第294話 とーてむぽーる
「地中での地竜はやたら手強くござったな」
「ハロルドは戦ったことがあるんだね」
「そうでござるよ、姫様。もっとも、以前は地上で戦ったので、今回にくらべてずっと楽でござった」
「それにしても、この短剣……」
地竜を引き裂いた短剣を見て、カガミが驚いた様子でウートカルデに質問をする。
「こんな大きなものを持ってらしたんですか? それとも、魔法で巨大に?」
「魔法で小さくしていたのですよ」
「ふむぅ。縮小魔法でござるか。だが、これほどまでに小さくするのは聞いたことがないでござる」
「わしらの切り札ですからな」
ヒューレイストが笑う。
確かにそうだよな。さきほどいろいろ言っていたのは、この切り札のことだったのかな。
「これがなかったら、地竜との戦いは続いていたでござろうな。なんせ奴らは地中にもぐると傷が癒える」
ハロルドがさらりとロクでもないこと言っている。
傷が癒える……。あの状況で、傷が治るようだったら、負けていたかもしれない。
「短時間で片付いたのは、ウートカルデ様のおかげっスね」
「つうか、ミズキ氏も、よくあんな剣の使い方を思いついたよな」
『キィィィン』
ミズキが笑いながら刀身の菱形を回す。
「チェーンソーみたいに刃物動かしたら、攻撃力が上がるんじゃないかとと思ってさ」
おっかないこと考えるものだ。
「ハロルドの剣も、なんかバーンってなったの」
ノアが飛び跳ねて言葉を発する。
剣がバーン?
「さすが姫様、よく見ていたでござるな。この魔法の剣。拙者の魔力を吸い、熱をまとい爆炎を傷口に生み出すでござるよ」
爆発するのか。それはそれで怖いな。
こうしてみると、ハロルドの持っていた武具はどれも凄いな。
「さて」
オレはさっそく魔法陣を広げ、触媒を置く。
せっかくの地竜だ。
「スライフ呼ぶんスか?」
「食えるのかな、これ」
「食べるつもり?」
「その何でも食べてみよう……みたいなのはちょっと、なぁ」
「毒を吐く魔物なんでござるが……」
皆が口々に反対する。まぁ、食えるかどうかはスライフに聞こう。
そう思い、スライフを呼び出す。
「いやはや、次から次へと」
ヒューレイストが呆れたような声を出す。
「もう、なかなか大したことじゃ驚かなくなりましたね。私達も」
アンクホルタは、おかしそうに笑い、スライフを見ていた。
「それを、チャッチャと捌いてほしいんだ」
「ふむ。ランフィッコ遺跡か」
「そうそう。ここにあるんだろ。魔道書」
「我が輩。間違えたことは言っていない。ここにある。確実だ。だが、獣人の子供を連れてこなかったのだな。さすがだ」
「何かあるのか?」
「ここにはモルススの毒が特に濃く渦巻いている。吸えば病む、汚れた空気だ」
毒ガスみたいなものか。
でも、そんな毒ガスがあるというのであれば、今の状況はおかしい。
「別になんとも。オレ達は全然平気なんだが?」
「モルススの毒は、人には無害だ。人以外に対して病気を呼び起こし殺す。そういう毒だ」
人には効かない毒か。確かに獣人達がいなくて助かったな。
じゃ、ハロルドは?
