第75話 ぷらんビー

 さて、ギルドに神殿、そして知人を頼りハロルドの捜索を進めた。

 依頼が終わったので、あとは連絡を待つばかりだ。

 ただし、待っているばかりのオレ達ではない。

 手段があれば、どんどん実行あるのみだ。


「みつけたぞ。特定物体召喚の魔法だ」


 オレ達が町でハロルド捜索を依頼していた間に、サムソンが召喚する物体を指定できる魔法を探し当てていた。

 この魔法でハロルドをもう一度呼び出す予定だ。

 しかし、ぶっつけ本番はしない。まずは実験をすることにした。

 前回、偶然召喚できたうち、美味しかった果物のリテレテを召喚する。

 獣人達3人が特に気に入ったようだったので、実験の結果をチッキーも楽しみにしている。


「物体を特定しての召喚は、必ず触媒が必要になる」

「どんなものが必要になるんだ?」

「触媒は……リテレテの場合は、種に、リテレテの名前を書いた紙片だ」


 サムソンが魔法陣を用意しながら説明する。魔法陣は、サムソンが昨日描いたそうだ。

 簡単な実験もしたらしい。

 そうやって準備した魔法陣に、リテレテの種と、名前を書いた紙片を置き、詠唱する。

 パァンとはじける音がして、小ぶりなリテレテが召喚される。


「前より小さめですが、リテレテです。成功したと思います」


 リテレテを手に取ったカガミが笑顔で宣言する。


「ふぃー。やっぱりリテレテの召喚は少し疲れるな」


 息を大きく吐き出し、サムソンが感想をもらした。召喚する物体が大きいだけあって疲れるらしい。

 どのくらい魔力を使うのかわからないので、自分でも試すことにする。

 先ほどのサムソンと同じように、リテレテの種と名前を書いた紙片を置く。

 魔法を詠唱すると、パァンと音がして……リテレテじゃないものが召喚された。


「これ……グラプゥです」

「そうなんだ、絶対に望んだものが召喚されるわけじゃないんだ」


 失敗したようだ。グラプゥが召喚されてしまった。ただし、サムソンがいうには絶対に成功するものでもないらしい。

 魔力を大量につかった感覚はあるが、あと数回は大丈夫そうだ。


「じゃ、ボクも試してみるっス」


 3番手はプレインだ。サムソンとオレがやったのと同じ手順で、触媒を置いて魔法を詠唱する。パァンという音と共に出現したのは、リテレテだが……何かがおかしい。


「これ、多分……腐ってます」


 手に取ったカガミが少しだけ顔をしかめて報告する。


「ちょっとだけ失敗したっスね」


 小走りで捨てにいったカガミをみてプレインが呟く。

 一勝一敗一分といったところだ。絶対に成功するものでもないらしいが、諦めるほどの精度でもない。


「数を繰り返せばなんとかなりそうだな」

「そうだな。試してみて、失敗が続くようだったら見直すってことにしたい」

「ちなみにハロルドの召喚には何が必要なんだ?」

「そうだな……触媒には、対象の体毛や身につけていた物があれば一番らしいんだ」

「ないじゃん」


 ミズキが言うとおりだ、ハロルドの体毛や身につけていたものは無い。


「確率は落ちるが、同一種の体毛でもいいみたいだ」


サムソンが手に持っていた本をペラペラとめくりつつ答える。


「つまりは犬の体毛か」


 この辺りで犬をみた覚えはない。町では、たまに見かけた。

 町に行くしかないか……。


「必要な触媒は、体毛だけなんスか?」

「いや、あとは2つあるぞ。ハロルドの名前を書いた紙片と、ハロルドの色……青か銀の色をした生物だ」


 紙片は楽勝だ。先ほどリテレテを召喚したとき同じように用意すればいい。


「犬は……誰かが町にいって野良犬あたりから採ってくるしかないな」

「トッキーとピッキーにお願いすればいいじゃん。トーク鳥使ってさ」


 そうか。彼らに頼めばいいか。あの二人になら任せても大丈夫だろう。


「そうだな、ミズキ、トーク鳥飛ばしてきてくれるか? あとは……青か銀色の生物か」

「なかなか難易度高いっスね。茶色だったら、鹿とかいるんスけど」


 たしかにプレインの言うとおりだ。青や銀なんて、そんな生物いるかな……鳥あたりかなぁ。


「グラプゥなんてどうでしょうか? 紫色には、青も含まれてると思いません?」


 うーん。紫と青は似ているけれど……厳しいと思う。


「植物でもいいならぁ、森で青い花みたわぁ」

「いつ?」

「狩りにいったときよぉ」


 森にいった面々を見回すが、ミズキもプレインも気付かなかったようだ。首を傾げている。

 チッキーは、目をぱちくりとさせてキョロキョロと見回している。


「私、見てないの。チッキーは青い花みた?」

「青い花でちか……みまちた」


 ノアの質問にチッキーが答える。森で青い花を見たらしい。

 そういえばチッキーにはロンロの声が聞こえないんだった。何を話していたのか分からなかったので、キョロキョロとみていたのだろう。


「それじゃ、さっそく森に行きましょう。みんなで探せばすぐ見つかると思うんです。思いません?」


