第48話 しょうぎょうギルド

 ピッキー達獣人3人は、大工の技術を身につけて貰うため修行に出てもらうことになった。

 夕食時に皆に話をする。


「そんなわけで、町の商業ギルドに行こうかと」

「えー。ピッキー達いなくなるの? 代わりにリーダが修行すればいいじゃん」


 話をした途端、ミズキが不満そうな声をあげる。

 オレに修行いけなどと、とんでもないこと言い出した。口調から冗談とはわかるけれど、オレには無理だ。やる気も、根気もない。


「大工さんの勉強をしたいです」

「します」

「そっか。じゃ、しょうが無いか」


 即座にピッキー達が自分がいくと主張する。特にピッキーの口調と態度から、義務感などではなくて彼は本当に大工になりたいようだ。

 善は急げとばかりに翌日町へと向かう。

 町へは皆で歩いて向かう。獣人達たちが一緒だと荷車は本格的に手狭だし、オレ達だけが楽をするのも忍びない。


「やっぱりさ、大きめの馬車が欲しいよね」

「そうだな。ミズキ氏の言うとおりだな。歩きを毎回は辛い」

「10人乗れる馬車……大きな馬車になりそぉねぇ」


 確かに皆が乗れる馬車が欲しいな。下りはともかく上りは荷物も持っている事が多い。

 馬車が、まるでスーパーで野菜を買うように、欲しい時にすぐ買えるかわからないが、早めに手に入れたい。


「それじゃ、今日の予定に馬車購入も追加だな」

「うん」

「ノアお嬢様は、あたち達に気を遣わずに荷車に乗ってくださいでち」

「平気。みんなと歩くの」


 道も覚えて歩きなれたとはいえ、3時間弱の道のりを進み町へ着いたのは昼にさしかかろうという時だった。毎度思うが遠い。


「あー。リーダじゃねえか。奇遇だな」


 町へ入ってすぐに、小さい馬車にのったバルカンに出会った。4人くらい乗れそうだ。オレ達が買うならもっと大きいほうがいいだろう。


「バルカンじゃん。元気?」

「あー。元気だな。ミズキはいつも元気だな。今日はぞろぞろと何処にいくんだ?」

「大工の師匠を探しに行くんだ」


 獣人達を手で指し示して今日の用件を伝える。バルカンは獣人達を一瞥すると楽しそうに笑った。


「面白そうだな。俺もこれから商業ギルドに用事あるからよ。一緒にいこうぜ」


 物知りなバルカンが一緒だと心強い。商業ギルドの場所を探す時間も省けるので、一緒に行くことにした。

 商業ギルドは、この町にもいくつか支所があるそうだ。今日は、俗に職人街といわれる地区にある支所へと向かう。

 商業ギルドは一目で木造とわかる2階建ての建物だった。真新しい建物で、木の香りがする。かけてある看板にはハンマーの絵と羽根ペン、それに袋の絵が彫り込まれていた。建物の周りには、いかにも職人といった風体の人々がたむろしていて活気がある。

