第31話 くろいめかくし
外が少しだけ黄色く見える。
まるで黄色い半透明なフィルター越しに外を見ているような感じだ。
「何にもしていないのに、おかしなことになった……」
「何もしていないということはないでしょ。その燭台に火をつけたから変化したんだと思います。そう思いません?」
カガミに冷静に対応された。どういう状態なんだコレ、説明プリーズ。
「それは結界を動かしたからにございます。グェッ」
声がしたほうをみるとブラウニーがいた。
今まで会ったことがある彼らとちがって目を覆うように黒いハチマキをしている。そいつは、首を右側に傾けて直立していた。
「誰っスか?」
「この屋敷の管理人をしておりますジラランドルと申します。燭台を持ち上げられましたので、求めに応じて答えたまでにございます」
管理人が増えた。ロンロをみると首をかしげている。しらないようだ。
「そちらに誰かいるのでございますか? みえません。ロンロという者もしりませせせグェッ」
あれ、考えていることが読まれているのか?
「違います。念じたことがわかるのでございます」
「結界っていうのは何なん?」
「強化結界にございます。外部からの砲撃など高威力の攻撃を防御する結界にござぃめゲェッ」
それってあれか懐かしのロボットアニメとかに出てくるバリヤーってやつか。なかなかカッコいい装備じゃないか。
「なんであるんだろうね、コレ」
「それも気になるけど、強くしたり弱くしたりできるの?」
「念じてくださいますれば、燭台の火は大きく強くなるかと」
強くなれ強くなれと黙読するように考えて心の中で強く思う。
燭台に立っているろうそくのうち一つに変化があった。灯っている火が大きくなり、外の結界に白い線の模様が見えるようになった。しばらくすると変化はおさまった。これが最強硬度なのだろう。
「結界とかどうでもいいからさ、他のことやろうよ」
そうそうに飽きたミズキからクレームが来た。まわりを見ると結界という名のバリヤーを喜んでいたのはオレだけだったようだ。サムソンすら冷ややかな目をしていたのが意外なうえ悲しい。
次は精霊でも呼び出すことにした。めんどくさいから全部呼び出してみる。
「この屋敷に備え付けられた精霊は、ウンディーネとサラマンダーそれにウィルオーウィスプでございますんゲェッ……暖炉にサラマンダー、風呂場にウンディーネが、倉庫にてウィルオーウィスプを設置しました。支配者はこの部屋にいる皆さまでよろしいでしょうか?」
「とりあえず、おまかせで。精霊にはどうやってお願いするの?」
「ただただ偉大なる皆様はぁ命じてグェッ、下さればいいのでゲ。サラマンダーは火をおこし湯を沸かし、ウンディーネはそのための水を用意するでしょグェッ」
先ほどから、ブルブルと傾けた頭を震わせつつ答えるので少し怖い。
外の井戸には魔法陣が彫り込まれていたのに、屋敷にはそのようなものが一切なかった理由がなんとなくわかった。屋敷の中のことは全部精霊にやらせていたのだろう。元の世界で例えると電気水道ガスのようなものか。
「あとはガーゴイルに呼びかけ? ができるんだよな、ロンロ」
「そうねぇ、他にもでることがあるかもしれないけれど、私はしらないわぁ」
「燭台に彫り込まれている文字を読めばわかぶグェッ」
燭台の文字……たしかにそれぞれのろうそくが立っている皿に文字が書かれている。『守り手ガーゴイルの活力』というのが目に入った。
その近くには『効率的な召喚』というものもある。どちらも火が灯っている。さらには火は灯っていないが『穢れの無い床』というものもあった。
「沢山のろうそくが立っていて、読んでいくときりがないな」
サムソンがいくつかを読み上げたあとに降参とばかりに弱音を吐く。オレも同意見だ。細かく調べるのはあとにしよう。
「ガーゴイルの活力って意味がわかんないっスね」
「効率的な召喚というのは、触媒がいらないとか魔力が少なく済むという意味ではないかと思います。思いません?」
すでにろうそくが灯っているということは起動していると考えていいだろう。そうすると効果が実感できていないだけだ。効果が弱いためか、それとも別の理由だろうか。
効果を最大化すればそのあたりがわかるのではないかと考えて、試すことにした。
「ガーゴイルの活力ってのを最大化してみるよ。周りに注意してて」
「了解」
ろうそくの小さな火を見つめ、念じる。すぐに小さな消えそうに見えた火は大きくなった。
窓から、門のところにあった魔物の像が飛び上がったのが見えた。ほかにも、どこに潜んでいたのだという感じで数体の石像がまるで生きているように飛び回っている。
しばらく眺めているが何をやっているのかが分からない。意味もなく高速で豪快に飛び回っているようにしかみえない。
「あらぁ、たくさんのガーゴイルねぇ」
「この屋敷のまわりを飛び回っているように見えます」
ガーゴイルは、この屋敷のガードマン的なヤツなんだろう。ヒュンヒュン飛び回っていてこのままだと少し落ち着かない。活力というのが警戒レベルと思っていいのだろうか。
だったら、ここまでガーゴイルが飛び回らなくてもいいかと思う。
「活力というのが警戒レベルだと考えると、そこまではいらんだろ」
