第250話 こだいへいき
とりあえず試したいもの。
魔導弓タイマーネタ。巨大なバリスタだ。
バリスタと言っても、その外見は小型の馬車1台分程の大きさでバリスタの形をした石の塊。ちょうど矢をつがえて、今にも発射しそうな状況を模型にしたような姿をしている。
機械的に動く場所はまったくない。
矢の部分に、くぼみがあり、そこに弾丸状をした触媒をはめ込み使用する。
触媒は複製の魔法を使い適当に増やした。
百個以上はある。この触媒が一つあれば、10発くらいは撃てるようだ。
フルパワーだと1発。
せっかくだ。最初は景気よくフルパワーでいくことにする。
『バリ、バリバリ』
前方で、アレイアチと呼ばれる魔物が、半透明の壁を次々と破っていく姿がみえた。
カガミの魔法により、次々とうっすらと見える魔法の壁が生成される。
そんな次々と追加される魔法の壁に対して、アレイアチは巨大な両足を前に突き出し破壊していく。
何枚も何枚も、軽々と破壊され続ける状況に駄目かもしれないと思ったが、そんなことはなかった。
大量に重なり立ち塞がる魔法の壁を前にして、アレイアチの勢いは大きくそがれ、とうとう最後には、つんのめるように地面に着地した。
その直後、サムソンが生み出したゴーレムの手が、体に似合わない長く巨大な足をグッとつかみ、アレイアチの体を倒す。
「そのまま抑えておいてくれ頼む!」
サムソンに一声かけ、準備を続ける。
「ラルトリッシに囁き……」
はめ込んだ触媒に両手をつき、キーワードをつぶやき、決められた言葉を続けて発する。
「右手は体を、左手は剣を」
オレの両手が黄色く光り出す。一応、説明書きのとおりだ。
これで右手で打つ方向を指さし、左手を右肩に置く。
「リーダ! まだか! 持たない!」
サムソンの大声が響く。
みると、サムソンの作り出したゴーレムの手はもがくように足をばたつかせるアレイアチに壊れかけていた。
「あと少しだ!」
大声で、返答したあと、最後の動作をする。
右肩に置いた左手を、右腕をなでるように動かす。
左手が右の指先まで動けば発射だ。
『ドォン!』
爆発音がして、古代兵器である魔導弓タイマーネタが発射される。
双子が使っていたときのように、巨大な魔法の矢が出現するのだとばかり思っていた。
だが、違った。発射されたのは魔法の矢ではなかった。
巨大な光線……レーザー砲がレーザー光線を発射するように、鮮やかな黄色い線が出現し、まばゆい光とともに地表を削り伸び上がるように空へと打ち上がった。
その光線はアレイアチには直撃しなかったが、ほんの少しだけかすり、巨大な鳥の頭を吹き飛ばした。
それは一瞬の出来事だった。
後に残ったのは、体の3分の1が消し飛んだアレイアチの死体と、倒れた魔物の背後に見える延々とえぐられたような地面だけだった。
かすっただけでこれか。
「マジか」
「リーダ。やりすぎじゃ……」
誰もが唖然としている。
「いや、こんなに威力があるとは思わなくてさ」
オレもこんなに威力があるとは思わなかった。
確実にオーバーキルだ。
「ちょっと使いどころがないぞ、これ」
サムソンが絞り出すように言った言葉に同意だ。
とんでもない破壊力に、持て余す未来しか見えない。
フルパワーはやめた方がいいだろう。
皆、驚いていた。
なかでもイアメスは相当だったようだ。
ぽかんと口を開けたまま。呆然と立ちすくんでいた。手に持っていった細身の剣をおもわず落としてしまったようだ。彼の剣は大平原の草むらに落ちていた。
「リーダは凄いね」
逆に、ノアは嬉しそうに笑っていた。
「さてと、せっかくの大平原のお肉だ」
気を取り直して、解体することにする。
恐竜ではないが、せっかくの大平原の巨獣だ。
いつものように、黄昏の者スライフを呼び出すことにする。
そそくさと魔方陣を広げていると、イアメスが遠巻きに近づいてきた。
「何をされますのデ?」
「せっかくの大平原の巨獣なので、解体してお肉をいただこうかなと」
「解体?」
イアメスが素っ頓狂な声をあげる。
「ええ、せっかくなので」
「か……解体できるのですか」
「ええ、私が解体する訳ではないのですが」
いつものようにスライフを呼び出す。
「久しいな」
「そういや、そうだな。んで、これ。いつものようにチャチャっと頼むよ」
「まかせておけ。我が輩、仕事に手を抜かぬ」
いつも通り捌いてもらう。
瞬くまに、さばかれて、いつものように複数の塊が空中に浮く。
「この肉ってうまいの? 大平原の巨獣って食ったことないから、料理法でいいのがあれば教えてほしいんだけど」
「これは、大平原の巨獣でない。どこにでもいる魔物だ。それに、こいつは食わない方がいいだろう」
「そうなの?」
怪鳥なんていっていたから、毒でもあるのかな。
食えないなら、全部スライフに持って行ってもらうかな。
代わりに何を聞こうか、考えていなかったから悩むな。仲間にも相談してみるか。
「ある意味、毒だ。こいつはデルコゼに身体を冒されている」
デルコゼ。
魔物を操る魔石。確かそういう物だった。
つまり、怪鳥アレイアチは操られていたのか。
この場に魔物を操ってオレ達を襲いそうな人間は一人しかいない。イアメスだけだ。
もしかしたら、もっと遠くにいるのかもしれないが、一番怪しいのはイアメスだ。
やはりイアメスが……。
チラリと彼を見やる。
「デルコゼに覚えがありますか?」
「デ……デルコゼですト?」
「ええ、魔物を操る」
「そうだよ。そいつが昨日の晩、デルコゼを魔物にやってたよ」
ヒョイと柵の方に身を乗り出し、モペアが証言する。
「昨日の夜……そうだったのねぇ」
ロンロが真っ暗で見えなかった状況も、モペアには見えていたようだ。
「もっと早く言えばいいのに」
「あっ、いや、ワタクシ、それは……」
唐突に始まった追及に対し、イアメスがうろたえ、後ずさる。
「大体わかりました。安心してください、イアメス様」
そんなイアメスの前に、カガミがすました顔で近づいていった。
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