第288話 閑話 のびのび過ごそう(イアメスこと金獅子キンダッタ視点)

「なぜに、キンダッタ様、遊牧民の元に行かれないのでゴンス?」


 後で、ワタクシの従者マンチョが色々とうるさい。


「ワタクシに考えがあるのですゾ」


 一言だけ言って、彼の言葉を無視する。

 なぜ、このようなことになったのだろうか。

 ワタクシは王から直々の命令を受けた。

 それは内容さえ考えなければ名誉のことなのだが、内容が内容だけに気が重かった。

 呪い子に接近し、情報を得ること。

 あれほど先が読めない集団相手に、情報を得てこいなどと……。

 だが、周りはそうは思わない。


「なんと! キンダッタが、王より重要な指示を?」

「なんでも。なんでもですな。王より金獅子隊長と同じだけの権限を与えたそうですな」

「それは、さすが、我が甥。一族の誉れ」

「はい、旦那様。そこで私も息子であるマンチョを従者として同行させようかと思っております」

「うん? そうか! そちの息子か」

「左様です。言うなれば我らが黄金の金獅子組の再結成ということですな」

「それはいい。キンダッタよ! 一族をあげて其方を応援する。見事役目を果たして参れ!」


 叔父や、その周りの盛り上がりように、ワタクシは何も言えなくなってしまった。

 というか、黄金の金獅子組って……馬から落馬のように、意味が被っていて格好悪い。

 ともかく、ワタクシは旅に出ることになった。


「んで、どちらに行かれるでゴンスか?」

「まずは、船に乗り東へ。迷宮都市フェズルードに向かおうと思うのですゾ」

「なぜに、キンダッタ様、遊牧民の元に行かれないのでゴンス?」


 そして今がある。

 もう、ずっと従者マンチョがうるさい。

 繰り返し同じ事を聞かれるので、身の丈を超えるバックパックをもつ従者へと振り向き説明することにした。

 ようやく考えがまとまったのだ。


「うむ、奴らは迷宮都市フェズルードに向かう。ワタクシの直感が告げてるのですゾ」

「本当ですか? えっと、もしかして、エスメラーニャ様が、迷宮都市に滞在しているから合流して、あわよくば仲良く……なんて考えてるのではないでゴンスか?」


 んな!

 ワタクシの思考が見破られている。


「いやいや。いやいやいや」

「本当に違うでゴンスか?」

「違うですゾ。そうか。エスメラーニャ様が、迷宮都市にいらっしゃるとは!ワタクシ、忘れていましたゾ」


 公爵令嬢エスメラーニャ様は花獅子団長であり、ワタクシらが憧れの的。あの知的な微笑みと舞うような剣裁きは可憐で素晴らしい。

 確かにせっかくの権限を頂いたのだ。金獅子団長と同じ権限。これさえあれば、鉄獅子に花獅子、そして金獅子に指示することができる。つまりはワタクシの任務に協力してもらうことも可能。

