第216話 ふたりのしゅちょう
迎えにきたハイエルフの一団に連れられ向かった先には、長老の家よりも大きな家があった。
そこはエルフの会議場ということだった。
中に入ると巨大な部屋が一部屋。中央に大きな円形の空間があり、その周りを取り囲むように階段状に2段の段差がもうけられている。
オレ達は中央の円形の場所に立たされた。周りを取り囲むようにハイエルフ達が座り、オレ達を見下ろす。
そして最後に、別の出入り口から、数人のハイエルフ達が入ってきた。深い緑と、ゴテゴテとした装飾のあるローブ姿から、裁判官を連想する。
会議というより、裁判と言った方がしっくりくる配置だ。
「君たちの処分は2つに絞られた」
開口一番、最後に入ってきたローブ姿のハイエルフが言う。
そんなに勝手に処分を決められても困るんだがな、と内心呟く。
心の中での呟きなどお構いなしに、話は続く。
儀式的な文句のようだ。
「最後の二つの提案に絞られた。では、両者それぞれ最後の主張を行いなさい」
そのような問いかけでローブ姿の話は終わった。
「私達は速やかにこの者達を地上に降ろすべきだと考えます。人が作りし呪い子。この世界樹の毒となる存在でございます。故に地上に降ろし、飛行島は我々の手に、代わりにいくばくかの対価を払うべきではないでしょうか?」
周りを取り囲むように座っているハイエルフのうち、1人の少女が立ち上がり主張する。
長い金髪を揺らし、身振りを交えて演説する。
格好は、狩人や旅人を彷彿とさせる軽装に、青々とした木の蔓で出来た頭飾りをしていた。
「ニッフェオウスの娘シューヌピア。貴方の主張はよく分かりました。それに賛同する者は、後ほど決をとるまで静かにするように」
少女の演説の後、少しだけざわめく議場をローブ姿の声が制す。
やがて静かになったころを見計らって、先ほどの少女シューヌピアの向かいに座る男が立ち上がった。
「では、わたくしめが」
立ち上がった男は、先ほどの少女より年上に見えた。肩にかかるくらいの長さに切りそろえられたおかっぱ頭。オレ達が同じ髪型をしたら、確実にミズキ辺りが爆笑しそうな髪型だが、イケメンがやると様になる。そんな髪型が印象的な男だ。
このハイエルフも、旅人を彷彿とさせる軽装をしている。
目の前に立つローブ姿のハイエルフ以外は、みな普段着のような軽装をしている。だが、先ほどの少女といい、この男といい、軽装は軽装でも、やや裕福な旅人が着るような厚手の服だ。演説する人は、旅装とも言える格好をしなくてはいけないのかなと考えた。
立ち上がった男は、ゆっくりと辺りを見回した後、演説を始める。
「我々はもう二度と世界樹を失うわけにはまいりません、あらゆる手段。あらゆる方法を講じて世界樹を守るべきなのです。今回、我々が所有するのと同じ飛行島に乗って人が訪れた」
訪れたって……お前らが引っ張り込んだのだろうと。
昨日も思ったがハイエルフの人達は、人のせいにするというか、強引な所があると思う。
男は演説を進めながら、手元から数枚の紙を取り出した。
「ん? あれは……」
取り出された紙を見て、サムソンが呟く。
「見覚えが?」
「あの家に置きっぱなしだった研究成果だ」
研究成果……あの空飛ぶ家を制御する方法のことか。
「これは彼らが所有していたものだ。内容を確認したところ、飛行島の魔法陣そのものについて記載されていた。この書面に書かれたことが正しいのであれば、私達は今以上に飛行島を使うことが出来る」
男の言葉に、議場がざわめき出した。
「静かに! 静かに! ニッフェオウスの息子カスピタータ、続けなさい」
「遠くない将来、魔神が復活する。多くの予兆がそれを告げている。そのような時に空の客人を得られたのは、私達に対する最後の機会が与えられたと考えてもいいのではないだろうか!」
「そうだ!」
先程の、少女の時とは違って合いの手が入る。
ツインテール。昨日、家の前に立ち塞がったハイエルフだ。昨日と同じ格好で立ち上がり周りを見渡した後、着席する。
「そこで私は提案したい。捕らえた飛行島は没収し、加えて、この者たちに、かねてより壊れかけていた飛行島の修復を命じる。代わりに、彼らが世界樹を荒らした事に対する私達の怒りを免じたいと」
『パチパチ』
ひときわ大きく拍手するハイエルフが目に入る。先ほどとは違うツインテールだ。
ただし、拍手しているのは1人ではない。多くのハイエルフが拍手していた。
「改めて訴える。即ち、我らエルフではあの飛行島を完全には自由にできなかった。欠けた魔法陣を修復することができなかったからだ。やはり人が作りし物は、人の手により直すしかないということだ。よってその者達に修復を命じ、その代わり命の保証をすべきではないか」
この男……カスピタータは、かなり勝手で過激な事を言っている。
その上、やっかいなことにこの主張の方が分が良さそうだ。
言ってることをまとめると、空飛ぶ家は没収、ついでに働いていけということだ。
釈然としない。
一通り演説が終わり、しばらく無言で立っていたカスピタータは、勝ち誇ったような笑顔で言葉を続けた。
「どうだろうか、みんな?」
「そうだそうだ」
「私の提案は以上だ」
同意する声が上がり、その様子を満足したように、演説を終え席についた。
演説が終わり、ざわめきが続く。
これは決まりだなと思った。
労働か……。もう、諦めて報酬の交渉について考えたほうがマシかもしれない。
「では、おのおの方。シューヌピアか、カスピタータ。どちらの主張に賛同するか、挙手を持って答えてください。……では、シューヌピア」
ハイエルフの少女シューヌピアが立ち上がる。それに併せて、手が上がる。過半数には達していないが、そんなに少なくもない3分の一をやや超えるだろうか。
一通り、手が上がりきったのを確認して、シューヌピアは着席する。
「カスピタータ」
残りの者が手を上げる。数えるまでもない、こちらの方が多い。
「カスピタータの主張を認め、この者たちに労働を命じることとします」
結局、途中から予想していたとおり、家は没収、ついでに労働することになってしまった。
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