第350話 こたつ

 サムソンは、超巨大魔法陣の解析に使う魔導具も作っているので、2つの案件の同時進行になる。

 翌日、ゴロゴロしながら作業に当たっていると、丁度良い物を見つけた。


「常夏のスカート?」

「そうそう、この魔法陣を刺繍すると、囲んだ内側が暖かいんだってさ」


 ストリギで見つけた魔導具の本に、使えそうなネタを見つけた。

 結構簡単な魔法陣だ。


「でも、これって燃費悪いじゃん。魔力を流している間だけ、暖かい。一般の人だと半日が限界ってあるよ」


 ミズキが、説明を一瞥しケチをつける。


「でも、これって外部から魔力を得るようにしたら、海亀でも大丈夫だと思います。思いません?」

「魔力は?」

「皆で交代して、なんとかなると思います」

「ボクの、お裾分けローブのがいいと思うんスよ」

「なにそれ?」

「一方の暖かさが、もう一方に繋がる魔導具っスよ」


 プレインも、昨日の内にネタを探してきてくれていた。

 お裾分けローブ。2着のローブで、片方の暖かさが、もう片方に伝わるそうだ。


「プレインが一着を着て、海亀がもう一着を着るってこと?」

「片方を小屋のカーテンにして、もう一方を海亀にかけてあげるっスよ」

「カーテン?」


 なるほど。

 小屋の中は、サラマンダーによって暖かくなっている。それを海亀にも分けるってことか。


「家畜にかけて、主人がその熱で暖まることもできるそうっス」

「魔力を殆ど使わないって感じ?」

「そうみたいっスね。試してみないと詳細はわかんないっスけど」

「いいなそれ」


 せっかく探し当てた常夏のスカートだったが、プレインの方がよさげだ。

 ということで、お裾分けローブを改造して、海亀の暖房を考えることにした。

 宿の人に、作業に使える場所を尋ねると、近所にある工房を紹介してくれた。

 大型の馬車を整備する工房ということなので、スペース的にもバッチリだ。

 大きな木造の倉庫を思わせる建築物。

 がらんどうとした内部には、巨大なクレーンがあって、それだけでワクワクする。


「あいつらの扱いは、ワシらの専売。使いたいときゃ、教えてくれよな」


 巨大なクレーンや、これぞ工房というような工具の数々をみて、ワイワイ盛り上がっていると、工房の案内をしている親父さんが嬉しそうに申し出てくれた。

 他の作業をしていない時なら、無料でいいという。


「ケチケチな鍛冶職人のバロポリアをタダで護衛してやったんだろ? んなら、ワシらがタダで使わせてやっても文句はないよな」


 なぜ無料でいいのかを聞いたらそう言って笑って、工房の親父さんが答えてくれた。

 オレ達が、ここまで来たときの一行の中に、工房の人達の知人がいたらしい。

 せっかくの申し出にありがたく応じる。


「なんだかんだ言って、いい触媒も揃ってるぞ」


 作業を始めて数日目、サムソンがそんなことを言って嬉しそうだった。

 魔術師ギルドが独占している触媒は多いが、そうでない触媒の質も高いようだ。

 それに、キユウニでの作業はスムーズに進む。

 大きな町だけあって、各種ギルドも揃っている。

 特に、魔導具に関しては魔術師ギルドからの依頼で色々やっている人が多いらしい。

 こちらがお願いしたこともすぐに実行してくれる。

 宿泊しているのが高級な宿ということだけあって、サービスも行き届いていて、快適に過ごすことができるのもいい。


「リーダ。もう少しここにいないか?」


 サムソンもあと少し、ここで過ごしたいと言う。


「一泊金貨5枚だからな……どうしたものか」


 10日を超えて、宿泊したい場合の値段は、一泊金貨5枚。

 念のために聞いてみたのだが、サービスからしたら当然の値段。

 いや、違う。

 1フロア独占しているのだ。多分、格安。

 少しだけ考えたが、結局、さらに10日ほど連泊することにした。

 決め手はミズキが聞きつけてきたイベントの話。


「もうすぐ、騎士団がパレードをするんだってさ」


 この町に駐留している第4騎士団がパレードをするという話。


「パレード?」

「騎士の人達が、かっこよく練り歩くことだよ。ノアノア」


 きらびやかな鎧を着込んだ騎士団がゆっくりと町を進むという祭り。

 それが決定打になった。

 せっかくの旅行だ。楽しめるところは楽しまないとな。

 それに連泊するのだ。

 ついでに、海亀の暖房設備を整え、ついでに巨大魔法陣解析のための魔導具作りも一気に進めるつもりだ。

 作業自体は順調だった。

 海亀の背につける、暖房のための魔導具。

 形としては、海亀の体をすっぽり覆うような布を被せ、中に魔法陣を仕込む。

