第171話 トロールたいじ
「ここから村まで、どのくらいかかりますか?」
「そうですね、1日と少し……でしょうか。明日の昼過ぎには着きますよ」
村人の案内の中で森を進む。モペアが最後尾で歌いながらついてくる。
「ご機嫌だな」
「森の中だからね、ここにいるだけであたしは楽しいのさ」
夜になっても、モペアは大活躍だった。
足を何度もジタバタさせたかと思うと、瞬く間につるが伸びてきて、勝手に編み込まれ床が出来上がった。木のつるで編まれた自然の絨毯だ。
さらに手を叩くと、絨毯はうようよと動いてベッドの形になった。
ふかふかのベッドだ。すごい。
「すごいなぁ、モペア。さすが森の精霊ドライアド」
「まあね。あたしにかかればこんなもんよ。あとな、たき火はその辺でしかやっちゃダメだぞ」
モペアが、指さしたところには木の葉などがきれいに取り除かれ、土の見える円形の空き地があった。
「じゃあ、ここで」
火打石をカンカンと叩いてサラマンダーを呼ぶ。
小さな火花さえ起こすことができれば、どこに居ても来てくれるらしい。サラマンダーはしょっちゅう迷子になるので、火打ち石が大活躍する。
そして、鍋に火をかけ、山菜の鍋を作る。
昼と同じように山菜の鍋にカロメーだ。
「うん、すごいっスね。魔法があると」
「精霊の助けもあるしな、これは快適じゃないか」
「どんな人とも言葉も通じるし、お金もあるし」
「超快適な旅行だよね」
皆が笑顔で賛同する。
次の日、足取りも軽い。
寝心地がいい、静かな環境で休めたので、休息もばっちりとれた。
散策するように森の中を進む。道が見えてきた。舗装された道というより、草が車輪に押しのけられて自然と出来上がったような道だ。
「村へ向かう道です。もうすぐ着きますよ」
村人は神妙な顔で、あと少しで村が見えるといった。
さて、そのまま進んでいくと村人が言うように、村がみえた。こぢんまりとした木製の柵がみえる。加えて、柵の外側に1匹のトロールが徘徊しているところに遭遇した。
緑色をした体は森の景色に紛れやすい。まったくもって、やっかいな魔物だ。
森の中をガサゴソと歩き回っている。たまに鼻をクンクンと鳴らしているから臭いでも嗅いでいるのかもしれない。緑色の体躯はテカテカと光っていて脂肪分たっぷり、どぼんどぼんと音がして動いている。
前回は焦っていてマジマジと見なかったが、こうやって見るとヌメヌメしたような感じがして気持ちが悪い。
手には木の棒を持っていた。
無造作に木の棒をブンブンと振り回している。たまに目の前に木が立っているのに気がつかず顔面からぶつかっていた。その仕草を見るからに頭が悪そうだ。
「このままではらちがあかないが、どうしたもんかな」
「森と木々を焼くような火を使うのやめてくれよ」
モペアが言う。
「どうしましょうか、再生能力は強いんですよね」
「どこが開けた場所はないのかな」
「柵の中は村です。いまや無人の村ですが、そこは開けています」
「そっか。じゃあ村に入ってしまおうよ。あいつを迂回してさ」
「そうっすね、なんかバカっぽそうだし、遠回りしてればやり過ごせそうっスもんね」
結果的に、オレ達の想像通りだった。
トロールはあまり頭が良くなかった。そして気配を察知する能力も低いようだ。大きく迂回するとトロールに気づかれるのことなく村に着くことができた。
「ここが本当の入り口です。ようこそテンホイル村へ」
村人が石製の門を指さしいう。
「あの大きな石の塊は?」
「あれは遺跡の一部です。もともと、ここは遺跡の発掘や観光案内で成り立っておりますので」
村と遺跡は、近いというより一体化している。遺跡の側に村を作ったという感じか。
「皆さん、遺跡の発掘や観光案内をされているんですか?」
「他には、野菜なども作っていますよ」
見れば荒らされた畑なども見える。そして遺跡の入り口にはアーチ状の石が連なった門が見えた。
「遺跡の門……あれが入り口なんですね」
「テンホイル遺跡はほとんどが土の中に埋まっています。何年も何年もかけて、ようやくあれだけ発掘が終わりました」
なるほど。続く村人の説明でより詳しい状況がわかった。
ある日、遺跡の奥でトロールに遭遇したことが始まりらしい。
すぐに遺跡から逃げだし、入り口を岩で塞ぎ、兵士を呼びに行ったそうだ。だが、岩はすぐにはじき飛ばされ、次々とトロールが出てきた、全部で5匹。これはかなわないということで撤退して村は無人になったらしい。
「皆の生活が出来なくなったら大変だと思うんです。思いません?」
「そうだね」
「このまま戻れなくなったら別の場所で暮らすことになるんスか?」
「ここの遺跡の調査で、領主様から税を免除してもらう上に、資金援助もあります。ここを離れるわけにも……なかなか」
「なるほど、それではトロールを退治しなくては、なりませんね」
「はい、観光どころではないです。兵士が無理なら、冒険者ギルドへ依頼を出すことになるでしょう」
途方に暮れた調子で村人が呟く。
「さて、ここだったら火を使ってもいいよな」
「そりゃあね、ここは人の領分だから好きにすればいいよ。あたしには関係ない」
「どうやってトロールを退治するかだな」
「誘導してもらえば、火柱の魔法で倒せると思うんです。思いません?」
「でも、複数相手だとカガミが危険だよ」
「あれは、発火地点に描く魔法陣と、起動のための魔法陣が別々なんです。ゴーレムの魔法陣みたいなものです」
なるほど、二つの魔法陣を線で繋げるタイプか。
それなら、村の一角に発火場所指定の魔法陣を描いて、長めの線で繋げば、離れた場所で安全に起動できることになるな。
「まかせて。私が誘導役やるよ」
ミズキが立候補する。
そうして始まった、トロールの殲滅作戦。物陰に隠れてオレとノア、そしてハロルドは興味深く様子をみる。プレインと、サムソンは獣人達3人に加え村人と一緒に、オレ達の向かい側に隠れ、あたりを警戒している。モペアとヌネフは、屋根の上だ。上から辺り一帯を見張るそうだ。
「危なくなったら、ハロルドの呪いを解除してね」
ノアにそう言ってミズキを緊張した面持ちで見守る。
ミズキは一気にトロールのそばに近寄ったかと思うと大きく手を叩いた。
うまくトロールを引き連れ魔法陣に近づく。
「いま!」
ミズキの合図に魔法を起動する。
簡単に一匹目を倒した。
トロールの動きがとても素直で、遅いこともあって、余裕モードだ。
一旦休憩を兼ねて集まり、殲滅作戦の途中経過について話す。
「うーん、これってオーバーキルだぞ」
「そうですね。魔力の消費も激しいです。要改善点だと思います」
まだまだ課題は多いが、問題なく使えることがわかった。
この調子でトロールを全部倒してしまおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます