第303話 ぐちるリーダと、ばじょうやりじあい

 オレの快適のんびりライフは、身内により破壊された。


「なんでオレがこのクソ寒い中……」

「まあ、いいじゃん、いいじゃん」

「そうです、リーダしか荷物を持ってくれる人がいないんです。助けになってると思います。思いません?」

「っていうか、キンダッタが1人で迷宮に潜ればいいだろ」

「ほら、そこぼやかない」


 愚痴っていたらデブ猫のマンチョに注意をうける。

 釈然としない。


「報酬の代わりに、皆様にお願いがあるのですゾ」


 始まりはキンダッタのこの一言だった。

 何でも、キンダッタは迷宮の探索をすることを思いついたらしい。

 従者のマンチョ、そして、彼らの知り合い2人。

 そんなキンダッタ一行の迷宮探索における補助役を頼みに来たという話だ。

 オレは嫌だと言ったのに。

 ミズキとカガミがオレまで巻き込んでOKを出しやがった。

 猫4人の活躍を間近で見たいという2人に、荷物持ちのオレ。

 このクソ寒い中、ピクニック気分の迷宮探索に駆り出されることになった。


「寒いんだけど」

「そうだよね」

「でも、皆さん可愛いと思います。思いません?」


 けっ。

 ミズキとカガミは、キンダッタを先頭に、猫の獣人4人の後ろを楽しそうについていく。

 つまりは、この歩いてしゃべる猫集団の迷宮探索を、後ろから見物しているのだ。


「んな!」


 前を進む、猫の獣人4人が揃って驚く。


「わぁ」

「かわいい」


 まただ。

 さきほどから、猫4人が、驚くリアクションをするたびに、ミズキとカガミがキャイキャイと喜んでいる。

 この猫4人。なんで同じリアクションするのだろう。

 武器を持った右手をやや後ろに下げて、左手を口元に当てて「んな!」って小さくうなる。

 全員が同じタイミングで、同じリアクション。

 猫共は驚くが大した事はない。

 本当に、特に大きな出来事もなく迷宮探索は進む。


「まあ、この方々が?」

「そうですゾ。今回は、ワタクシ達の迷宮探索を喜んで手伝ってくれることになったのですゾ」

「オレは嫌々だったけどな」

「もうリーダったら」

「さすが私達の誉れ、金獅子キンダッタ様ですわ」

「これぞ、ワタクシの日々の活躍によるものですゾ」


 迷宮探索は本当にただついていくだけだった。

 敵はキンダッタとマンチョ、それと残り2人の猫が適当に倒す。

 ミズキとカガミはそれをキャーキャー言いながら見ていただけだ。

 宝が見つかれば、オレの魔法で収納する。

 後は宿泊施設として家を取り出し、迷宮に泊まる。

 食事などの支度は、カガミとミズキ。


「まぁ、素晴らしいですわ」

「ふむ、この方々は、こういう力に長けた大魔法使いなのですゾ」

「そのような方々の協力を取り付けるとは、さすがキンダッタ様でゴンス」


 オレ達が何かするたびに、キンダッタが褒められるのが釈然としない。


「けっ。オレは無理矢理だったけどな」

「もう、リーダは」


 ついつい愚痴ってしまうと、その都度カガミとミズキにたしなめられる。

 何の罰ゲームだよ、これ。


「けっ」


 そんな罰ゲームのような迷宮探索の他にも色々なイベントに参加した。

 もっとも参加したのはミズキだ。

 馬上槍試合。

 フェズルードで数多く行われる試合のうち一つ、馬上槍試合に参加した。

 馬上と言っても、ミズキが乗るのはエルフ馬である茶釜だ。つまり巨大ウサギ。

 ミズキはフェズルードの入り組んだ町中を、茶釜に乗って器用に移動することができるようになっていた。

 エルフ馬を知っている者は何人かいたが、こんなフェズルードの町中で動き回るのは初めて見たとかで話題の的だった。

 だが、好意的な意見ばかりではなかった。

 バカにした意見や嘲笑。

 ミズキはそんなバカにした意見に対し、戦いを挑むことになったのだ。


「本当にそれで戦う気かね?」


 立派な騎士鎧に身を包んだ男が、せせら笑いミズキを馬鹿にした。


「この子は強いからね」


 悪意のこもった言葉に、ミズキはなんでもないように笑顔で応えていた。


「がんばって! ミズキ様!」


 ふと見ると、ミズキのファンができていた。

 可愛い、素敵、と黄色い声が飛んでいる。

 確かにミズキが茶釜に乗って、羽飾りがたくさんついた兜をかぶり、槍を構えた姿はなんというか場違いにメルヘンチックなのだ。

 人によってはあれを可愛いと形容しても間違いはないだろう。

 ミズキが今持っているのは試合用の槍だ。

 誰かデザインしたのか知らないが、槍の先には猫の手を模した装飾品が付いている。

 尖ったものを使ってはならないというルール上、ああいった装飾品を、全員が槍の先端につけている。

 確かに相手の槍にも、狼の頭を模した装飾品が付いていた。

 そんなルールの中で始まった戦い。


「素敵! ミズキ様ー!」

「一撃だなんて!」


 あっさりとミズキが勝ってしまった。

 すれ違いざまに、相手の槍をかわし、ミズキの槍が胸元をついた。

 ミズキの持つ槍が粉々になる代わりに、相手の男は落馬し、ゴロゴロと地面を転がった。


「見てみて、トロフィー!」


 そのまま、3試合連続で勝ち続け、ミズキが優勝した。

 賞品は、馬に乗った騎士が、槍を掲げている形をしたトロフィーだ。


「看破で見ると、大金貨6枚だぞ、これ」

「そうやって、すぐにお金のことを言う」

「じゃあ、これさ、飾っとこうよ」

「はいはい。それにしても、ミズキっていつの間にか強くなってたんだな」

「まぁ、色々と修羅場くぐってるじゃん、私たち」

「確かに、ティラノサウルスとか……色んなのと戦ってます。最近、感覚が麻痺していると思います。思いません?」

「あとさ、ハロルドの指導とかも、あってさ」

「いやいや、ミズキ殿は身体強化の魔法を使いこなしているでござる。それに反射神経もとても素晴らしいでござる。その賜物でござるよ」


 ミズキが馬上槍試合の大会で優勝した日、ちょっとした祝勝会をして盛り上がった。

 一緒に応援してくれていたアンクホルタ達も含めてだ。

 雪の降るフェズルードでの暮らし、それは特に問題なく過ぎた。

 ちょっとばかし、クソ寒い中外へとかり出されることはあったが、気ままに過ごすことができていた。

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