第349話 たたかうまちキユウニ

 旅を続けて2月目になろうかというとき、キユウニという町へ着いた。

 大きな町だ。

 軍隊が駐留しているようで、騎士が沢山いる町。


「サルバホーフ公爵閣下より、通達があるゆえ。税はいらぬ」


 通行税も、身体検査もなく入ることができた。

 門も立派で、いままでで一番警戒が厳重な町だ。

 町についてみると、100名を軽く超えていた一行も解散となる。

 というのも、ここから北に行けば王都だ。

 殆どの人は、目的地が、ここか王都になる。

 これから東に行けば小さな町をいくつか越えた後は、帝国。

 東に行くのは少数だ。

 それに、東は騎士達の演習場が点在しているので、治安はいいそうだ。


「オレっちも北だからな。ここでお別れになるな」


 イオタイトとキャシテも、この町から北へ、王都へ向かうという。


「本当は、ずーっと茶釜じゃなくて、皆さんと一緒にいたかったんですよ」

「手紙もらっちゃったもんだからさ。急ぎ戻らないわけに行かないっしょ」


 何でも話を聞くと、ギリアの温泉を紹介してくれたマルグリットっていう人が事故に遭い行方不明になってしまったという。


「あんまり大っぴらにはできないことなんだけど……ね」


 だから2人と、彼ら1行は、大急ぎで北へと向かうそうだ。


「無事にたどりつけました」

「水まで分けて頂いて。感謝してもしきれません」

「ありがとうございます。鎧などの整備の折は是非」


 イオタイトの一団とは別の一行の人達とも別れることになる。

 別れるとき、皆がそれぞれお礼を言ってくれた。

 だからこそ、ノアが近くに行ったときの皆の態度に悲しくなる。

 気持ちでは、感謝していても、感覚が忌避してしまうということが悲しい。

 とても感謝され、さらには一行の中にいた人の紹介で、大きな宿に予約なしで泊めてもらうことになった。


「天空亭か」

「すごい名前だよね」


 1つのフロア全体がオレ達のために用意された。

 庶民向けでは最高級の宿だ。

 ここに10日ほどであれば、無料で泊めてくれるという。

 従者のためのお部屋も立派だった。

 ふかふかのベッド。

 宿の人から聞いた話によると、巨大なヘチマのような植物をスライスして、弾力のあるマットレスを実現しているそうだ。

 元の世界でいえば、ヘチマのたわしをスライスしたようなものか。

 その上に分厚い布が被せてあって、肌触りもすごくいい。


「これ欲しいな」

「そうっスね。涼しくて寝心地いいっスよね」

「ねぇ、リーダ、リーダ。ここってお酒飲み放題だって」

「あんまり、はしたない真似するなよ」

「わかってるって」


 果物とお酒が飲み放題だ。

 だからといってガツガツ飲むと貧乏人だと思われるので、ほどほどにするつもりだ。

 ここでは、帝国の品物も少しだけ手に入る。

 帝国との交流が盛んというわけではないが、少しだけ持ち込みがあるらしい。

 その影響によって、ここはヨラン王国の中でも少しだけ食べ物が違うそうだ。

 東に行けば、さらに帝国の要素が濃くなっていくという。

 歴史の中で、キユウニから東に入った辺りは帝国とヨラン王国が、領土を取ったり取り返したりが繰り返し行われてきた土地だそうだ。

 とは言っても、この200年ぐらいはずっとヨラン王国の土地。

 この世界の人たちは、時間のスケールが半端ないなと常々思う。

 100年200年は当たり前、やはり人間だけではなくエルフ等の長寿の種族がいるからだろうか。

 意図せず、簡単に宿の手配が済んだので、次はやることをやらなくてはならない。

 まずは、フェッカトール宛に手紙を書く。

 トロトロとゆっくり進んだつもりだったが、フェッカトールが予定していた通りの日にちでこの町までたどり着けた。

