第227話 おぼろげなつながり

 とりあえず、先ほどのトロールを真似てクルクルと魔法陣の描かれた石を回してみる。

 回すほど、ゆっくりと下に降りてくる。感触でわかる。ネジだ。

 ネジのように溝が入っているのだ。

 力も必要とせず、スムーズに取り外せた。


「あぶな」


 魔法陣の描かれた石を完全に取り外したところで、上に乗っかっていた半透明で緑色をした円柱状の石が、ボロリとはずれ、足下にころがる。

 サムソンが慌ててキャッチする。


「ノイタイエル……魔導具……、天文家所有分、認証済、統一王朝時代、売買禁止……遺物」


 すぐさまサムソンの手元を凝視したカガミが呟く。

 看破の魔法で見たのだろう。


「あれ、この石……裏に何か書いてあるっスね」


 オレが抱え持っていた石を見て、プレインが言う。

 魔法陣が描かれているほうとは逆の方には、文字が書かれていた。

 彫り込まれた文字に、黒い墨が流し込まれているようだ。

 外気に触れていなかったためか、まるで文字が書かれたばかりのように裏面の文字は読める。


「数字と……文章です。えっと……所定区域以外では、飛翔能力消失限界2トルベルを超えてノイタイエルを外さないこと。1トルベルを超えて、ノイタイエルに触れてしまった場合は、白以下は処分し、以上は医師の指示に従うこと……注意書きのように思えます」

「トルベル?」

「前後の文面から推測すると、時間の単位のようだな。あんまり長く触っていては駄目なようだ」


 ミズキの質問に、サムソンは答えるとすぐさまオレの手にあった、石の上に魔導具ノイタイエルを置いた。

 落とさないように、もとあった場所に魔導具を戻し、魔法陣が描かれた石をはめ込む。

 先ほどの注意書きはいまいち分からない部分も多かったが、すくなくとも飛行島を浮かせる動力だとは推測できた。

 つまり飛行島を浮かせているのは魔導具だったのだ。

 そして下の魔方陣はそれを起動させる為の魔法陣ということで良さそうだ。


「この魔導具を作ることができれば、空飛ぶ家が手に入るっスね」

「とはいうものの、魔法陣と違って解析ができない。分かったのは名前だけだぞ」


 弾んだ声のプレインに腕を組んだサムソンが応じる。


「屋敷の本、リーダが持っているんですよね。それをあたるしかないと思います。思いません?」


 カガミの言うとおり資料をあたるしかないようだ。

 魔法陣だったら、描き写せばいいだけだったわけだから、魔導具という結果は少し残念だ。

 長老の家に帰ってから、とりあえずチクチクと屋敷から持ち出した本をあたっていくしかないだろう。それとも、報酬に飛行島を含めるように交渉するか。

 おいおい考えていこう。


「じゃあぁ、リスティネル様が言ってたように、私たちの家の方も見てみない?」

「そうっスね」


 そんなわけで次は、オレ達が乗ってきた飛行島へと向かう。


「ガーゴイルがくっついてる」

「こっちのは、なんかいろいろ凝ってるっスね」


 プレインが、空飛ぶ家の土台を見上げながら一周して言う。

 他の飛行島とは違い、ゴツゴツとした岩肌ではなく、ガーゴイルがあしらわれていた。

 3体のガーゴイルが、まるで飛行島を背負うようなポーズであしらわれている。

 他の飛行島との違いはそれくらいで、魔法陣の描いてある石を簡単に見つけることができた。

 魔法陣の描いてある石は、問題なくねじって外せそうだ。


「一応、助言通りに物尋ねの魔法を使ってみようと思います」


 カガミに任せて、何が起こるか期待しつつ詠唱が終わるのを待つ。

 今度はトロールではなかった。獣人がたくさん出てきた。

 皆、オオカミの頭をしている。同じ種族のようだ。

 随分楽しそうだ。獣人の一人が手に持った本を見ながら、指示をだしているようだ。それに基づいて他の獣人が動き回る。指図する獣人の周りにはちいさな子供の獣人達が走り回っている。それを見て作業をしている他の獣人達はにこやかに笑いながら、地面に置かれていると思われる石を並び替えたりしていた。そんな風景が延々と続く。そして、最後に指示を出していた獣人が手の本をパタリと閉じた後、映像は終わった。


「すごい楽しそうっスね」

「うん、なんか幸せいっぱいって感じ」

「あの獣人が持ってる本、最後、小さくなったように見えました。見えませんでした?」


 確かに小さくなった。それに、小さくなった後、真ん中に大きな穴が開いていた。


「まあ、それはともかく、同じような仕組みだったぞ」

「でも、こっちは、あの円柱の石が三つもあったっスね」


 そうなのだ、他の家とは違って、あの円柱の石……魔導具ノイタイエルが3つあった。魔法陣の描かれた石を外すと、予想していたとおり3つノイタイエルが落ちてきた。


「3倍早いってことっスかね」

「そうかもしれない。まぁ大きさも違うんだし、いろいろと違うのかもな」


 そんな話をしている時に、ノアがたすき掛けにした鞄からごそごそと何かを取り出した。

 真っ赤な手帳。真っ赤なテープのようなもので、ぐるぐる巻きにされているが、その手帳の中央は大きく空洞だった。

 そして、それはあの獣人が持っていた手帳と全く一緒だった。

 中央に大きな穴が開いている真っ赤な小さな手帳。

 見た感じ、ずいぶんと使い込まれた物のように見える。


「これ、ママが……」


 ノアが小さな声で何かを呟く。

 あの狼の頭をした獣人が持っていたものと同じ物の可能性がある。

 こんな奇抜な手帳、そんなに何冊もあるとは思えない。

 そういう魔導具かもしれないが、なんとなく同じ物に見える。

 だが、テープでぐるぐる巻きにされている状態では開くこともできない。試しに破ることができるかと試してみるがびくともしない。無理に破いて何かあったら嫌なので、力尽くでなんとかするのはすぐに諦める。


「これは昔からこんな感じだったの?」

「あのね。ママが呟いて、そしたらリボンがほどけて、中にいつも何かを……。すごい怖いか……」


 声が小さく弱々しくなる。


「そっか」


 無理に聞き出すのはやめる。それにしても、何が書いてあるのだろうか。

 ノアの母親に関する手がかりがあればいいなと思う。

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