第213話 いざこざはおわって

 モペアが自信満々に前にすすむ。

 枝から枝へと軽やかに飛び渡る。オレは、ここに住めといわれても、住める自信がない。あの枝から落ちたら真っ逆さまに地面だ。

 落ちたら死ぬ村なんて住みたくない。


「長老は?」


 モペアは1人のハイエルフの前に進み、質問する。


「なぜ、ドライアドが人に味方する?」

「いや、質問にこたえろよ。長老は?」

「トゥンヘル!」


 別のハイエルフがモペアに矢を射る。モペアはそれを手で受け止め、そのまま手のひらをくるりと回す。矢はポロポロと崩れ、矢を射ったハイエルフは木の蔓で吊される。


「もう、同じ事ばっかり」


 モペアがあきれたように言って、さらに目の前のハイエルフへと歩み寄ろうとする。

 ところが、足を滑らせ落ちてしまった。


「モペアちゃん!」

「だから、ちゃんは止めろ!」


 落下したモペアを心配するカガミの叫びに、モペアが返答する。

 さきほどの木の蔓で吊されたハイエルフと似たような形で、片足が木の蔓に絡まれて逆さの状態で上がってきた。


「うわっ」

「木の蔓が……」


 よく見ると辺りのハイエルフの大半が、木の蔓につかまって大騒ぎだ。

 大混乱の最中、モペアはケラケラと楽しそうに笑っている。

 あいつ……事態を収拾するつもりはあるのか。


「騒がしいのぉ」


 そんな中、ひときわ大きく、若い女性の声があたりに響いた。

 声がした方をみると、木の板に乗った2人の人影があった。

 2人はこちらに歩いて近づいてくる。複数の木の板が、意思をもったように、2人の進む先に組み上がるように動く。歩き終わった部分の木が、前方に繰り上がるように動く様子に、アクションゲームに出てくる動く床を連想する。

 うち1人は、大きな木の杖をもった老人。ローブ姿で白髪頭。いかにも長老といった感じだ。そしてもう1人は、異質な女性。金髪縦ロールのマンガに出てきそうなお嬢様だ。明らかに他のハイエルフとは違う。というか、絶対にハイエルフでは無いと思うし、こんな髪型している人は町でも見たことが無い。


「長老」


 数人のエルフが声を揃えて、長老に声をかける。

 軽く右手を挙げた後、長老と呼ばれた老人は周りのハイエルフ達を見回し語りかける。


「今日は、もう遅い。お前達は忘れたかもしれぬが、子供は寝る時間じゃ。話し合いは明日でもよかろう」


 穏やかで、諭すような声だ。大声という印象はないが、よく聞こえる。


「まぁ、そういうことであるな」


 続いて、縦ロールの女が、チラリと家を見る。

 するとツインテールの2人を捕らえていた木の蔓がほどける。


「ありがとうございます。守り主様」

「まったく、外の世界を見てきた其方らが率先して動くとは……何のための旅ぞ?」

「申し訳ありません」

「まぁよい。去れ」


 ツインテールの言葉から、縦ロールの女が守り主様ということがわかった。以前、ハロルドが言っていた世界樹の守り手とは、この人の事だろう。


「して、ドライアドの客人よ。何を望む?」


 縦ロールとツインテールのやり取りを一瞥し、長老がモペアへと問いかける。

 モペアは、オレの背後へと走りより、オレの背中を両手で押した。


「こいつ。全部リーダに任せた」


 そう言ってピョンと木々の中に飛び込みモペアは消えた。


「さて、リーダ……殿。何を望まれる?」

「ここに来るつもりはなかったので、とりあえず大平原に行ければ良いと思っています」

「左様か。望まなかったか……では、いかな理由によってこの地に来ることになったか、調べる必要があるやもしれぬな」

「それは、こういう理由であろう」


 縦ロールが、側にあった木の蔓を拾い上げ、適当な長さに切った後、端と端を両手の親指と人差し指で掴む。そのまま、ピンと張ったあと、片方の手を離した。離した一方は、もう一方へと勢いがつき向かう。


「なるほど」

「この蔓が、金の鎖。つなぎ止めるつもりが急に動かなくなったので、引っ張る力のみがのこったということよの」

「綱引きで、勝っちゃったみたいに?」

「そういうことだ」

「我々が最初から最後まで原因ということか。さて、一旦、ワシの家で休んでいかれよ。もう夜も更け、幼子には厳しい頃じゃ」


 長老がノアを見て、それから獣人達3人を見る。つられて見ると、3人は寝ていた。


「あれ、いつの間に……」

「私達が来てすぐよの。緊張の糸がきれたのだろう。では、行こうかの。聖獣アルパルトの背にのるがよかろ」


 聖獣アルパルト?

 疑問に思っていたのも束の間、数匹の巨大な狸がどこからともなく集まってきた。

 皆、背中に巨大なフライパンのようなものを背負っている。巨大フライパンの中には、絨毯が敷かれているので、これに乗れということだろう。


「このように」


 1人のハイエルフが近づいてきて、チッキー達を巨大フライパンの上にのせて、自分も乗った。

 それにならって、皆が思い思いのフライパンに乗る。

 目的地は長老の家、世界樹に建つ家か。興味深い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る