なんか大丈夫そうだ。体を鍛えてるから平気なのかもしれない。
「獣人を連れてこなかったのは、偶然だよ」
「地竜の頭蓋骨は置いていってやろう。威圧の魔導具を作る助けになる」
「了解。ところでさ、これ食えるの?」
地竜を指さして質問したオレに、スライフは少し首を傾け、諭すように話し始める。
「その何でも食べようという考えは……」
カガミと同じようなことを言い出した。
「例えばだよ。例えば」
「そうか。地竜は体内に毒をもっている。それを喉元で集めて、毒液として発射する。食べるものではない。ゆっくり苦しみ抜いて死ぬことになる」
うわ、それはおっかない。
外見がいかつくなった今のスライフが言うと、より怖さが増すな。
「じゃあ、今日は肉も持っていっちゃってよ」
「いいのか、地竜の肉だぞ? 即死毒の魔法においては最高級の触媒になるのだぞ?」
「いらない」
そんな毒なんか使いたくない。そもそも、そんな物騒な物は、さっさとスライフに持っていってもらいたい。
それによく見ると地竜の肉は、真っ赤な肉に、青緑の筋が沢山はいっていて気味が悪い。
「では、持っていこう」
ニヤリと笑ってスライフは、すべてを飲み込んだ。
「して、対価に何が聞きたい?」
そういや考えてなかった。
「えっと、それ次回ってことで」
「吾が輩、貸しを作るのは好かぬ」
スライフはゆっくりと首をふった。
貸しを作りたくないか。
何か頼まないまま、どんどん貯めていって、まとめて頼まれるのは、確かに嫌かもな。
すくなくとも、オレだったら嫌だ。
どれだけ貯めたかも分からないし……。
「そうだな。この迷宮ってさ、どれぐらい続くの? あと、戻り方を知りたいんだけど。簡単に戻る方法があれば、だけど」
「うむ。簡単に戻る方法か。まずここから上を登っていけばいい」
スライフは真上を見上げて言った。
言うのは簡単だが、実行するのは大変だ。というか、上は土の天井だ。
「登るのが大変でさ」
「天を貫けば、地上だ。後は、地面を貫けばいい」
出来るだろうといいたげにスライフが断言する。
きっと魔導弓タイマーネタの事を言っているのだろう。
本当に、何でもしってるよな。こいつ。
「地面? 貫いたら何かあるのか?」
「水たまりだ。そして、ガスもある。撃ち抜けば、水が吹き出る。それをうまい具合に受け止めれば、地上に戻れるだろう」
「間欠泉みたいに?」
「そうだな」
「いきなり水が吹き出たら、町の人達は大迷惑じゃないのか?」
「うん? 迷宮都市フェズルードはずいぶんと向こう側だぞ?」
そうなのか。迷宮をウロウロしたり、縦穴を降りていったりしていたからな。
その間に、いつの間にか町の外に出ていたってことか。
「そっか」
「必要な事はすでに伝えた。では、さらばだ」
言うことは伝えたという感じでスライフは消えていった。
「お待たせ。肉は食えないってさ」
「そうだろ。あの見た目はさすがに食えるとは思わないぞ」
「あと、帰る方法を聞いてみた。天井をぶち抜いて、それから地面をぶち抜けば、間欠泉が湧き出て外に出られるって」
「とても派手な方法ですよね」
「天井をぶち抜くのも、地下をぶち抜くのも、先輩の古代兵器でなんとかなりそうっスね」
「そうだな、カガミの壁を作る魔法でタイマーネタを固定して、あとは上に一発、下に一発って感じか。そうそう、筏も準備しなきゃな」
「簡単に帰れるってのはいいよね」
「そうっスね。来た道を延々と戻るのは嫌っスもんね」
オレ達が、そんな話をしているとき、アンクホルタ達は少し先を偵察してくれていたようだ。
離れた場所にいた、ヒューレイストがオレ達に駆け寄ってきた。
「要件はすんだかね?」
「えぇ。問題なく」
オレの返答を聞いて、ニカリと笑って、迷宮の先を指さした。
「あちらだ。床がえぐれたようになっていて、下り坂が続いている」
それから、アンクホルタ達と合流し、先へと進む。
下り坂はやや左にカーブしていて、ゆっくりと曲がりつつ下に続いていた。
しばらく進んでいくと、坂道に見えたそれはお椀の形にくりぬかれた空間の側面だと分かる。その、一番下には巨大な棒が突き刺さっている。
巨大な棒。何十メートルあるのだろうか。
3階立てのビルくらいかな。
「まるでトーテムポールです。そう思います。思いません?」
カガミの言う通りだ。巨大な円柱には、顔に彫り込まれている部分があったり、羽根があしらってあったりと、トーテムポールを思い起こさせる。
でも、あれって何で小学校にあったのだろう。
まぁ、どうでもいいけれど。
あらためて考えると不思議だ。
その円柱に掘られた顔型の口からは、チラチラと小さな光の粒が見えた。何かを吐き出しているようだ。
「ちょっと、不気味だけど。綺麗だよね」
まるで、観光名所に来たような感じで、興味深く円柱を眺めつつ、坂道を下る。
「古代文明の遺産……と言ったところでしょうか」
アンクホルタは、不気味さに耐えきれないのか、顔をしかめつつ言った。
そうだよな。この迷宮は、もともと古い都市の名残なわけだから、その時代の代物なのだろうな。
「リーダ。あっち、お部屋がある」
一番下。円柱の根元までたどり着いたとき、ノアが円柱の向こう側を指さした。
半壊した部屋がそこにはあった。
部屋の片側が土に埋もれ、部屋自体も少し傾いていた。
さらに近づくと、テーブルがあった。その上には、本が散らばっていて、さらに、何処かの名探偵が使っていそうなパイプが転がっていた。
まるで、つい最近までこの場所には人がいたかのような、生活感が残っていた。
それはきっと、床に描かれた魔法陣が作用しているためだろう。
保存の魔法陣。
とにもかくにも、本だ。
本が見つかったのだ。
あれが、オレ達の目指す魔道具についての本だったらいいな。
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