第214話 ハイエルフのさとへ
「では行こうかの。そうそう、名乗りが遅れたの。私は、リスティネル、この世界樹の守護者にして英知と気品の結晶である」
「英知と気品……っスか」
「ホーッホッホッホ。まさしく、隠せぬ気品というものも困りもの」
プレインの少し残念な人を見るような視線と言葉に、リスティネルは何を思ったのか高笑いで応える。それをみて、長老は溜め息をついた。
「リスティネル……、幼子が寝ているのだ。静かにしたほうがいいじゃろう。この森にはここ100年以上子供がいないので、皆忘れているようじゃ」
「そうであったな」
そんなやり取りをしながら、世界樹の中を進む。
本当に、世界樹は大きい。月明かりで照らされる木々の枝をつたい進むのだが、聖獣アルパルトに乗っていなければ、この道を進める自信が無い。
ゆらゆらと揺られる聖獣の背の上で、オレの目の前に座ったノアが大きく欠伸する。
「眠たいなら寝てていいよ。もう今日は大変なことはないようだしね」
「大丈夫なの……」
寝ていてもいいよというオレの言葉に大丈夫だと応えたノアだったが、その言葉からほどなくして眠りについた。
「私も眠いや」
隣を進むミズキも眠気を訴える。どうしてこんなに眠くなるのかと思って考えてみるとすぐにわかった。暖かいのだ。
この聖獣に乗ってから、快適な温度になっている。
前を進むリスティネルが振り返る。
「寝てしまったか」
ノアをみて、笑う。
「えぇ、なんだか暖かくなってきたので、そのせいかもしれません」
「さもありなん。枝先とは違って、幹の近くは心地よい空気に満たされるからの。真夜中の眠気はより強くなろう」
空調が行き届いているのか。なかなか、すごいな世界樹。
そして、よく見るといつの間にか枝と枝を橋渡しするように木の板が敷かれていることに気がついた。これなら、枝から落ちて落下することもなさそうだ。
「それにしても、世界樹の上に、ハイエルフが住んでいようとは思わなかったでござる」
「自慢するようなことではないのでの」
「皆、ずっと世界樹の上にて暮らすでござるか?」
「いや……、数百年に1度、数名が地上におり見聞を広める。いつまでも世界樹にいると、大切な時に動けなくなるのでの」
感嘆するようなハロルドの言葉に、長老が小さく笑みを浮かべて返答する。
数百年という長いスパンでも、定期的に降りるということなら、安全に上り下りする方法があるということだ。そう思うと、途端に気楽になれた。
「そうでござるな……外の世界を知ることは大事でござる」
「ついたようであるな。では、私はここでお別れだ。では、後ほど、モペアにヌネフ。そして、人の旅人よ、おやすみ」
そう言ってフッと消える。ん? ヌネフ?
キョロキョロと辺りを見回すと、ウツラウツラと揺られるミズキにもたれかかるようにして、ヌネフが乗っていた。
「いつの間に」
いつものファンファーレが無いから気がつかなかった。
「モペアの少しあとに……寝ていたモペアを起こしたのは私なのです。頑張って叩き起こしたのです。その後、派手に登場しようと思い家の屋根に上ったのですが、私の登場シーンはリスティネルに邪魔されました。今回で2度目、2度目なのですよ。憤慨なのですよ!」
そっか。モペアが現れたのが遅かったのも併せていろいろ分かった。突っ込みたいところは多々あるが、登場シーン……。
「リスティネルと知り合いなのか?」
「世界樹にはシルフがよく立ち寄るのです。木々のせせらぎは、シルフにとって素敵な歌。世界樹の枝枝が震え奏でる音は、併せて歌いたくなる楽しい調べなのです」
そんなものなのか。要するに、シルフはよく世界樹に来るということか。
「ということは、他のシルフも世界樹にいるのか?」
「えぇ、さらに上の辺りに、いるようですね。他の精霊もいますよ。全ては明日、日が昇ってからでいいでしょう」
確かにヌネフのいうとおりだ。もう夜も遅い。一眠りしたあとでいいだろう。
ヌネフとのやり取りの間に、長老の家はすぐ側まで迫っていた。
世界樹の幹にくっつくように立てられた3階建て。
窓から明かりがもれている。
地上から遙か上の幹がこの太さなら、地上はどれだけ幹が太いのだろうか。
「本当に、世界樹って大きいですね。この場所でこれなら、地上はどういう状況なのか……途方もない大きさだと思います。思いません?」
「カガミ氏の言うとおりだな」
「世界樹の幹は、一周するのに、馬の足でも1日では足りずと聞くでござる。世界樹の根元からみると、いつまでも続く壁のように見えるとか」
オレと同じ事を考えたカガミに、ハロルドが解説する。馬で一日、端が見えない……。ここはここでもっと見てみたいが、地上からも見てみたい。
しばらく世界樹見物というのも悪くないな。
「我々は、身分を考えない。故に、同じ環境で休んで貰うがよろしいか?」
長老の家につくなり、家の前で待っていたハイエルフからの質問をうける。オレ達としても、そちらの方がいい。下手に身分で区別されるのは、いろいろと嫌なのだ。
「かまいません。おまかせします」
そうして案内されたのは、長老の家の3階。一人一部屋の個室。ベッドとテーブルに、ランプの質素だが、過ごしやすそうな部屋だ。ベッドの上には薄い布一枚で不安だったが、横になるとフワリと膨らみ、高級な羽毛布団のような感触で凄く良かった。
これは、欲しいなと思いつつ、目を閉じた。
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