第275話 ひがしへ、さらにひがしへ
遊牧民と別れて、ひと月が過ぎた。
ここ最近はぼんやりと呪いのことばかり考えている。
気晴らしに迷宮都市のことも聞いたりしてみたが、すぐに呪いのことが気になって、迷宮都市の事は頭から消えてしまった。
呪いか……。
「寒ぅ」
真っ黒で何も見えない真夜中、寒さで目が覚めた。
かぶっていた布団では足りなかったようだ。
こう、はっきりと目が覚めてしまうと、眠る気も失せてしまう。
久しぶりに夜空を見ようと外へと出る。
「あらぁ、いったい、どうしたのぉ?」
そんなオレをロンロがめざとく見つけて降りてきた。
「寒さで目が覚めちゃってね」
「そうなのぉ。うーん。なんだか天気悪くなってきたし、明日は雪がふるのかもしれないわねぇ」
ロンロの言葉で、星空がそれほど見えない事に気がつく。
天気が悪くなってきているのか。
寒いのは苦手だ。
「雪は困るな。ところでスライフが……あの黄昏の者が、ノアの呪いによって家畜が死ぬと言っていることについて、どう思う?」
ロンロは、今までの話し合いに参加していない。
見張りと称して姿を現さないのだ。
ふと、そんなことを思い出した。
「そうね、今までもチッキーが家畜について世話してくれてたでしょう?」
「確かにな。だがノアの呪いは、ノアの成長に伴って、強力になっていくんだろう?」
「えぇ。きっとそのうち……ノアが大きくなって、大人になった時、辛いことになるでしょうねぇ」
「案外ロンロは気楽なんだな」
ロンロの気楽というか、投げやりな発言に、ついつい責めるような口調になってしまう。
彼女はポーカーフェイスを崩さないので、内面が分からないことが多い。
「だって……ううん、そうね、私はもう諦めてるのかも」
「諦めるのが早いって」
「そうね」
「ところでノアの呪いが強く影響してるヤツと、影響しないヤツがいるらしいんだが、何か心当たりあるか?」
「呪い子の呪いは、全てに平等に訪れると聞いてるわ」
「そっか」
「影響しないって、ひょっとして抵抗力の差のことかしらぁ。魔力の高い者は、問題なく耐えきれるわぁ」
抵抗力の差が理由とするならば、子ウサギ3匹のうち1匹だけが大丈夫である理由が説明できない。
「ロンロには呪いによって死ぬ家畜なんかがわかるのか?」
「私にはわからないわぁ。だから、できることだけしか……出来ないのぉ」
「できること?」
「見張りと……ノアの相談相手ねぇ」
相談相手。確かに、ロンロは相談相手になっている。
主として他者と話す時、何かの魔法を行使するとき、ロンロが側でアドバイスしているのを聞いたことがある。
そして、そのアドバイスはいつも的確だ。
「じゃあ、これからも相談相手を頼むよ」
ロンロにも、心当たりがないか。
仲良く茶釜の側で寝ている子ウサギを見て、違いがあるかどうかを考える。
特にどこかに違いがあるとは思えない。
強いて言えば怪我をした1匹は、怪我が完全には治っていないので、背中に大きな傷が見える。
だが、呪いの影響を受けていないのは別の子ウサギだ。
「うーん。この子ウサギ達がヒントになるはず……ヒントに」
考えながらウロウロしたが、どうしても答えが出なかったので横になることにした。
次の日も代わり映えのしない風景を進む。
さらに次の日も。
大平原の巨獣にも見慣れてきた。
巨獣への対抗策は、遊牧民から巨獣よけのお香をもらい対策できた。
香を焚きながら進む。巨獣とはちあったら一旦止まる。そうすると香の匂いが辺りに立ち込めるので、巨獣は自然と避けてくれる。
肉食の巨獣が、たまに襲いかかってくることがあったが、その時も同じだ。
カガミが魔法の壁で周りを覆い、香を焚く。
出会った肉食の巨獣は、ティラノサウルスよりも小型のヤツばかりだったので楽勝だった。
すばしっこいが、魔法の矢が通じるので、簡単に対処できたのだ。
順調に、海亀は進む。
変わったことといえば、昨日から海亀を茶釜が引っ張っているということだ。正確には茶釜とその子ウサギ達。
とうとう雪が降ってきたのだ。
寒さが増して雪が降る中、海亀は寒さに弱いようで、動きがゆっくりになる。
「爬虫類ですし、言われてみれば弱いと思います。思いません?」
この件については、カガミが魔法で対応した。
もともと、以前より考えていたそうだ。
具体的には床板の一部を、魔導具である暖炉石の応用で温める。
おかげで、亀も寒さから少しだけ解放され、オレ達も少しだけ床暖房にありつけた。
もっとも、だからといって海亀は素早く動けない。
そこで飛翔魔法の帽子を少し改造して、浮遊魔法の帽子にした。
海亀には浮いてもらうことにしたのだ。
飛翔魔法ではなく浮遊魔法で。
浮遊魔法は浮くだけだが、飛翔魔法よりはるかに少ない魔力で起動できる。それに仕組みも簡単だ。だから比較的楽に、長時間浮くことができる魔導具が作れる。
そんな宙を浮く海亀を、茶釜と子ウサギが引っ張っている。
おかげで昨日から進むスピードが速い。海亀の軽く倍は出ている。
がんばる茶釜に乗るのはカガミとミズキ。
「耳がヒラヒラしててかわいい」
可愛い可愛いと言いながら、幸せそうに乗っている。
好きでやっているのだからどうでもいいけど。
「ホントに飽きないよなぁ」
ふと2人の様子をみて、ぼやいたときのことだ。
ノアに魔法の勉強を教えていたサムソンの大声が聞こえた。
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