オレの考えと一緒のことをサムソンが呟いた。
「外の結界もそうだけど、このガーゴイルの活力ってのも、効果最大にしててデメリットってないわけ?」
「全ては魔力によって動きますゆえ、この屋敷に蓄えられた魔力がすぐに尽きてしまうかと……このままでは半日持ちませんげグェッ」
スマホでゲームしているとバッテリーがすぐ尽きるようなものか。魔力の供給自体は簡単だけれど、無駄にめんどくさい思いしなくてもいいか。
そう考えて、結界とガーゴイルの活力を元の小さな火に戻す。
「んー私、なんだか飽きてきちゃった」
「そうだな、燭台のろうそくもやたら多いし、前みたいにブラウニーに目録というか、ろうそくのリストでも作ってもらったほうがいいんかもしれんね」
すぐ飽きてしまうミズキはともかく、サムソンの言う通りリストを先に用意したほうがいいか。
「じゃ、ブラウニーを呼ぼうか?」
「そうですね。閉まっている部屋はまた今度にして先にリスト作りましょうか? 果物もお酒も倉庫にまだまだ沢山ありますし、2度に分けて呼ぶのもいい考えだと思います」
話の流れがブラウニーを呼ぶ方向になった。せっかくだから、効率的な召喚というのを試してみよう。触媒が減ったりすると後々便利だとか考えながら、ろうそくの火を見つめて念じる。火が大きくなる。
「いたた……」
急に頭痛がしてくる、ちょっとやばい。
周りをみると他のやつらも顔をしかめたり、頭痛をうったえている。あわてて、ろうそくの火を小さくなるよう念じる。
「何をやろうとしたんだ?」
「『効率的な召喚』ってのを試してみようかと……」
「なんで頭痛がしたんスかね。ジラランドルはわかるっスか?」
「わかりかねます。効率的な召喚で、支配者様に頭痛がしたなどと聞いたことがございませグェグッ」
「うーん。よくわからんし、『効率的な召喚』は止めておいたほうがいいな」
確かにサムソンのいう通りだ。よくわからないものに、わざわざ手を出す必要はない。いままでも困っていないしな。
「まぁ、済んだことはいいからさ、ブラウニー呼ぼう」
「そうですね、今一階にサラマンダー? っていうのも居るんですよね。せっかくだから触媒もってくるついでに見てきます」
そうだった。サラマンダーとかウンディーネ呼び出したんだった。オレも見に行こうとミズキとカガミについていく。それに続いて残りのヤツもついてきた。みんなで見に行く。
ジラランドルだけは部屋に残ったようでついては来なかった。
「げ、不気味すぎ」
サラマンダーを見るなりミズキが顔をしかめる。
短足な犬のようなシルエットをした妙な生き物だった。顔の形や足の形は、トカゲっぽいが犬のように毛が生えている。ただし、その毛は先端が火のように赤く揺らめいていた。
ジラランドルがそうであったように、目を覆う真っ黒い布が巻いてあり、首がへんな方に曲がっていて不気味だった。
サラマンダーは暖炉のなかで犬のように4本脚で立っていてピクリとも動かない。
「つぎつぎ」
そう言って、ミズキが風呂場へかけていく。
ウンディーネは、よくゲームでみるような女性の姿ではなく、でっかいカエルだった。こいつも目を覆うように真っ黒い布がまいてあり、頭だけが真上に向いていて不気味だった。
「この屋敷にもともといる精霊って、どれもこれも不気味だよね」
「変な風に首曲げてるっスね」
確かに不気味な風体だ。
多分、この精霊達がいると生活は便利になるのだろう。
だが、雰囲気が悪くなりそうなので、お帰りいただくことを考えたほうがいいかもしれない。
「水はだせるの、コレ?」
「ウンディーネ、風呂に水をためてもらえますか」
号令をかけて水を出せるのか試してみる。「ゲェグ」と妙な声で鳴いたあと、口からダバダバと水を吐き出した。
見た感じ真水にみえるが、光景が光景なだけに安全な水なのかと不安になる。
「一応、真水です。妙なところはないと思います。リーダも飲んでみませんか?」
カガミが平然と手ですくって飲んだ。ふつうの真水らしい。何かあってもエリクサーがあるから大丈夫ですよ、とは言うけれど、いきなりグイっといったカガミがカッコいい。
オレも手で水をすくって飲んでみる。ふつうにおいしいお水だった。こちらの世界は食い物も水もおいしい。
「ふつうに使えそうだな。ただちょっと見た目がなぁ、この屋敷に精霊の代わりになりそうな機能なければ使うしかないんだが……。それじゃカガミ氏、あの部屋のろうそくのリスト作るためにブラウニー呼んでくれる?」
「そうですね。雰囲気良い方がいいですしね、それじゃブラウニーさん達呼ぼうと思います」
カガミが手慣れた手つきで魔法陣を書いた布を敷き、触媒をならべ、詠唱する。何度も呼んでいるだけに手慣れたものだ。
いつものように、煙とともにブラウニーが登場した。
ただし、今日の彼らは少しちがった。
効率的って、そっちだったか……。
その時、オレは元の世界で、お偉いさんが言っていたことを思い出していた。
――しっかり意識改革して、無駄をはぶき、従業員は業務に集中し、効率的に働くべきです。
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