第360話 閑話 立派な友達 後編(ピッキーの友達、モービー視点)
「こりゃぁ、気合いを入れんといかんな」
この中で唯一の大人、村長さんの下男ボッケさんも、腕まくりした。
驚くほど立派なレネレネ蜂の巣をみて、皆がやる気を出したのだ。
ボッケさんは、村長さんのお家で働いているにもかかわらず、オラ達にも優しい大人だ。
オラ達が探していたのは、ただの蜜蜂の巣。
でも、見つけたのは、とっても珍しいレネレネ蜂の巣だ。
とってもオラ達はついている。
「チーズの蜂蜜がけを食べていただきたいんだ」
ピッキーはご主人様達にお菓子を献上するつもりなのだ。
オラとピッキー、それに他の友達で行こうっていう話になって、村長の息子が割り込んできた。
「それなら、あっしがお守りします」
だからボッケさんもついてきた。
いつもは森なんて入らない村長の息子。
でも、村長の息子と一緒にボッケさんが来てくれるのはとっても嬉しい。
途中でつんだ葉っぱを壺の中に入れ、そろりそろりと蜂の巣の下に置く。
あとは火をつければ煙が立ち上る。
煙にいぶされて蜂の巣から蜂がいなくなるのだ。
蜂に見つからないように、襲われないようにと念じながら壺を置くのだ。
「まず、火をつけなきゃね」
「あたちがやるでち」
ボッケさんが、火打ち石を取り出そうとした時に、ピッキーの妹が私がやりますと舌っ足らずに言った。
「火をつけるってことかい?」
「はいでち、加護の力ですぐに火がつくでちよ」
「火……ひょっとすると、ケルワッル神と契約してるのかい?」
「はい。ご主人様にお金を出してもらったでち」
ピッキーの妹が、何かを呟いた。
すると指先がほんのりと赤くなった。
そして、壺の中に手を入れるとたちまち火がついた。
すごい。
火打ち石を使わなかった。
それなのに、こんなに簡単に火がつくなんて。
「加護で火をつける人は見たことあるが、こんなに簡単についたのは見たことがない。ほう、こりゃあ見事なもんだ。さぞかしすごい契約をされたんだなぁ」
ボッケさんはそう言って大きく頷いた。
「はい、ケルワッル本神殿で修行しまちた」
誇らしげに言った言葉にみんなが驚く。
よく分からないけれども、きっとすごいところなのだろう。
白い煙が、大きな蜂の巣を取り囲む。
このまま、しばらく……そうだな大熊乗りの歌を歌えば、歌い終わる頃には、蜂はいなくなるはずだ。
オラとピッキーで話し合って、大熊乗りの歌を少し離れて歌うことに決めた。
少し離れた場所で、皆で歌う。
歌い終える頃には、蜂の巣から蜂が綺麗にいなくなる。
そうしたら、後は木に登って、もぬけの空になった蜂の巣を収穫するだけだ。
村に戻って蜂の巣を壊して、ハチミツをとって皆で山分け。
久しぶりの蜂蜜。
『グゥゥ』
考えるとお腹が鳴ってしまった。
『ガサッガサッ』
だけど、オラのお腹よりももっと大きな音がした。
草を無造作に揺らす音。
「誰だぁ。動いてるのは、静かにしなきゃダメだろう」
村長の息子がそうわめき立てる。
お前が静かにしろよと思ったが黙っていた。
村長の息子に怒ると、村長が怒って、めぐりめぐって父ちゃんが怒られ、最後にオラが父ちゃんに怒られる。
それから先も、ガサゴソという音が止まらない。
「なんてこった。早く逃げるだ」
ポッキーさんは何かに気づいたように、小さく呟いた。
「どうしたの?」
「あれ……狼?」
オラ達が歌うのに夢中になっている間に、周りを狼に囲まれていたのだ。
そんな……狼はこの辺に出ないはずなのに。
「ほら、呪い子と一緒にいるやつなんかといるから、こんな災いに巻き込まれたんだ」
村長の息子がわめく。
皆の視線がピッキーたちに降り注いだ。
「後悔する暇はないだ。皆、散り散りになって逃げるだ」
ボッケさんが皆に言う。
言い終わると同時に、ボッケさんは村長の息子を抱きかかえ一目散に走り出した。
助けてくれないの?