 バルカンは、手慣れた様子で入り口近くにいる男に声をかけ馬車を引き渡していた。ついでに話をしてくれたようでオレ達の荷車とロバも引き受けてくれた。

 そのままバルカンに続いて、たむろしている職人達の脇をすり抜けて中に入る。

 正面にカウンターがあり職員と思われるお姉さんが立っている。左手側の壁には小さい札が所狭しと並べてある。


「この町にある商業ギルドは、どこも2階建てだ。左手側の壁に吊り下がってるのが仕事の売り込みだ。大工の師匠を請け負うってのもまずは札を探せばいいだろうぜ」

「ありがとう。そうさせて貰うよ」

「俺はカウンターに用事あるから、ここでお別れだな」

「カウンターではどんなこと出来るっスか?」

「仕事の発注や、お金預けたりだな。あとは、そうだな。商売の許可とかギルドへの加入なんかができるぜ。あー、詳しいことはギルドの職員に聞くといいぜ。じゃあな」


 言うだけいうと小走りでカウンターへとバルカンは向かった。

 商売の許可か……。ギルドへの紹介状をヘイネルさんに貰っていたことを思い出した。

 あとで商会設置の手続きもしてしまおう。

 とりあえず壁に掛かっている札を見る。


「めちゃくちゃあるなぁ」


 大量にかかっている札は何が何やらわからない。多すぎて探すのも苦労しそうだ。もっとも8人いるから、手分けすればすぐに探せるだろう。

 札をみんなで眺めていると、突然、近くにいた女の子にプレインが手を握られた。


「うわ、ナンパっスか?」

「お兄さん。なーにか、お探しですかぁ?」


 握った手をぷらぷらと振り回し、人なつっこくプレインに声をかけている。

 あー、ギルドの職員か。


「ナンパだって」

「うける」


 オレはあっけにとられていたが、カガミとミズキが吹き出すように笑う。


「えーと。ピッキー……獣人達に、大工仕事教えてくれる人を探しているっスよ」

「一緒にさがしてくれると助かるんだが」


 こちらを向いて満面の笑顔で頷くと、札を一瞥し「これと、これと……これ!」と楽しそうに3枚の札を取り出した。

 そのままオレ達に向き直る。


「大工仕事を教える仕事をしているのは3人ですね!」


 お礼と駄賃として銅貨を渡し、札を受け取る。


「みなさん、いい人ですよ」

「皆知ってるっスか?」

「もちろんです。職人街の腕利き職人のみなさんですから」


 さすがギルドの人だな。先ほどの札を探す手際といいプロフェッショナルといった感じだ。見た感じはオレ達と変わらない年のように見えるのに、すごいものだ。


「せっかくだから、詳しく教えて貰いたいと思うんです。駄目ですか?」

「いいですよ。では1枚目。えっと、住み込みで仕事を手伝わせながら教えるそうですね。教える内容は、職人に任せて欲しいそうで、2年程度で一通りの作業を仕込みますってことです」


 ふむふむ。お金を払って仕事を習うというより弟子入りといった内容だな。2年で一通りか。職人仕事だから、それくらい普通にかかりそうだな。


「……住み込みで、2年」


 俯いたトッキーが何やら呟いている。少し期間が気になっているようだ。


「えーと。2枚目なんですが、家具職人の方ですね。教える内容と期間は相談にのってくれるそうです」


 ふわっとした内容だ。家具職人か……家の補修とは少し遠い気がする。

「最後は、基礎から教える。内容と期間は応相談……とのことです」

「一番あっさりしてるっスね」

「えーと。そうですね。でも、レーハフさんは、最近現役を引退した職人さんで、隠居ついでに後進の指導をしたいって言われてたんで、じっくり教えてくれると思いますよ。すごい職人さんですよ」


 なるほどな。実力がつきそうなのは1人目って感じがするけど、3人目の人もよさそうだな。


「ピッキーはどうしたいの?」

「おいらが選んでいいなら、3人目がいいです」

「おいらも、家具よりお家が作りたいし、2年も勉強するのはミズキ様達にご迷惑なので」


 別に2年勉強しても全然問題ないけれど、月謝とかどうなのかわからないし、3人目の人に相談してから決めても問題ないか。


「じゃあさ、さっさとレーハフさんだっけ? 3人目の人のとこ行ってみよう」


 ミズキの意見に賛成し、3人目のレーハフさんの話を聞くことにした。ギルドの女の子に追加で銅貨を渡し家の場所を聞く。

 そこはこじんまりとした家だった。扉をノックすると、おばあさんが出てきた。

 案内されて中に入りレーハフさんと話をする。

 彼は筋肉ムキムキのおじいさんだ。まだまだ現役といった風貌をしている。

 簡単に挨拶を交わし、さっそく獣人達の指導について話をする。


「ここは託児所じゃねぇ。おしめを替える余裕はない」


 開口一番拒否された。


「おいら達、大工やりたいです。がんばります」

「ご迷惑おかけしないように一生懸命に勉強します」


 早々に諦めて席を立とうとしたオレとは裏腹に、ピッキー達は頑張りますと熱意を見せる。その様子をレーハフさんは、口をへの字にして見下ろす。


「……ったく。一ヶ月面倒みてやる。続けるかどうかは、それから決める」

「ありがとうございます!」

「んだが、嬢ちゃんは駄目だ。ちょっと前まで寝込んでたか何かで病気だったろ。見る限りまだ本調子じゃねぇ。来月きな」

「……ごめんさいでち」


 しょんぼりとチッキーは返事をする。このやり取りを見ても、思ったよりいい人そうだ。そのうえ見る目もある人だとはっきりわかる。任せても安心出来る人でよかった。


「それで、謝礼の方は、どうなりますか? ギルドにあった木札には相談によるとなっていましたが?」

「そうだな。一人食費込みで銀貨5枚。8日に2日はお前らのとこに返す」

「了承しました。では、それでお願いします」


 思ったより月謝が安い。最近は、金貨が飛ぶように消えていったので、余計にそう感じる。

 契約書などはあるのだろうか。もう少し商業ギルドで話を聞いておけば良かったと後悔する。


「んじゃあ、小僧共、これからワシのことは親方と呼べ。わかったな」

「はい。親方」

「親方」


 ニコニコと元気よく返事する。その様子をへの字口のまま頷いて応対するレーハフさんを見ていると、そんな後悔など飛んでいった。

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