第153話 てんまつとのうひん、そして……

「ふぃー、つかれた」

「お疲れさまでした。どうでした? 公爵の反応?」


 あの後、ラングゲレイグに声をかけられ、言われるまま公爵の別荘へと連れて行かれることとなった。

 そこで、ストリギで起こった一連の事件について話をし、ゴーレムの魔法陣を納品した。

 納品した魔法陣を大きく描き写すのは、公爵の配下が2日でやってくれることになった。完成したら確認のため再度、公爵の元へと行かなくてはならない。

 当初4日を主張した公爵の配下だったが、公爵の2日でという一言で、頭を垂れて引き受けていた状況に、過去の自分が重なり同情する。


「次もリーダとノアちゃん、二人だけで行くんスか?」


 いや、次回は全員だ。ゴーレムの創造する魔力の問題もあるし、それに公爵が全員と会いたいと言っている


「ドレスもってきてよかった」


 無邪気に喜ぶミズキには悪いが、正直なところ、ドレスは着て欲しくない。アレを着られると、なんだかオレがコイツらの従者に見えてしまうのだ。

 服装は大事だ。オレも格好いい服が欲しい。


「ところで、報酬の話はどうなったんだ?」

「ラノーラとマリーベルは、褒美としてノアに与えられる。だけど、それはゴーレムが上手く言ったらだとさ」

「そうか。なら俺はいい。皆、すまなかった」

「ところでさ、あの領主ってどうなったの? えっと、ブースハウルだっけ?」

「いつの間にか居なくなってたっスよね」

「あれは、公爵の配下がやったことみたいだよ。今は、公爵が保護しているんだと」


 当時のやり取りを思い出し、皆に説明する。


「だが、ブースハウルを握りつぶすとは、苛烈なものだ」


 あの時、馬車が公爵の別荘へと向かい動き出す直前。笑いながら言ったラングゲレイグの言葉にハッとした。そして、ストリギの領主ブースハウルがどうなったのかと、ゴーレムの手を見たときのことだ。

 ちょうど巨大な石造りの手、その親指部分が切断されて、ブースハウルはいなくなっていた。残っているのは首を落とされた飛竜だけだった。


「一体……どこに」

「ヤツなら、こちらで保護した。その件も含め、公爵閣下が直接話をされる。ゴーレムの献上と一緒にな」


 そんな馬車の中での話と公爵の話だ。


「どんな話があったんですか?」

「1つ目が、マンティコアの討伐については、全て公爵の騎士が行ったことにすること」

「そりゃ残念スね。あの一撃で、ドカーンとやったのはかっこよかったのに」

「で、2つ目が、ストリギの領主ブースハウルとのいざこざは一切なかったことにすること」

「一切なかったというと、ゴーレムの手でブースハウルを握りつぶしたこともですか?」

「それも含めてだって」

「心配していたんです。良かったと思います」

「確かにカガミの言うとおりだ。良かった。報酬の代わりに交渉する必要があるかもしれないと思っていただけに、公爵の側から言ってくれて助かった」

「あんなのにさ、これから先、関わり合いたくないよね。」

「最後に、ノアの功績は、事故による魔術師ギルド倒壊を防いだことだけにすること」

「それは認めてくれるんスね」

「あれだけはっきり跡が残っていれば、認めざる得ないようだったな。後始末は、次の領主にまかせるんだと」


 行きの馬車で「私であれば、あれは名所として残す」などとラングゲレイグが言っていた。


「次の領主……それでは、領主ブースハウルは?」

「すでに正気を失っていたとか……、デルコゼの毒が回っていたんだとさ」

「そうっスか」


 そして2日後。

 せっかくなので、一日くらい観光しようという意見もあったが、オレ達も、ラノーラも疲れているということもあって休むことにした。

 観光なら、納品後に心置きなくすればいい。

 迎えの馬車にのり、公爵の別荘へと向かう。


「やっぱりだ」

「気にしすぎだって。ほら、リーダ様って言われていたじゃん」

「あれは、レディファーストだと思います」

「……んー、リーダは下っ端って見た目だしねぇ」

「ロンロ、酷い事言っちゃ駄目なの」


 予想していたことだが、正装したカガミとミズキ、そしてノアのおかげで、男性陣は見た目通り従者あつかいだった。

 馬車の扉を開けてもらい、ノアの次にオレが乗ろうとしたらやんわりと止められた。

 話しかけられる順番も、カガミが一番、ノア、ミズキ、プレイン、サムソン、最後にオレの順番だった。

 それ以外に、特に酷い扱いされていないから、どうでもいいのだけれどさ。

 公爵の別荘についた後は、庭の一角にある広場へと案内された。

 元々は、騎士の訓練などに使うのだろう。馬術競技などで見るような柵や、人間の上半身を模した木製の人形、あとは矢を当てるための的などが設置されていた。

 特に、矢を当てるための的は、竜のシルエットのものや、ゴブリンのシルエットをしたものがあったり、とても多様で、ここが異世界であることを印象づけていた。

 そんな広場に、魔法陣が描き込まれた、大きな布が広げられ、触媒が用意されていた。


「よく分からない魔法陣を起動させることは、怖いのでねぇ」


 そのうちの一団。

 中でも、魔法陣を転記してくれた人の代表はそんなことを言った。なんでも、近く設置される魔術師ギルドの職員らしい。公爵の配下が、魔法陣の転記を命じたのだとか。

 まずはオレ達5人で起動させる。いつもの様に詠唱する。

 ところが、何もおきない。


「んー、んー、上手くいきませんな」


 感覚でわかる。これは魔法陣が成立していないときの結果だ。

 つまり転記を失敗している。


「公爵様は、明日には王都に戻られる様子……」

「それまでごまかし褒美だけ頂こうというつもりでは……」

「いくつもの種類のゴーレムなどありませんからな」


 後ろでヒソヒソ話が聞こえる。

 なんだろう、この人達は、自分達が転記をミスっているとか考えないのだろうか。

 もしそうだとしたら、凄い自信だ。


「失敗したのかね?」

「えぇ、そうですね。一応、魔法陣を確認してみます」


 椅子に座り、優雅にお茶を飲んでいる公爵に、とりあえず確認すると伝え、チェック作業にとりかかる。

 時間がかかるだろうし、解決するといいな。

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