第五章 空は近く、望は遠く

第63話 ぶったいしょうかん

 ノアの誕生日がすぎ、のんびりと冬の支度を進めた。

 その甲斐があって、10日もしないうちにサクサクと準備は進み一区切りつけることができた。

 方針は当初のとおりだ。

 屋敷を住みよくする。魔法について調べる。

 前者は順調だ。なら、残りを進めれば良い。


「ブラウニー、黄昏の者ときたから、次は物体の召喚を試してみようか」


 皆も同様の考えだったようだ。オレの提案は当然のように採用された。

 物体の召喚は、この世界に存在する物を召喚する。

 別の世界に存在する物は呼べない。

 何を召喚するのかは、詠唱の文句や触媒によって左右される。

 術者以外の所有者が存在する物は呼び出せない。世界に複数存在する物を呼び出した場合は、何処にある物かを特定できない。

 希少な物品を召喚する場合は大量の魔力と触媒が必要になる。

 そのようなことが、屋敷にある召喚魔法の本には書いてあった。

 まずは、非特定物品の召喚というものを試してみる。練習用という説明があったので選んでみた。

 物体の召喚は魔法陣の大きさが指定されていたので、本に描いてある魔法陣を布に書き写す。

 皆で分担して部分部分を分けて書き写して、できたものをつなぎ合わせる。


「私も手伝う!」


 ノアが勢いよく手をあげた。


「じゃあ、ノアちゃんはこの部分をお願いね。ゆっくりでいいからね」


 ノアも含めて6人で分担したので、1時間もしないうちに書き写すことができた。


「まずオレが試すよ」


 早速使ってみる。触媒は使わないで詠唱のみだ。

 パァンと何かが始める音がして、軽い衝撃があった。予想していなかったので少しビックリした。


「成功したようだ」


 サムソンが、魔法陣中央に出現した赤い粒を手に取る。


「何スか? それ?」

「木イチゴ……木イチゴだと思います。見えません?」


 看破の魔法で調べると普通の木イチゴだった。サムソンから受け取り食べてみる。

 うん。普通の木イチゴだ。少し酸っぱいが美味しい。


「次は俺だな」


 サムソンが続く。彼は岩塩の欠片を召喚した。同僚が次々と召喚魔法を試してみる。

 プレインは半透明の小石。ミズキは、どんぐりの実。カガミは蝉の抜け殻を召喚した。


「何がでてくるか分からなくて面白いな」

「私もやってみていい?」

「じゃ、次はノアちゃんね」


 ノアも試してみる。ひときわ大きな衝撃があって、スイカのような植物の実が出現した。

 召喚される物体の大きさにより衝撃の度合いは違うようだ。

 部屋の物が吹き飛ばされ倒れたりしたので、外で試した方がいいかもしれない。


「リテレテねぇ」


 ロンロが、出現した実をみてそう言った。


「りてれて?」

「えぇ。南方で採れる果物よぉ。種が多いけど、冷やして食べると美味しいのぉ」


 おぉ、異世界果物第2弾だ。

 楽しみだ。

 込める魔力量によって召喚される物体は大きさが変わるみたいだ。


「じゃ、早速冷やしてくるね」


 ミズキがトコトコとリテレテを持って行った。多分、氷室に持って行ったのだろう。

 ちょくちょく様子をみて、凍る前に取り出さなきゃいけない。


「ナイス、ノア。お手柄だ。じゃ、もう一回オレが試してみる」


 ノアの頭を撫でて、もう一度召喚魔法を試す。


「えへへ。リーダ頑張ってね」


 応援を背に2度目となる物体召喚の魔法を使う。

 現れたのは、またもや木イチゴ……と思って口に入れたら違った。

 不味い。


「ヘビイチゴだ。コレ。不味い」

「一応、看破の魔法で調べてから口に入れた方がいいと思うんです。毒だったらどうしよう……なんて思いません?」

「召喚魔法……危険性をはらんでいるな。油断は禁物だ」

「いや、そこは召喚魔法関係なく注意したほうがいいぞ」


 2巡目、3巡目と、みんなで召喚魔法を使って遊ぶ。

 チッキー達も試してみたが、チッキーが葉っぱ一枚を召喚して、魔力枯渇で倒れてしまい。トッキーとピッキーも2人がかりで、蛇の抜け殻を召喚し、気分が悪くなってしまい座り込んでしまった。

 召喚魔法は、魔力をそれなりに使うようだ。


「おいらたち、志願したのに、気分悪くなってごめんなさい」


 そんな風に謝られてしまい、申し訳ない気持ちで一杯になった。

 オレ達を基準に考えないほうがいいな。


「少し、私も疲労感がでてきました。あと一回でお開きにしたほうがいいと思います。おもいません?」


 カガミの提案で、今日の召喚魔法を残り1巡で終えることにする。

 本日最後の召喚魔法。オレが、少し変わった木イチゴ。


「今度は、おおぶりだ」

「先輩は、全部木イチゴだったスね」

「これは当たりだ。今日一番の美味しさだ」

「はいはい」


 サムソンが、琥珀。カガミが、貝殻。ミズキが、松ぼっくり。


「SSRこい。SSRこい!」


 そんな掛け声をしてから魔法をつかったプレインは、小さなワカメだった。


「ワカメ……」

「掛け声が不味かったんじゃない?」

「今のところ、当たりを出してるのはノアちゃんだけっスね」

「オレの木いちごが次点だな」

「あぁ、私も木イチゴ狙えばよかったかも」


 最後はノアだ。

 リテレテ。リンゴ。白いグラプゥ。果物が続くノアには期待がかかる。


「ノアノア、頑張れ」

「ファイトっスよ」


 皆の応援をうけて、ひときわ大きい衝撃を伴って現れたのは果物ではなかった。


「クゥーン」


 それは青と銀の綺麗な毛並みをもった凜々しい子犬だった。

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