 魔力供給は布に括り付けたロープを供給のロッドに繋げ、ロッドへはオレ達で魔力を流し込む。

 お裾分けローブの方が魔力をそんなに使わないので、1日1回誰かが余った魔力を供給すれば、全然問題ないということがわかった。

 疲労感もほとんどない。

 加えて、魔法陣の解析のために必要な魔道具にも、意外な解決策があった。


「1度に何枚もの魔法陣が取り込める?」

「そうだ。ドキュメントスキャナの魔導具を作っている時にな。紙送りに失敗して、それで気づいたんだが……」


 パソコンの魔法に、魔法陣を取り込む時には、水をはった魔法の皿に、魔法陣をくぐらせる必要がある。

 それまでは、このお皿に1枚ずつ魔法陣をくぐらせなくてはダメだと思っていた。

 だからこそ、複数の紙を1枚ずつ、水を張ったお皿に流し込むための魔導具を作ろうという話になった。

 だが、それは違った。

 続くサムソンの説明で、魔法陣を取り込む時に使う水を張ったお皿に、魔法陣をくぐらせる場合、複数の紙を1度に読み込ませることができると判明したのだ。


「作者でさえ想定しなかった使い方って、わけか」

「最初の時は、一枚の魔法陣を取り込んで保存するという考え方しかなかったからな、気づかなかったぞ」


 嬉しい誤算。

 元の世界でも、プログラムは思った通りに動かない、作った通りに動く、などと言っていたが、この世界でもそれは変わらないようだ。

 魔法陣は、思った通りに動かない、作った通りに動くのだ。

 というわけで、パソコンの魔法陣を動かし続けるだけの魔力さえあれば、1度に何十枚何百枚という魔法陣も取り込める可能性が出てきた。


「あと3日もあれば一通りの実験ができると思う」


 嬉しそうなサムソンに任せて、オレはもう一つの魔導具に集中しよう。

 というわけで、魔導具作りは順調に進んだ。

 だが、それ以外の点で、ちょっとした問題もあった。

 それは海亀をすっぽり覆うための布を工房に依頼して、完成品を受け取った後のことだ。

 品物自体はリクエスト通りの立派な物だった。

 それは、魔法陣を仕込んでから完成させた時に起こった。

 布細工をする工房にお願いしたのだが、暖房のために使うと説明したこともあって、少しだけ布団チックだった。

 受け取った綿の入ったふんわりとした厚手の布を巨大化させる。

 それから、海亀の背に置いた板を二重にして、布を板と板の間に挟み込むような仕組みを作った。

 切れ込みを入れた布を、板の間に挟み込み固定する。

 これによって、強風が吹いても布が外れないようにしたのだ。

 魔導具そのものは、プロトタイプを作って実験もしていたので、完璧に仕上がった。

 仕上がったのはいいのだが、見た目が問題だった。


「先輩」

「まぁ、言いたいことはわかるよ」

「あのさ」

「そういえば、ミズキ。デザインやりたいって言ってたよな。これ、デザインでかっこよくしてよ」

「無理じゃん、こたつだし」


 そうなのだ。

 見た目がこたつ。

 外見が、こたつから亀の首が出ていて、尻尾の先がちょろっと出ていて、そんな風にしか見えない。

 布がモコモコしたものなので、思いっきりこたつ布団に見えてしまうのだ。

 つまりは、こたつの上に家が建っているような状態になってしまった。

 なんていうか、和風だ。

 かといって、他に良い方法はない。

 しょうがないので、このまま突き進むことにした。

 もう一つは嫌がらせ。


「欲しい触媒が、魔術師ギルドに買い占められてたぞ」

「ここの工房を明け渡せだってさ」


 ちょくちょくと魔術師ギルドの嫌がらせというか、ちょっかいが入ってくる。

 触媒を買い占められたり、オレ達が使っているスペースを割り込んで使用するという、地味な嫌がらせ。

 おかげで作業が中断を繰り返しがちで面倒くさいこと、この上ない。

 じゃあ、魔術師ギルドのやつらが、工房のスペースを使って何をしているのかというと、テニスのようなボール遊び。

 あとは優雅にお茶を飲んで過ごしていた。

 こんなところでお茶飲むなボケっと思ったが、工房の人達にとって、魔術師ギルドの人達……つまり貴族には逆らえないそうだ。

 自分たちの仕事に影響を与えなければ、何も言えないという。

 魔術師ギルドの奴らは、オレ達が反撃しないことをいいことにエスカレートしている。

 ここは何らかの警告、もしくはぎゃふんと言わせなくてはならない。

 こんな時だけアイデアが湧くもので、凄くいい事を思いついた。

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