そう思ったが、そんなボッケさんも、村長の息子も逃げられなかった。
いち早く逃げようとしたボッケさんの足は、狼に噛まれて転倒してしまったのだ。
「俺は村長の息子だぞ! 誰か、誰か守れ」
ゴロゴロと地面に投げ出された村長の息子は、泣き声を上げながらオラ達にそんな命令をした。
でも、誰も命令を聞く気はない。
余裕がないのだ。
どうしよう。
大声で助けを呼ぼうか。
ぐるぐると泣きそうになりながら考えていた時だった。
「チッキー! ご主人様にトーク鳥を飛ばして!」
ピッキーが声を上げた。
「はいでち」
「皆、かたまるんだ!」
それから、さらにオラ達に向かっても声をかける。
「大丈夫、おいら達だっていっぱい訓練したんだ。トッキー、ご主人様に頂いた物を使うんだ」
「うん、兄ちゃん」
ピッキーに声をかけられたピッキーの弟は真剣な顔で頷いた。
3人はとても冷静だった。
こんなこと慣れっこだとばかりに。
そして、怯えていたオラ達の前にピッキー達は立った。
「さあ、来るならこい!」
ピッキーがそう勇ましい声を上げた。
それから、ピッキー達は、首にかけていた木札を握って、何かを呟いた。
『ビキッ……ギキキ』
木がひび割れる音がした。
音が鳴り止んだとき、ピッキー達の手には、柄の長いハンマーと、小さく丸い盾が握られていた。
「後!」
ピッキーの弟が、声をあげて振り向く。
『ドォン』
そして、いつの間にかオラの後から飛びかかってきていた狼を殴りつけた。
狼が吹き飛び、木にぶちあたって、動かなくなった。
すごい! 狼を一撃だ!
ピッキーの弟が持っていたハンマーは赤く光ったかと思うと、オオカミを吹き飛ばしてしまったのだ。
「ご主人様達の作った武器はすごい」
「うん。兄ちゃん」
それから3人は、吟遊詩人さんの歌のように大活躍だった。
魔法も使って、狼どもを瞬く間に退治してしまったのだ。
大人よりも大きな狼が1匹いたが、それも頑張って倒した。
ピッキー達に勇気付けられて、オラ達も大きな狼を倒すときには、木の棒でいっぱい叩いた。
それから、ピッキー達はボッケさんの狼に噛まれて怪我した足を、加護の力で治してしまった。
ついでに目が悪かったやつの目も。
大活躍だ。
それから、皆で倒した狼を縛って持って帰ることにした。
レネレネ蜂の巣に、たくさんの狼。大収穫だ。
一番大きな狼は皆が頑張っても抱えきれないくらい大きい。
だから、枝を集めて、紐で縛って、ソリを作った。
その上に大きな狼を乗せて皆で引っ張って帰るのだ。
「たらふく狼の肉が食べられる」
皆が口々に言って、ニコニコ顔の帰り道だ。
オラも、父ちゃんに自慢するつもりだ。
びっくりした父ちゃんの顔を想像して、ニヤけてしまう。
そういえば……。
狼を見ていて、ふと思いついたことがあったのでピッキーに聞いてみる。
「ピッキー。一緒についてきていたウサギ。あれはいつ食べるだか?」
「えっ」
「だって、ピッキー。ウサギのお肉。大好物じゃないか?」
「あれだけあったら、皆たらふく食べられるぞ」
そうだ。ピッキーの大好物。ウサギの鍋。
ピッキーが連れてきた、あの大きなウサギだったらどれだけ食べられるだろう。
いつ食べるのか気になったので、ピッキーに聞いてみる。
それを聞いたピッキーは真っ青になってブルブルと震えた。
「そんなこと言っちゃダメだ。言わないでくれ」
「どうしたんだ。ピッキー?」
「あのウサギ達は、お嬢様達がとっても大事にしてるんだ。もし、ウサギ鍋が好きだって知られてしまったら……」
そう言って、ぶるぶると震えていた。
ピッキーは変わってないなと思って、ちょっと嬉しくなった。
やっぱりピッキーは変わっていない。
でも、ちょっとだけ立派になった。
いや、ちょっとじゃないか、すごく立派になった。
帰ってからオラの分の蜂蜜もピッキーにあげよう。
とっても嬉しい気分で、オラは村の入り口を見た。
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