいかんり

 滞在を予定していた10日が過ぎるまであと2日。

 出発を目前にして、オレ達は、ルートを考えていた。

 なんせ大きく横道にそれたのだ。一旦街道に戻ってそれからモルトールの町へと向かう。

 ピッキーが、彼の父親に聞いてくれたところによると、モルトールの町というのは立派な砦があって有名な街らしい。

 この村を出て、ひたすら東に行くと、モルトールの町を象徴する双子の砦が見えるそうだ。

 フェッカトールの用意したルートでは、途中にはもう1つ町があった。だが、そこを飛ばしてモルトールの町へと向かう。


「北がわかるコンパスほしいね」

「方向については、太陽の位置で把握できるぞ」

「そういや前に言ってたな」

「おいらもできます」

「ピッキーもわかるのか。頼もしいな」

「御者をやるために習いました」


 聞けばサムソンに習ったらしい。

 それなら、いつものようにピッキーに御者をまかせればいいか。交代でサムソン。

 頑張る仲間達のおかげで、オレはのんびりと過ごすことができそうだ。


「ところで、巨大魔法陣の解析だが……」


 そう思っていると、サムソンが、魔法陣を解析するために必要な次のステップに行くことを提案した。

 交代で、巨大魔法陣を描き写した紙を、順次パソコンの魔法に取り込んでいく。

 サムソンが実験してみたところによると1000枚ほど取り込めば、魔力が切れてくたくたになってしまうそうだ。

 10日で1万枚。あの紙は10万枚を超えるので、延べ100日以上はかかる。

 最もオレ達は5人いるから3人もしくは4人が1日にまとめてやれば、実際の時間は縮めることが出来る。


「体力と魔力の限界に挑戦っスね」

「でもさ、魔力切れちゃうと、1日潰れちゃうし……皆がバタンキューってのは、不味いじゃん」

「チーム分けかな……」

「日ごとで交代してやります?」


 安定して魔力を流し続ける必要があるので、ノアには厳しい。

 ノアでも参加できるようになるには、まだまだ検証が必要だということだった。


「とりあえずカガミとオレ、サムソンにミズキ、プレインのチームで、日ごとに交代かな」


 結局、2チームに分けて、交代して取り込むことにした。

 もっとも、当面の方針だ。何かあれば、すぐに変えればいい。

 話は終わったので、のんびりとカロメーを食べながら、本を読む。

 しばらくすると、1人ぼんやり外に出ていたミズキが小屋へと戻ってきた。


「なんだか外が騒がしいよ」


 呑気な口調で、ミズキがオレ達に言った。


「今日は、お役人様が来るって言ってたっスよ」

「役人?」

「あのね。ちょうぜいかんりっていう人が来るんだって」


 テーブルの隅で、カガミの作った計算ドリルをしていたノアが顔を上げて言った。


「ちょうぜいかんり……あぁ、徴税官吏。税金の取り立てか」


 まだ夏なのに、税金の取り立てなんてあるんだ。

 農村なのに、収穫以外に納める物があるのだろうか。

 もっとも、オレ達には関係がない。

 もしかしたら通行税を払うかもしれないが、ごねるつもりもないし、来るなら来いって感じだ。


『トントントン』


 対策というより、徴税官吏が来ることについての雑談をしていると、扉を叩く音が響いた。


「はい」

「おいらです。あの……お役人様が出て来るよう言っています」


 ピッキーの声だ。


「税金の取り立てかな」


 代表してオレが、扉を開けて外を見てみると、馬に乗った男が、待ち構えていた。

 他にも10人以上の兵士達、そして事務の人なのだろう、帳簿を抱えた数人の役人の姿があった。

 先頭の男は、馬に乗ったままオレを凝視した。

 青いくちヒゲに、あごヒゲ。

 手入れがされていて、先端が尖っている。

 暗く黄色いマントを羽織っている。

 小さめのマント。

 色はともかく、ヨラン王国の一般的な役人の服装だ。

 ギリアでもよく見かけた服装だ。

 多分、彼が責任者なのだろう。


「そこが者達。お前達は何者ぞ」


 彼は口髭を軽く引っ張って形をととのえながら、オレに向かって質問を始めた。


「はい、私達は旅の者です。主の共として、これから北にあるモルトールに向かおうかと思っています」


 どうせ行き先も聞かれるだろうと思い、先に答えておく。

 やましいこともない。


「ふぅむ。旅の者ねぇ」


 オレの答えを、態度は先ほどと変わらない。

 口髭を撫でながらジッとオレを見ていた。

 それから大きく目を見開き、オレを指さす。


「そこが娘。今日はお前が私の共をせよ」


 娘……?

 オレじゃないのか、後ろからひょこっと顔を出して様子を窺っていたミズキを指差していたようだ。


「とも?」

「そうだ。私は今年の収穫を考えるため、一夜過ごさねばならぬ。酌の1つでもしてもらおう」

「何言ってるんだか」

「私は、徴税官吏だぞ」

「私は、旅の者だけど。リーダ。後は任せた」


 呆れた様子で、ミズキがそう答えると、オレの肩をポンと叩き引っ込んでしまった。

 丸投げ。

 まぁ、しょうがないか。


「私共の同僚はそのような酒の接待などはいたしません」


 こういう場合は、はっきりと断るに限る。

 オレの言葉に、徴税官吏は、うんうんと頷いたあと、ハッと顔を上げた。


「私が誰か、わかっているのか?」


 何をいっているのだと言わんばかりの強気の様子。

 それが言いたいのはこっちだよ。


「わ・た・し・が! 誰かわかっているのか!」


 ところが、黙っていたオレの態度が気に入らなかったのか。

 再度、オレに向かって前より声を荒げ質問してきた。

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