 カガミの提案で、早速森へと行くことに決まる。

 そそくさと、カガミが準備を始める。お昼ご飯を作って持っていくらしい。

 ちょっとしたピクニックだ。ノアとチッキーも、準備の手伝いについていった。

 残ったオレとサムソンがリバーシをして遊んでいる間に、皆が準備を済ませて戻ってきた。


「せっかくだから狩りをするよ」

「うん。リーダがんばってね」


 そんなやりとりをして出発する。森を進むのも慣れたものだ。

 チッキーは、どこに青い花が咲いていたのかを憶えているらしい。


「えっと……こちらでち」


 ちまちまと歩きながら、先導してくれる。

 何も考えずについていくだけだ。オレも後をついていきながら獲物を探すがみつからない。考えてみれば、大抵はチッキーが獲物を見つけてくれていたんだった。

 先導をチッキーに任せているせいか、他の皆も周りをいろいろと見て回っている。


「キノコを見つけたぞ。看破でみた、食える。食用可能だ」

「あのね、これ、食べられるの」

「面白いカエル見つけました。可愛いと思うんです。思いません?」

「うわぁ、ちょっとカガミ、それ、キモいって捨ててきて」


 オレがチッキーについて行きつつ、獲物を探している間にも、こんなやり取りが聞こえてくる。


「この辺りでち」


 目的地についたようだ。チッキーが到着を宣言した。

 皆で手分けして探す。見つからないまま時間がすぎていく。


「この辺りで見つけたはず……でち」


 自身満々だったチッキーだったが、皆で探しても見つからないことに不安げな言葉を発した。


「わたしもぉ、こんな風景で見つけたとおもうのぉ」


 ロンロもこの辺りでみたとチッキーに同調する。


「一旦、ここでお昼にしましょ」


 行き詰まりを感じたのか、やや早めの昼食をカガミが提案した。

 テーブルに椅子を自分の影から出して並べていく。すぐに、森のなかにちょっとした休憩スペースができあがった。

 サンドイッチにコップを並べて昼食を始める。

 どうでもいい話をしながら、ふと周りをみると近くにある木に青い花をみつけた。

 正確には、木に絡まるように生えているツタに、青い花が咲いていた。


「みっけた」


 指さして青い花をみつけたことを伝える。


「あー、下ばっかり探してた」

「チッキーの案内は完璧だったね。すごいと思います。思いません?」

「嬉しいでち」


 食事もそこそこに済ませて、花を摘み引き上げる。


「みてみて、花の付け根、銀色っぽい」


 ミズキが声をあげる。よく見ると付け根は光沢があって銀色にも見える。

 青と銀、ハロルドの色だ。偶然にも触媒にぴったりの花だ。

 うまくいきそうな予感がする。

 戻ってきてみると、トーク鳥が戻ってきていた。足に括り付けてある筒には手紙が入っていた。

 ピッキーの字で、犬の尻尾から毛を刈ったという内容だ。ついでに犬の毛も入っている。

 どうやら手紙を受け取ってすぐに行動に移してくれたらしい。


「ピッキー達もやるね。半日もしないうちに、触媒そろっちゃった」


 ハロルドが元の場所へ戻った後に、連絡をしてもらえるように手紙も書いた。もちろん、手紙を括り付ける首輪も用意済み。

 それじゃ、ハロルドの召喚を試してみよう。

 触媒は余分に用意してある。何度か試せる。


「それじゃ始めよう」

「俺が先陣きるぞ」


 サムソンが最初に試す。

 昨日から何度もこの魔法を使っているので一番可能性が高いのではないかと思っている。

 そのサムソンだったが、パァンと小さい音がして、どんぐりが召喚された。


「どうしたんだ……完全な失敗だ」


 オレとカガミも試してみる。どちらも失敗。オレは木イチゴ、カガミは小さなカエルだった。


「最初の物体召喚の時と同じだな」

「やっぱりノアノアじゃないと駄目なのかもね。最初の時もそうだったしさ」


 最初の時と同じであれば、ミズキの言うとおりノアが召喚しないと駄目なのかもしれない。

 物は試しだ。


「じゃ、次はノア」

「うん!」


 元気よくノアが返事して、魔法陣へ手をつく。

 やる気満々だ。

 詠唱が進むにつれて込められた魔力が途方もないことが見て取れた。

 気合いが入っているからだろうか、大量の魔力自体に迫力を感じる。

 ところが詠唱が終わっても、なにも起きなかった。


「あれ、何も起きないの……」


 ノアが途方にくれたように呟く。


「どうし……」


 オレがノアに声を掛けようとした時、魔法陣の中央から突風が吹いた。


『パァァン!』


 今までにはないレベルの大きな破裂音がした。衝撃にオレ達は弾き飛ばされる。

 少し耳鳴りがする。幸いノアはオレが受け止めることができたので大事はなかった。

 そして、魔法陣の中央には予想外の存在が召喚されていた。


「ここは……?」


 召喚されたのはハロルドではなく、軽自動車ほどもある銀の竜だった。

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