第274話 いそがしいおわかれ

 大盛況のまま終わった誕生日会から数日後。

 出発することにした。


「もう少しいらしていてもいいのですが」

「えぇ。お気持ちはありがたいのですが、実はサムソンが探していた魔道書のありかがわかりまして、できるだけ早く手に入れたいのです」

「そうですか。残念です」


 ラッレノーにお別れの言葉を言う。

 表向きはサムソンが魔道書を見つけたということで、早めに出発することを伝えた。


「うん」


 2日ほど前、ノアに出発する日程などを伝えたところ、小さく頷いた。

 その様子から、残念がっていたことが見て取れて、心が痛んだ。


「ごめんな。ノアちゃん」


 サムソンが謝る。

 ノアは首を振って「いいの」とだけ言った。

 パエンティとサエンティの2人は呪い子であるということを知ってもなお、友達となってくれた同性の人間なのだろう。だからこそ、別れたく無い気持ちがあるのだと思う。

 チッキー達は、どれだけくだけた対応をしても主従関係を崩さないから、あの2人とは違う。


「もうちょっとだけ長く滞在したかったね」


 ノアのいないところでミズキが寂しそうに言った。


「大丈夫さ、なんとかなる」

「そうだな、飛行島を作るなり、自由に動かせるようになれば、こんな大平原なんてひとっ飛びだ。それに……まぁ、何にせよ。また来ればいい」


 サムソンの希望的な言葉を聞いて、皆が頷く。

 別れの挨拶もそこそこに、出発する。

 お別れだけはじっくりさせてあげたいと思い、朝を皆でゆっくりと食べてから出発することにした。


「もう行っちゃうんだ」

「うん、あのね、急がなきゃダメなんだって」

「ノア、元気でね」


 最後の一言二言は聞き取れた。

 お別れを惜しむような言葉としては、あっさりとしたものだったが、3人は寂しそうに見えた。


「さて、じゃあ出発するか」

「出発進行!」


 エルフ馬といわれる巨大ウサギの茶釜、そしてその子供である3匹の子ウサギ、仲間を増やして旅の再開だ。

 オレ達一行は東へと向かう。

 大平原をさらに東に向かう。

 ゆっくり、着実に。

 大平原を進みながら落ちている世界樹の葉を拾い保管しておく。


「町に着いたらトーク鳥買わなきゃね」


 出発してから、トーク鳥を持っていないことに気がついた。

 それまでは、拾った世界樹の葉をエルフ馬の餌としなくてはならない。

 ノアの呪いから逃れる方法。

 それを考えながらゆっくりと進む。

 今のところ、呪いから逃れているのはオレや同僚、ピッキー達3人の獣人、海亀、ロバ、そして子ウサギのうちの1匹。

 他の2匹と親である茶釜は呪いの影響下にある。

 リミットまでに、対策を見つけなくては、命を失うことになる。

 共通点。

 呪いの耐性をもつモノの共通点。

 耐性が無いモノの共通点。

 共通点、共通点と心の中で何度も呟く。

 他のみんなもそのことを考えている。

 毎夜、ノアが寝たあとに共通点について話し合う。

 性別、名前、年齢、その他もろもろ。

 書き出して検証するが、明確に理由を言えるものがない。


「ノア、ハロルドの呪いを解いてくれる」


 代わり映えのしない景色、代わり映えのしない日常に、ふと気になったことができた。

 せっかくだ。ハロルドに聞いてみることにする。


「なんでござるか」

「これから行く、迷宮都市ってどんなところなんだ?」


 おそらく知っているだろうと当たりをつけ、ハロルドに質問する。

 情報ぐらいは知っておきたい。もっとも、気分転換の意味合いが強いのだが。


「そうでござるな。迷宮都市は南方東部にある大遺跡群、その中央に位置する町でござるよ」

「大遺跡群?」

「土砂に埋もれた遺跡の集まりでござるよ。巨大な町がまるごと土砂に埋もれているでござる」

「テンホイル遺跡みたいな?」

「そうでござるな。その遺跡の上に町があるでござる。故に、地面を掘れば、かっての町の残骸があるでござるよ。それが迷宮として一攫千金をめざす冒険者を引きつけるのでござる」


 冒険者。

 この世界に来るまでは、冒険者という言葉に夢を持っていた。

 ロールプレイングゲームで見るような、魔物を倒したり、依頼をうけて村人に感謝されたり、そんなイメージ。

 だが、こちらの世界で見る冒険者は、うさんくさかったり、ガラが悪い。

 ならず者といったのばかりだ。

 酒場に入る時も、冒険者御用達となると敬遠してしまう。


「冒険者かぁ」

「それゆえ迷宮都市フェズルードの冒険者ギルドは、規模も巨大でござるよ」

「なるほどね、それにしても、冒険者ギルドって誰が運営してるんだろうな」

「商業ギルドや領主でござるよ。町によっては、有力な商人が単独で作ることもあるでござるが」

「国単位とかじゃないんだ」

「ふむ。国単位というのは聞いたことがないでござるな。大抵は町ごとでござる。せいぜい領主が主体となって、複数の町をまたぐ……その程度でござるかな」


 イメージしていたよりも小さい組織なのか。

 ゲームやアニメでは、世界的な組織でA級B級とかS級に分かれていて、S級は世界の英雄。そんな印象だったが、こっちの世界の冒険者ギルドはそんなゲームや漫画の設定とはことごとく違う。


「今度いく所も、冒険者はガラが悪いんだろうな」


 どうにも、ガラが悪いのは苦手だ。

 町で因縁をつけていたり、兵士と揉めている冒険者はたまに見る。あんなのが沢山いる町は長居したくないのだ。


「そうでござるな。元々の身分が高い者や、お金がある者、それなりの技術を持ってる者であれば、冒険者ギルドなどに入らんでござるからな」

「そうなのか」

「結局のところ、一攫千金を夢見て命をかける者が多いでござるよ」

「一攫千金」

「ゆえに彼らは多くの場合、捨て駒にされる運命でござる。そして活躍すれば、貴族や大商人のお抱えになれるかもしれぬ。そんな感じでござろうか。もっとも、師匠や親の伝手などあれば、冒険者にならずとも、貴族や大商人に雇われるものでござるが」


 なんだか夢がない。

 現実的でシビアな話を聞かされた。しかも、師匠の伝手で就職……コネ全力の世界ではないか。

 迷宮都市へ繋がる街道には、遊牧民のいた場所からひたすら東に進めば大丈夫と聞いている。

 ピッキーが遊牧民から正確な方角を割り出す方法を習っていたし、サムソンも似たようなことができる。問題はないだろう。

 迷宮都市フェズルード。そこに着く前に、ノアが持つ呪いの秘密を解明したいものだ。

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