第248話 うたがうひと、しんじるひと
「えっ」
猫の獣人イアメスが、口を大きくあけ驚愕の表情を見せる。
「まさか、ハロルド」
「知り合い、ですか?」
「いや、拙者は知らぬでござるよ。どこかで会ったでござるか?」
「あ……ワタクシめが一方的に知っているだけでして、あの地竜砕きのハロルド……様がいらしたとは。いや、それわ、その」
一方的に知っているということか。なんか凄くびびっているな。まあいいか。
「じゃあハロルド任せるよ」
そして、ハロルドを残し、皆で小屋に入る。
先程のハロルドとの会話をカガミとミズキ、そしてプレインにも改めてする。
「うん、言いたいことはわかったよ」
「そうか」
「大丈夫だって」
ミズキの軽いリアクションに心配になる。
「何か悪いことを考えてる可能性だってあるんだ。金獅子っていうのは奸計が得意だっていうしね。注意はしないと」
「でも、ノアちゃんが言うように、本当に悪意を持って私達をなんとかしようというのなら、わざわざ金獅子の正装してアピールするように近づいてこないと思うんです。思いません?」
カガミもヤツの味方か。
「そうそう、大丈夫だって、なんたって可愛いし」
「あのさ、その可愛いからなんとかっていう態度はそろそろ改めた方がいいんじゃないか?」
前々から思っていたことをカガミとミズキに伝える。考えなしに可愛いものを信用していいのかと思うのだ。
「えっ、リーダ。妬いてるの?」
心底、面白いといった調子で、笑顔のミズキがそんなことを言い出した。
なんてことだ。こちらは真面目に話をしているのに。
「というかさ、可愛いのと信用するのは別の話だろ?」
「今んとこ大丈夫じゃん。可愛いだけじゃないって、ちゃんと相手を見て判断してるって。ほら、第一印象で決めたピッキー達もすごく頼りになってるでしょ?」
「そうですそうです。海亀だって私達の旅に欠かせないパートナーです」
即座にミズキとカガミに反論される。
多勢に無勢だ。
「おいサムソン」
頼れるブレーン、サムソンに言葉を振る。
「まぁ、情報少ないしなぁ」
ちっ、何の役にもたたないコメントしやがって。
「じゃあ、プレイン」
「うーん。とりあえず保留で。もう案内をお願いしたわけっスよね?」
「えぇ。すでにお金も渡しました」
「この大平原で迷うかもしれないっていうのも、嘘じゃないと思うっスよ」
「確かに、プレイン氏の言うとおりだ。今のところ世界樹ぐらいしか、目印になるものはないぞ」
「それに先程の、首長の恐竜への対応もなかなか見事だったっスよ」
言われてみればそうだな。オレ達に害をなそうっていうのであれば、あれは放っておいてもいいシチュエーションだった。
「確かにリーダの言いたいこともわかります。悪意を感じたというのなら、警戒はしたほうが良いと思います。ということで、しばらく様子を見ましょう」
パチンと軽く手を叩きカガミが言う。
とりあえず情報の共有はこれくらいでいいだろう。
「そうそう。町に行ったらすぐに迷子になるリーダや、アイドルのおっかけで金を使い果たすサムソンに比べれば、ずっと役に立つって」
外に出ようとしたとき、ミズキがひどいことを言い出した。
ひょっとして、さっきの生贄になってしまえ発言を根に持っているのだろうか。
サムソンを見て、なんとか言えと目で合図を送る。
「まぁ。ミズキ氏も結構飲みで金浪費してるしさ」
そうだそうだ。もっと言ってやれ。
「そういやサムソンにお金貸してたよね。マリーベルさんの時に。まだ返してもらってないんだけど」
「あ……すまん。いや、ごめんなさい」
即撃沈。
奸計が得意な金獅子ではないかと疑われる猫の獣人イアメス。その彼に対するスタンスは、カガミとミズキが好意的、サムソンとプレインが中立、悪党だと思っているのがオレということになった。
いや、ハロルドも悪党だと思っているか。
ただし彼が金獅子、もしくは敵であるとの確証はない。そのうえ、大平原で迷うという皆の意見ももっともだ。
そんなわけで、とりあえずは彼に案内を頼むことにした。
イアメスは案外働き者だった。
悪意を持つという部分については、ヌネフの意見は変わらない。
「こちらですゾ」
彼は定期的に、地面にその大きな耳をつけて、方角にあたりをつけていた。
確信をもって進む態度から、適当に言っているのではないことがわかる。
「遊牧民の居場所がわかるんスか?」
「もちろんですゾ。遊牧民は、巨獣からつかず離れず生活しておりますれば音でわかりますですゾ」
「でも、それでは恐竜……いや、巨獣の場所はわかっても遊牧民の居場所はわからないと思うんです」
「いやいや。その先がありますれば」
「その先?」
「遊牧民はテントのそばにお香を焚いてますゾ。それは巨獣よけなのですゾ。つまり、巨獣が近くにいながら、足音のしないぽっかりと空いた空間。その場所こそが遊牧民の居場所なのですゾ」
なるほど。理にかなっている。
それで、先ほどから恐竜に遭遇しないように進めているのか。
遠くに恐竜がいるのはわかるが、すぐ近くというわけでない状況が続いていたので、不思議に思っていたのだが、これで理由がわかった。
なかなか優秀じゃないか。
ひょっとしたら、悪意というのも、小銭をだまし取ろうとかそういう程度のものなのかもしれない。
「ところで、その服装かっこいいっスね?」
「服装?」
「そうっス。誰かモデルがいたりするんスか?」
「モデル?」
「有名人とか、軍隊……とか? なんか制服のように見えたもんで」
「ひぇ?」
すごい。プレインは服装から探りをいれているのか。
いきなり動揺している。
やましいことがあるのか。
「いえ、私、商家の者でして、その商家でのお仕着せ。そう、お仕着せなのですゾ」
「なるほど、お仕事用の服なんスか」
「そうです。そうでございますゾ」
仕事用か。いや、本当の事を言っているのであれば……だけど。
「あぁ、それで先ほど受け取ったお金を熱心に数えてらしたんですね」
「え、はい。そうですとも」
さっきから挙動不審だ。
怪しいといえば怪しいし、だますつもりならもう少し芝居がうまくてもいいと思う。
うーん。
結局、出会った初日は、判断できず。夜になった。
そこまで、悪い人ってわけでもなさそうだけれど、どうしたものかな。
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