第28話 閑話 ゴーレムがもたらしたもの
立食形式の晩餐会。王都で最近流行の形式だ。
そんな晩餐会で最近、度々話題にあがることがある。遠く寂れたギリアの町での一件。賞金首のオーガがゴーレムにより討伐された話。
この国においてゴーレムは王によって命じられ魔術師ギルドが創造する。
大量の触媒と魔力を使う大事業だ。
それゆえ、ゴーレム創造に至る魔法は秘匿され管理されている。
だからこそ、魔術師ギルドも王都の貴族も知らない所でゴーレムが創造されたことは、とても興味を引く話題となった。
今もまた二人の貴族が話しする。
ゴーレムとそれにまつわる呪い子について話をする。
「して、呪い子の従者がゴーレムを作り出したとは、果たして本当のことなのか」
「えぇ、私も疑いましたとも、しかし本当の事のようなのです。なんでも指のないゴーレムにて王都の物より不格好だとか。しかし、その力強さは本物で、巨大な魔物も一撃のうちに倒したとのこと」
二人の貴族のうち、年若い貴族の青年は身振り手振りを交えて説明する。もう一人、恰幅のいい初老の貴族は、顎ヒゲに手をやり思案顔だ。
「なるほどな。しかしだ。そのようなゴーレムを呪い子の従者が作ることを領主が許すものかね。ゴーレムを作れるほど沢山の従者をつれた呪い子など災いの元でしかないではないか」
「そうです。私もその点がとても不審でした。ところがです。ところがところが、たったの5人だそうです。ただ5人の従者がそのゴーレムを作りだしたのだとか」
「ほほぉ」
恰幅のいい貴族は驚きの声をあげ、グラスに注がれた酒を一飲みし、続きを聞かせて欲しいとばかりに身を乗り出した。
「おや、モードザンル様、ひょっとして呪い子とゴーレムのお話ですかな?」
そこに、痩せて背の高い貴族が声を掛けた。年若い貴族は、忌ま忌ましげにその男を一瞥する。
その様子に目もくれず、恰幅のいい貴族は笑顔で応対した。
「うむ。ちょうど5人の従者がゴーレムを作ったという話を聞き驚いていたところだ。貴殿は知っていたかね?」
「もちろんですとも。というのも、私はギリアに少し役に立つ知人がおりまして、いろいろと聞いたばかりでございます」
「ほほぉ」
話の主導権を取られたと感じたのか、年若い貴族は、小さく歯ぎしりして側にいた給仕から奪い取るように酒の注がれたグラスを受け取った。
グラスをゆらりと軽くふる年若い貴族を置いて、話は続く。
「なんでも、5人の従者はみな奴隷の階級であり、主人は呪い子だとか。しかも、うち二人は見目麗しく年若い女性の魔術師なのだとか」
「なんと。その話は驚くことばかりだ。それにしても、事実であるならば、そのような奴隷は呪い子にはもったいないこと、この上ないな」
無表情で二人の話を聞いていた年若い貴族も驚きの表情へと変わる。彼にとってもまた驚きの内容だったのだろう。話に加わることを望んでなのか一歩前にすすみ、口をひらいた。
「しかし、それほどの奴隷はよくよく囲って置かないと盗まれかねませんね」
「ふむ。まったくその通りだ。どうにも役に立つ知人によると、かの町の勇士達は、呪い子の手より麗しき女性の魔道士を助け出そうと、武器を手に取るそうだよ」
「ほほぉ、それは私としても、手助けしてあげたいものだ。まったくお金がいくらあっても足りぬな。麗しき女性の魔術師か、なんとも楽しみなものだ。犯罪者ギルドにも頑張ってもらわねばな」
「いやいやモードザンル様。犯罪者ではなく、あくまで勇士達ですので」
「はっはっは。失敬、してその姿の仔細も貴殿は知っておるのかね」
「もちろんですとも……続きはあちらにて」
下卑た笑いを浮かべた恰幅のいい貴族と、背の高い貴族は、物陰へと連れだって立ち去っていった。数人の侍女が彼らのあとにつづいていくのを、年若い貴族はただ見送った。
「失敗すればいいものを……だが、いい話を聞いた。これは使えるやもしれぬ。そうだな、気を取り直し頑張るとしよう」
グラスに残った酒を飲み干し、自分に言い聞かせるかのように彼はそう呟いた。
もっとも、それからも彼は上手くいかなかった。鳴かず飛ばず、誰に取り入ることができたわけでもなく、つながりを持てるわけでもなく、右往左往する日々が延々と過ぎた。
せっかく自らの姉より仕入れたギリアの町で創造されたゴーレムにまつわる話も、いまや誰でも知っている話になりはてていた。
「本当ですか? 姉上」
ある日の夜、馬車の中でのことだ。姉より続報を聞くことになった。
「えぇ、結局のところ、呪い子の奴隷、かの者達は一筋縄でいかなかったようね」
「それにしても、ならず者どもの計略を潰し、さらには犯罪者ギルドを壊滅に追い込むとは、想像以上のことです」
馬車を動かす御者もその話に聞き入っていた。
ギリアの町にてゴーレムを作った呪い子とその従者の話は驚きに満ちたものだった。
ゴーレムを作った従者達に、見目麗しい女性がいた。
ゴーレムの製法を知っていると思われること。大魔法を使えるほどの力量を持つこと。
そして年若く美しい女性であること。
加えて、その階級は奴隷。もし、呪い子より奪い取り、売り払うことができれば莫大な儲けになるだろう。
もちろん、残りの3人であっても高く売れる。
それほどの価値をもつ5人に対して、特に護衛もなく、主人は頼りなく幼い呪い子だけ。
犯罪者ギルドには、無防備にさらされている金のなる木にしか見えなかった。
早い者勝ちとばかりに彼らは動いた。そして、やはり5人の奴隷を是が非でも手に入れたい貴族達も、そんな犯罪者ギルドをはじめとする裏家業の者にささやかな援助をした。
事はすぐに終わると思われた。
だが、結果は誰にとっても意外なものだった。
徒党を組み、力ずくの誘拐を企てた者達は、忽然と姿を消した。
中には二つ名をもち、王都から賞金を掛けられた剛の者もいたという。
貴重な魔法の品を利用し、呪い子を陥れ、奴隷を奪い取ろうとした者もいた。
しかしながら、その企ては、公衆の面前で魔法の品を破壊され、関係者が拘束されることで失敗に終わった。
極めつけは奴隷が言ったその言葉だ。
「私がノアサリーナお嬢様に害を与える者を排除するのは当たり前ではありませんか。我々に危害を加えようとする者を、ただ始末しただけです」
奴隷の一人が言ったこの言葉は、犯罪者ギルドをはじめとするならず者に向けた言葉なのだそうだ。
この言葉で、5人の奴隷には護衛が必要ないことを犯罪者達は思い知った。
結局のところ、呪い子とその奴隷に手をだした者達は、甚大な被害を受けることになった。かくして、今や呪い子に手を出す者はギリアの町にいないという。
そんな話だった。
「そうね。私も、その話を聞いたとき、おじさまが誇張しているだけだと思ったもの」
「おじさま……ですか?」
年若い貴族は、姉がなぜそんなに詳しいか分からなかったが、どうやら”おじさま”から聞いた話らしい。そして、今もなお誰だか見当がつかないのか、首をかしげている。
その姿に、彼の姉はクスクスと笑っている。しばらくして、彼女は小さく年若い貴族に耳打ちした。
「そうよ。遠縁のおじさま。ヘイネル様よ。あの方は、いまギリアの町の領主補佐としておつとめしていらっしゃるのよ」
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