第144話 にんげつけいさん
宿は、ロイヤルスイートといった感じの豪華な部屋だった。
部屋といっても、全部で4室ある。しかもお風呂とマッサージ付き。
至れり尽くせりだ。
ただし、部屋から出ようとすると、兵士に呼び止められる。事実上軟禁。
とりあえず、部屋からでてもバレないロンロに、領主の館を調べてもらう。
ついでに、兵士に1人だけでも外出していいか聞く。
結果、2人なら外出していいと回答をもらう。ただし、オレとノアは駄目だそうだ。
「じゃ、私が外にいってくね」
「飲むなよ」
「部屋でなら、飲んで良いの」
「さっさと行ってこい。真面目にやっとくれよ」
サムソンとミズキが外出する。
翌日、ギリアの領主……ラングゲレイグが迎えにきた。公爵に会うのはオレだけでいいらしい。
馬車にのり、ストリギの町をでて公爵の別荘へと向かう。
ラングゲレイグはすごく浮かれていた。
「はっはっは。昨日は緊張して眠れなかったぞ」
大丈夫だろうか。
着いた先は大きな屋敷だった。庭も大きく手入れがされている。
これで別荘か。
使用人に案内されて公爵のいる部屋へと通される。軍隊同士のぶつかり合いが描かれた巨大な絵が掛けられていて、暖炉がある。甲冑がおいてあり、剣も沢山飾られている。
そこにいたのは細身で初老の男だった。
細身といっても、服の上からでも体を鍛えているのがわかる。偉い人というオーラが出ていて貫禄があった。
挨拶のあと、椅子に座る。そのあとは、ラングゲレイグの話が延々と続く。公爵の活躍についての質問だったり、感想だったり。まるで有名人と、ファンの人。そんな感じだ。
永久に続くのではないかと思ったほど、話は続きそうな気配をみせたが「そろそろ本題に入ろうではないか」という一言でおわった。
「ゴーレムを作ってみせよ」
公爵の話は、簡単に言うと、その一言だった。
話の流れから、隣にいるラングゲレイグがオレ達のゴーレムを人に自慢しまくったらしい。それが公爵の耳に入ったようだ。
もともと知られていたが、決め手はラングゲレイグの言葉だったらしい。
余計なことを。
「滞在中の5日以内に作って見せよ。急がせる代わりに、触媒や人員が必要ならば、全てこちらで手配しよう」
「ギリアにあるゴーレムと同じものでよろしいのでしょうか?」
あれと同じなら、同じ魔法陣が使える。簡単な話になる。
「うむ。其方達の知るゴーレムの中に武器が使えるものはあるかね?」
「どのような武器でも……というものはありませんが、槍だけ、もしくは剣だけというものでしたら。5日ならば、一体用意できるでしょう」
一応、簡単な手の動きなら作れるはずだ。器用に動かさない前提でなら大丈夫だろう。
「選ばなくてはならない……と?」
「其方達は、布に描いてある魔法陣に魔力を流すだけであろう?」
ラングゲレイグが怪訝そうに言葉をはさむ。
沢山、魔法陣が描かれた布があるという前提なら、魔力が続けば2体くらい楽勝だろうと言いたいようだ。
「いえ、魔法陣がかかれた紙がありまして、それを転記しなくてはいけないのです。転記には時間がかかります。屋敷へ魔法陣の描かれた紙を取りに行くのに3日、転記に2日ギリギリです」
「転記に2日かかるというのは……急げばいいだろう」
軽くいいやがって。
「いえいえ、魔法陣は繊細なものです。少しでも間違えば魔法は発動しません。私が2日必要だと言ったのは、私達5人が分担し、一つの魔法陣を作りあげる予定だからです」
「5人で一つの魔法陣か。確かに複雑な魔法陣は複数で描くというな」
「はい。そして、集中して仕事ができるのは、一日を24で割り、そのうち3分の1、つまり8程度の時間です」
「24とはずいぶんと半端な数字だな。ふむ、つづけたまえ」
「最終的に、魔法陣を描き上げるのに、80の時間が必要です。つまり、5人が16の時間仕事をする必要があります。16は2日分です」
この世界は、時間の概念が曖昧なようだ。正午に一回ギリアでは鐘がなる。オレが時間について知っているのはこのくらい。10分という単位のかわりに、詩や歌で時間を表現する。
そんな中、結構必死に人月計算を説明した。
「わけがわからぬ」
「理屈は分かった。砦を作るとき、石を運ぶのに何人の人手が必要かと考えることがあるが、それと似たようなものだな」
公爵はオレの考えをすぐに理解してくれた。
よかったよかった。
実際は、魔法陣の転記よりも、魔法陣そのものを作る時間を考えて1体にしぼった。オレ達以外は、滅多に新しい魔法が使えない世界だ。きっと、屋敷にある魔法陣をピックアップしてくるだけだと思っているだろう。
だが、事実は、オーダーを聞いて魔法を作っているのだ。今回は、ここから屋敷までの往復時間に魔法陣を作る。パソコンの魔法があれば、すでにあるゴーレムのアレンジは簡単だろう。だが、違う仕様のゴーレム2体は、時間が足りなくなりそうだ。
オレは楽がしたい。新しいゴーレムなんぞ1体で十分だ。
ところが。
「言い分は理解した。確かに5日で1体か……もう少し、時間があればと思うが、仕方ないな」
「いやいや、サルバホーフ公爵閣下の紋章は、剣と斧。であれば剣を持つゴーレムと斧を持つゴーレム2体必要でしょう」
ラングゲレイグが余計なことを言い出した。せっかくまとまりかけていたのに。
「だが、可能なのかね」
「もちろんです。出来るよな……な?」
笑顔のラングゲレイグ。
オレは、ギリアの領主としてのラングゲレイグを初めて見たときに憶えた違和感の正体に気がついた。
そうだ。コイツ。営業だ。コイツのまとっている雰囲気、それは無茶な仕事を取ってくるときの営業のそれだ。なんてことだ。異世界にまできて、営業に苦しめられるなんて。
しかも、この営業……絶対的な権力。生殺与奪の権限までもっているからタチが悪い。
くっ……。
この後、褒美についての話、オレ達がゴーレムをどうやって納品するかなど、詳細をつめた。
最後に、とても良い笑顔のラングゲレイグに見送られ宿に戻る。
褒美に持ち出されたのは意外な事で、仕事は2体のゴーレムを作るといもの。
いろんな意味で消化しきれない。
とりあえず仲間に相談しよう。
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