 エスメラーニャ様と一緒に何か仕事をしたいと思うのは当然。


「んー。本当でゴンスかねぇ」

「疑い深いですゾ」


 正直に考えると、奴らは世界樹から北、中央山脈へと向かっている気がする。

 中央山脈を越えて、さらに北へと進めば、やつらの故郷であるヨラン王国へとつく。

 東に行くと帝国だ。

 帝国経由でヨラン王国へと向かうとは思えない。

 ヨラン王国へと戻るのであれば、中央山脈経由が一番近いはずだ。

 やつらは観光だと言っていた。

 どうにも信じがたいが、観光が旅の目的だというのならば、中央山脈の麓には有名な温泉がある。

 雪解け水が温泉の湯を柔らかくし、今の季節、一面真っ白の山脈と世界樹のコントラストが美しい。入る者に美をもたらす温泉。

 しかもそこで振る舞われる氷菓子、温泉に入って飲む酒も加えて、別格だと聞く。

 観光には、フェズルードのような荒くれ者の街よりも、よっぽどふさわしい。

 なので、フェズルードなのだ。

 ワタクシは、あんな訳の分からない集団に会いたくない。

 そして、やってきた迷宮都市フェズルード。

 さっそく手配済みの宿へと向かう。


「ファイアドレイクだ!」


 ところが、いきなり迷宮都市の洗礼をうけてしまった。

 迷宮都市フェズルードは、古い町と新しい町が融合している。

 1000年を超える古くからある過去の建築物、地面から露出したそれに、新しい石を積み重ね町が作られている。

 段差が多く、高低差が激しいこの町では、壁の向こうが迷宮の一角なんてことも多々ある。

 迷宮には魔物。

 故に、町に魔物が現れることも珍しくない。

 いま、誰かが出現を叫んでいるファイアドレイクも、迷い出た魔物の1つなのだろう。


「どうされるでゴンスか?」

「ふむ。せっかくの迷宮都市の洗礼。一目見るのも一興ですゾ」


 様子を見るだけみようと声をした方へと向かう。

 この辺りに、エスメラーニャ様がいるとは思えないが、その従者がいたら一大事。

 向かった先、今まさに3匹のファイアドレイクと町の者達が戦っているところだった。

 ファイアドレイクは、赤くヌメヌメ光る体表に、黒く波打つ縞模様を持った、巨大なイモリだ。口元にはチラチラと火が見える。ヤツは火を吐く。

 ワタクシが着いた時点で、かつて人だった消し炭が多々あった。


「おい! お前、横だ!」


 1人の冒険者風の男が、ワタクシを指さし叫んだ。

 むむ。

 かの者の指はワタクシではなく、さらに先を指していた。

 4匹目。

 そこには、もう一匹のファイアドレイク。


「ファイアドレイク!」


 3匹ではなかったようだ。旅の疲れから判断力が鈍っているのだろう。


「マンチョ、せっかくだ返り討ちにしましょうゾ」


 だが、問題ない。ファイアドレイクごときに後れをとるワタクシではない。


「はいな!」


 今まさに火を吐かんとするファイアドレイクを前に、従者のマンチョも士気高く返事をする。

 そしてヤツが口から吐く火炎。

 眼前に迫る火炎を前にニヤリと笑う。

 すでに、ドサリと背中のバックパックを降ろし、槍を構えたマンチョがいるからだ。

 頼りになるワタクシの従者マンチョは、槍をファイアドレイクに突き出し魔力を込める。

 魔力が込められた槍は、まるで傘のように開き、火炎を受け止めた。

 その槍の柄をクルクルと回し、吐き続けられる火炎をしのぎきる。

 火炎をしのぎ、傘のように開いた槍が閉じられるとワタクシの出番。

 華麗かつ鋭いワタクシの剣撃はファイアドレイクを討ち滅ぼす。

 瞬く間に側のファイアドレイクを倒した次は、3匹のファイアドレイクと戦う者達への加勢だ。

 さっそく腰の魔砲を使い、援護に回る。

 魔砲を取り出し、宙に放る。ワタクシは一回転しつつ洗練された動きで、魔砲に触媒を込める。込める触媒は、紙でつつんだ蜘蛛の死骸。

 一回転し、魔砲をうけとめ、引き金を引く。


『パァン! パァン!』


 2発放った魔砲の攻撃は、ファイアドレイクにぶち当たり、ヤツの全身に白い糸をこびりつかせた。


「いまですゾ!」


 動きのとまったファイアドレイクに剣を向け、今が機会だと皆に告げる。

 あわれ2匹のファイアドレイクは瞬く間に討ち滅ぼされ、残る1匹も別の者によって倒されていた。


「さすがキンダッタ様!」


 従者マンチョも絶賛する華々しい活躍。


「ふむ。マンチョもよくやってくれた」


 労いの言葉を口にしつつ、優雅な動きで剣を鞘に収める。

 決まった!

 シャランと綺麗な音色で剣を納めることができた。

 これは絵になったにちがいない。

 その日は、上機嫌で宿へと戻り、少しだけ体を休めた後、町へと繰り出す。

 従者マンチョもなかなかの手練れ。

 せっかくである、迷宮探索などをして、ちょっと力試しもいいかもしれぬ。

 そのようなことを考え、町にある露天を巡り迷宮にて見つかったという品々を手に取る。

 ワタクシは上機嫌であった。

 直後、予想外の出会いで、計画がぶちこわしになるとは知らずに。

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