 あのペースでちょうどいいのであれば、いつものペースであればもっと早く進めることになる。

 つまり特に急がなくても冬までには帝国へ着くということだ。


「確かに」


 適当に手紙を書いて、ギルドの職員に手紙を託し、商業ギルドを後にする。

 少しだけ伸びをしてのんびり景色を楽しみながら宿へと戻った。

 この宿では一階のレストランで注文すると、自分達の部屋まで食事を運んでくれる。

 食べたい物を聞かれたが、この辺りの料理がわからないので、お任せすることにした。


「うわっ! チーズ料理」

「おいしそう」


 適当に頼んだ料理だったが、持ってこられた料理を見てカガミとミズキは嬉しそうな声をあげる。

 すごいな、確かにどの料理にもチーズがふんだんに使われている。

 ここはチーズが特産なのか。

 ギリアの町でも、チーズを使った料理は度々みたが、これほど大量のチーズ料理を見たのは初めてだ。

 蒸した野菜にチーズがかけてある料理、チーズフォンデュのようにチーズをくぐらせて食べる料理。

 辛口のお酒がチーズによく合う。


「せっかくだからさ。お言葉に甘えて10日ぐらい泊まろうよ」


 チーズ料理に気をよくしたミズキがそんな提案をした。


「そうっスね。思ったよりも早く進めそうだし、ゆっくりするのもいいっスよね」

「もしかしたら何か掘り出し物が見つかるかもしれない。今の所も順調だから、ゆっくりするのはいいと思うぞ」


 皆も滞在に乗り気だ。

 まぁ、いっか。


「うん。私もね、ゴロゴロするの」

「リーダの悪影響が……」


 カガミのコメントが少々気になったが、ノアも乗り気だ。

 オレもゴロゴロしたいので、ここで休むことになった。

 そして、この町には、この世界で初めて見るギルドもあった。

 魔術師ギルドだ。

 立派な建物に、高級そうな馬車が止めてあり、ローブ姿の人影が多数あった。

 そして、その関係ないと思っていた魔術師ギルドは意外な形で、オレ達に影響があった。

 1つ目は嫌みというか悪口。

 魔術師ギルドの皆さんは、オレ達のことはあまり好きでないようだ。


「貧相な魔法使いだな」

「なんか亀の匂いがする魔法使いがいるぞ?」


 すれ違いざま、いきなりこんなことを言われた。

 最初は人違いかと思ったりもしたが、どうやらオレ達のことで間違いないらしい。

 なんで、意識しているのかわからないが、放って置いて欲しいものだ。

 もう一つは触媒についてだ。


「こんなことなら、旅の途中で珍しい触媒を集めておくんだったぞ」


 サムソンが残念そうに言った。

 魔術師ギルドが、独占している触媒が思った以上にあったのだ。

 こんな目に遭うなら、魔術師ギルドがこんなに力を持っていない外国の方が買い物がしやすかったな。

 もっとも、今さら言ってもしょうがないことだ。

 どうせ、外国に行くのだ。

 帝国に行けば、ここでは手に入らない触媒が手に入るかもしれない。


「まぁ、オレ達は今できることをやろうか」

「そうだな」

「地図を見る限り、この先は、ここ以上に大きな町はなさそうだぞ」

「そうっスね」

「今のうちに防寒対策をしておこうと思うんだが」


 地図を見ながら、予定を話し合っていたときに、サムソンがそんな提案をした。

 確かに言う通りかもしれない。

 ここ数年は、異常気象が続いているという。


「最初の年は、雪がなかなか降らなかったわけだし、逆の可能性もあるな。防寒対策は今のうちというのは良い考えだ」

「だろ?」

「特に海亀っスね。寒くなると、まったく動けなくなるし」

「せっかく飯の支度も、掃除もしなくていいんだ。一気にやってしまうか」


 とりあえず10日。

 このキユウニの町で、魔導具作りをすることにした。

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