第三章 魔法仕掛けの豪邸と、その住人

第29話 おかねもち

 翌日。

 昨日までは、スッカラカンだったオレたちだったが、帰宅したときは大金持ちだった。

 さっそくテーブルのうえに300枚もの金貨をジャラジャラと広げる。


「いい眺めっスね」

「あぁ、昨日の懸念が嘘のようだよ。こんなことなら金策に悩むんじゃなかった」

「今朝、城から呼び出しがあったときには何事かと思ったりしました。しませんでした?」

「本当に、カガミ氏が言う通り、焦ったよ。もっとも悪いことしてないんだけど」


 朝起きて宿から出たときに、兵士に呼び止められたときには一瞬不味いと思った。

 もちろん悪いことはしていないが、町中で警官に呼び止められたときの不安感というか、似たような感じだ。

 宿で朝飯を食べているから安心して行っておいでと皆に見送られトコトコと城までいってみると、お金をくれるという話だった。

 城の一角で、朝早くから仕事をしていたヘイネルさんの執務室での話だ。


「朝早くご苦労。昨日は、素晴らしい働きだった。さて、これを君たちに渡そうとおもって呼び出した」


 そう言ってヘイネルさんが、持ってこさせたのは木箱だった。

 中には、数えきれないほどの金貨が入っている。


「お金?」

「ふむ。金貨300枚だ。昨日、君たちが倒したオーガは、灰色髪のゲグドという老オーガだったのだよ。ヤツは、王都より賞金をかけられていた」

「賞金首だったと……二つ名なんてのがあったんですね」

「王都の所持していた船を襲ったことで有名になった、知恵の回るオーガだ。襲った船の錨をこん棒にして暴れまわっていた。もう何十年も討伐できなかった大物だ。この地に近づいていることは把握できていたが、すでにこの町まで来ていたとは予想外であった」


 あの鉄の棒は錨だったのか。単なる棍棒にしか見えなかった。

 それでこの金貨はその賞金ということなのかな。


「君たちのゴーレムは献上されたものだ。すなわちこの町の物だ。領主様が昨日宣言したときに何もいわなかった。そうだな?」


 確かにそうだ。そのおかげで領民となる許可を得られた。

 でも、なんでこんなことを改めていうのだろうか、意図が読めない。


「確かにおっしゃる通りです」

「ふむ。であるからだ。本来は灰色髪のゲグドを討伐した賞金の金貨3000枚は、この町ひいては領主様のものとなる。だが、慈悲深い領主様は、お前たちの働きを評価するものとして金貨300枚を分け与えることとした。領主の慈悲に感謝するように」


 いや、領主ともあろう者がせこいだろ。全部くれてもいいんじゃないか。

 言ったら怒られたうえに一円ももらえそうにないので黙っておくことにする。

 その沈黙にヘイネルさんは満足したのか言葉をつづけた。


「抗議するかと思ったが、謙虚であるな。その殊勝な態度はよいことだ。ふむ、せっかくだから君に忠告しておくことにしよう」

「忠告ですか?」

「ふむ。あのゴーレムは、これ以上つくらないことだ。あまり派手にやると魔術師ギルドや王都に睨まれることになる。ある意味画期的なものだからな。もちろん領主の許可でもあれば別だが、それも積極的に得にいくものでもなかろう」


 魔術師ギルドは、自らの魔術の知識や技術により地位を得ているらしい。その魔術師ギルドに加入していない魔法使いがゴーレム創造などという形で派手に活躍することを好まないそうだ。

 冒険者ギルドや商業ギルドに所属していれば多少は違うらしいが、それでも気休め程度という、そもそもオレたちは何処にも所属していない。

 加えてゴーレムは王都にいる宮廷魔道士達しかこの国では作れる存在がいなかったものらしい、軽々しくポンポン作ってしまうと、これまた睨まれるとか。

 世知辛い世の中だ。


「生活費くらいは稼がないとならないのですが……魔術師ギルドとかに所属したいですね」

「魔術師ギルドは王都の本部が許可しないと所属はできない。彼らは家柄などを重要視する。呪い子では許されないだろう」


 魔術師ギルドは口調からもプライドがなかなか高い集団のようだ。そのうえオレは奴隷の階級で、主人にあたるノアは、忌み嫌われているとかいう呪い子だった。最初からハンデ大盛りだ。


