第154話 だいまほうつかい

 あれ?

 時間が掛かるかなと思っていたが、問題点がわりとあっさり見つかる。

 文字の綴りが違う……。プログラムで言う構文エラーだ。

 外周から内側へと、魔法陣にある文字をサラサラとみていくと、いくつかの文字に間違いをみつけた。

 同僚も、次々とみつけていく。4つの魔法陣に結構たくさんの間違いがあったようだ。


「もしかしたら」

「どうしたんだ、カガミ?」

「私達は、魔法陣に描かれた言葉がわかるけど、普通わからないんですよね」

「そうらしいね」

「だから、私達は1文字の違いで、綴りの誤りが見抜けますが、普通は見抜けないのでは?」

「そういや、そうだ」


 魔術ギルドの面々は、まったく読めないから、綴りの間違いに気がつかなかった……ということか。

 文字が読めるのは本当に便利だ。

 はるはあけぼの。

 はろはあけぼめ。

 文字が似ていると、図として文字をみるだけで間違いを判断するのが難しい。読めるからこそ、理解が早くなる。

 同僚と4つの魔法陣を行ったり来たりしながら修正していく。途中から、ノアとロンロも参加して、アドバイスしてくれた。

 ノアは勉強の成果がでているようで、自分が読める範囲で一生懸命手伝ってくれた。

 一通り修正が終わり、再度起動させる。


「上手くいったようだな」

「おぉ、これは見事。この剣の構え、まるで公爵閣下のために用意されたと言わんばかりではないですか」


 ラングゲレイグが絶賛する。まるで……というより、オーダーメイドだけどな、心の中で呟く。


「そんな……こんな短時間で、修正したのか」

「もしや4つとも? ありえません。ありえません」


 対して、転記を行った魔術師ギルドの面々は、驚きのあまり声が裏返っている者もいる。

 でもまぁ、あの複雑な魔法陣を初見で、なおかつ2日で転記しちゃうんだから、それはそれで凄いと思うよ。


「魔術師ギルドの者が、魔法陣の転記を失敗していたというのかね?」

「いえ、それは、そのですな」


 公爵の軽い感じの質問に、魔術師ギルドの職員が狼狽したように言葉をつまらせる。

 見るからに、どんどん顔色が悪くなっていく魔術師ギルドの職員。


「初めて見る魔法陣を転記するのは難しいものです。私もよく間違えるのです」

「なるほど。そういうものか」


 足まで震えだした彼に、ノアが助け船をだした。

 ノアは優しいなと思いながら、2体目のゴーレムを創造する。


「疲れるっスね」


 プレインが小声で呟く。いわれてみれば4体を一気に作るのは魔力的に厳しい。

 この調子だと3体が限界かもしれない。場合によっては影収納の魔法を解除して、余裕をつくらないと3体ですら難しいかもしれない。


「困ったな」


 先ほどの魔術師ギルドの言い方だと、得体の知れない魔法陣を使いたくはないだろう。

 明日に改めるしかなさそうだ。

 今日で全部終わりにしたかったが、しょうが無い。


「リーダ。私が手伝いましょうか?」


 オレが公爵に話を仕様としたとき、スッと側にきたノアがオレを見上げ言った。

 そういえば、ノアもいれば5人でなく6人でやるから、余裕できるな。


「はい。お嬢様のお手を煩わせてしまい、申し訳ありません。よろしくお願いします」


 恭しく頭を下げ、お願いする。

 人目があるから、主従関係をアピールしないといけない。

 オレの返答をうけて、すぐに、魔法陣へと手をつく。

 その流れるような動きに、動くのを忘れてしまっていた。

 ノアは一人、魔法陣に魔力を流し詠唱をはじめる。とても素早く呟くように。


『ドン』


 オレ達がゴーレムを作るときは、ガチガチと触媒が組み上がり生成されるが、ノアの場合はグシャっと空中の一カ所に触媒が集中し、ドンという軽い爆発音と共にゴーレムが出現した。

 続けて、4体目。


「あ……」


 魔術師ギルドの面々も含めて声が出ない。

 確かに言われてみればそうなんだけど、こう魔力の差を見せつけられると、格の違いを思い知る。


「おぉ、重武装した4体のゴーレム。公爵閣下の所持するゴーレムとしてふさわしい。見事なものです」


 ラングゲレイグが絶賛する。

 確かに、4体のゴーレムが武器を掲げる姿はなかなか壮観だ。凄く格好いい。

 やっぱり、物体として完成品を見ることができるのは、仕事をやったという充実感を持てる。

 それから、カガミとミズキが、ゴーレムの使い方を公爵の配下へと説明する。

 オレが説明しようと思っていたら、公爵の配下が、ミズキとカガミに説明を求めた。

 はいはい。どうせ、オレは彼女達の従者ですよ。けっ。


「書面をもて」

「はっ」


 二人が説明をしている間、公爵は別の配下に命じて書面を用意しはじめた。


「まずは……奴隷2人だったな」

「はい。ラノーラとマリーベルです」

「今回の働きは見事であった。ふむ。望みの褒美はあるかね?」


 何も考えていない……というより、今の生活に満足しているからなぁ。

 周りを見回しても、皆、首を振るばかりだ。

 そうだな……。


「歴史と魔法について常々調べています。その手助けになるようなものであれば頂たいと思います」

「では……ラングゲレイグ、ギリアの城にある資料を閲覧させよ」

「はっ」

「あとは、魔術師ギルドの共用資料は、すでに持ってきているのかね」

「はい。すでに運び込んでいますが、その、まだ建物が完成していないので、一旦は領主の館にて保管しています」

「では、それをこの者達に、使わせよ」

「畏まりました」

「ふむ……そうなれば、ギリアとストリギを往復する必要もあるか。では、船もやろう」


 え? 船? 軽い気持ちで何か教えて欲しいとお願いしたら、なんかいろいろあって船までもらえた。予想外の話に頭がついていかないが、もらえる物はもらっておこう。


「ありがとうございます」


 目的は達成したし、満足な結果が得られてよかった……と思った時だ。

 1人の鎧を着込んだ騎士が走って公爵の元へやってきた。あんなに重そうな鎧をきて、とんでもない速さで走ってきた。音も殆ど立てなかったし、すごいな。

 そして軽く耳打ちし、紙を手渡した。


「何かあったので?」


 ラングゲレイグが公爵へ尋ねる。


「黒騎士だ」


 公爵が発した一言で、場の雰囲気が一変した。

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