「私たちは、町の英雄なので……ってのは? どこかに所属できるきっかけくらいにはならないでしょうか?」

「町の英雄? あぁ、西門に住む者が言ってるのか……、西門のあたりは余所者にも優しいからな、他では君らはただの余所者にすぎない」


 宿屋のおばちゃんが町の英雄と言っていたことに期待していたが、そこまで町をあげての称賛と言えるレベルではなさそうだ。


「そうですか残念です」

「そうだな……商業ギルドに紹介状をかいてやろう。多少の商売であれば認めてもらえるはずだ」


 そう言って、その場で何やら書状を書いてくれた。これを商業ギルドに渡せばいいらしい。


「有り難うございます。頂戴いたします」

「ふむ。それに君達には目の前にある金貨があるではないか。君達にとってはひと財産だ。慎ましく暮らせば十分暮らせるのではないか?」


 たしかに金貨300枚あれば、しばらく生活するのに十分な額だ。金策にガツガツする必要もない。


「確かに、ヘイネル様の言われるとおりです。のんびり暮らせば、そう出費もなさそうです」

「そう。君たちの主人である呪い子があまり目立つのも良いこととは言えない。そう考えると君達の態度も問題ではあるな」


 態度が問題? 一体なにをやらかしたのかと考えてみるも何も思いつかない。


「私たちに問題があると? もしよろしければご教授いただきたいものです」

「主人に対する礼儀だ。君たちの元の立場は特に問わぬが、奴隷の主人に対する態度としては目に余る。今後、この町で過ごすにあたって他者に不快感を与える態度はなくすべきであろう」


 確かにそうなのだろうけれど、面倒な話だ。身分制度のある世界で過ごしたことがないからわからないが、社長に平社員が偉そうに指示している姿を他社の職員がどうみるかとかそんな話なのかな。


「助言ありがとうございます。参考にさせていただきます」


 とりあえずお礼を言っておく。そのまま話の流れ的に退出できそうだったので、礼を言い立ち去ることにした。

 部屋にて備えていたメイドの一人が扉を開けてくれる。

 そのまま扉をくぐろうとしたとき、呼び止められた。


「あぁ、最後に一つ仕事をしないかね? 月銀貨5枚出そう」

「なんの仕事ですか?」

「エレクの教師だ。週に1回くらい算数といったか、数に対する学問を施してもらいたい。もっとも、すぐにというわけではない。これから始まる収穫祭とその後始末が済んだのちということになる」


 エレクって誰だ? ヘイネルさんの子供かな。


「エレク様ですか?」

「ふむ。君は何度もあっているだろう」


 そう言って顔を向けた先には、いつもお使いしてくれる少年がいた。あの少年はエレクという名前なのか。しかし、嫌じゃないのかな。


「ヘイネル様のご命令でもありますが、私自身もリーダ様の数に対する考えにとても興味があります。もし許していただけるのであれば私にお教えいただきたく存じます」


 そう言って頭を下げられる。本人が嫌じゃなければ別にいいかと承諾する。

 詳しい日程は後日詰めることになった。

 それから、皆と合流して帰宅した。合流直前にオレがコケて金貨を天下の往来にぶちまけたりとかわいい失敗はあったが、特に大きな出来事もなく無事帰宅できた。

 金貨をテーブルに広げると、ようやく実感がわいてきた。

 手元にある金貨は、いままで使っていた銅貨や銀貨とはちがってズシリと重くあまり使われていないようで擦り減ってはいない。

 その上、綺麗な彫刻が施されている。その画一的な風貌のせいか、まるでお金というよりゲームセンターでみるメダルのような印象をうける。

 でも、お金だ。


「これだけお金あれば一息つけるな。快適な生活がこれからのオレたちを待っているわけだ」

「そうだな。収穫祭もこれで心置きなく楽しめそうだし、終わったらのんびりとしよう。オレもオリジナル魔法とか作ってみたいしな」

「ただ、これから寒くなるらしいので修繕は必要になるとは思うんです」

「そういえばブラウニーズがそんなこと言ってたね」


 以前、ブラウニーを呼んだ時に屋敷の修繕が必要と聞き、修繕に使う物品のリストを貰ったことを思い出す。

 修繕しておかないと冬の冷気が屋敷に流れ込むということだった。

 どのくらい費用がかかるのだろうか、屋敷が大きいだけに修繕費用も高くつきそうだ。

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