第10話 えりくさーをふやそう
次の日も夜中に目が覚めたが、二度寝する。
よくよく考えたら、出勤時間があるわけでもなし、早起きする必要などなかったのだ。
鍛えられた社畜として、長年培った習慣というものに恐怖しつつ、ぐっすり寝ることにする。
朝日がのぼってもなおグズグズしていたら、ノアがやってきた。
カロメーをお皿にのせて、恐る恐るといった感じで部屋にはいってくる。
「まだ寝る? 大変だったら寝てていいよ」
惰眠をむさぼっていたら、体調が悪いと思われたらしく、ノアがひどく心配していた。
他のやつらは、すでに居間に集まっているらしい。
「いや、大丈夫。すっかり元気になった」
オレは跳ねるように起きて、ノアから受け取り居間へと向かう。
「昨日はね、外で魔法を練習したの」
「どんな魔法を練習したの?」
「電撃とか、火の球とか……あと魔法の矢とか。サムソンお兄ちゃんが、森の木をバキバキって倒して困ったねって言ったの。あとね、ミズキお姉ちゃんがお酒を魔法で増やしてよかったねって言ったの」
一昨日言っていた攻撃魔法を試してみたのか。
外にはゴブリンとかいるらしいし、自衛手段はあったほうがいい。木を倒すほどの威力なら十分だろう。あとは使い勝手か……というか動く獲物に当たるのかとか、生き物を魔法で攻撃するメンタルがあるかどうかということも心配になる。
詳しいことは、食事中に聞くかな。
居間についてみると、ミズキ以外は全員がいた。
「おはようございます。誰もご飯の支度しないから、私とノアちゃんで用意しましたけど、もうみんなダラダラしすぎだと思うんです」
「ごめんなさい。ミズキは?」
「あの子なら、二日酔いです。まったくもう。たるんでます」
「母ちゃん、ごめんよ」
ちょっと冗談で返してみたら「ハァ?」と睨まれた。
サムソンはその様子をみて爆笑している。
「でも、二日酔いするほどお酒なかった気がするけど……」
「あー。昨日、複製魔法を見つけちゃってさ、試しに蜂蜜酒で試したら成功して一気に飲み放題になったんだよ」
倉庫にあった本にはたくさんの魔法が書かれていて、うち一つが複製魔法だったらしい。
でも、触媒が必要で、その触媒にパンをつかったせいで残っていた食べられるパンは昨日のうちに無くなったとのことだった。
「それで、二日酔いか」
「なんでも増やせるなら、お金とかエリクサーとか増やせば、こっちの生活も楽勝だな」
「ミズキ氏も同じこと考えたんだけど、触媒がシビアでさ。魔法だけで実行しようとしたけど失敗……うまくいかなかったよ」
触媒には階級みたいなものがあって、複製したいものに相応しい階級の素材が必要らしい。
エリクサーを複製するにふさわしいものは倉庫になかったとのこと。
お金の複製はロンロから国の法律で禁止されているといわれてやめたらしい。
コンプライアンスは異世界でも大事なのか。
「倉庫にないものは……」
「全部試してないけど、全部試すの?」
オレの何気ない呟きに、カガミが反応する。確かに手当たり次第に試してみても時間がかかりそうだ……というよりめんどくさい。
「元の世界から持ち込んだ物はどうだろ? 看破の呪文で鑑定してみたことない気がするんだけど」
その言葉に、反応するようにカガミがボールペンに看破の呪文を使う。
「ボールペン、筆記用具……統一王朝時代……売買禁止……進化した遺物?」
よくわからない情報がいくつかのっていたが、希少品として鑑定されたことは間違いないようだ。エリクサーの複製ができるかもしれない。試す価値がでてきた。
そういえば、この世界からみてボールペンは希少品。なら、他の物はどうなのだろうか。
元いた世界でも希少な物だったら……。
自分の財布から2000円札を取り出す。これは誰も持っていまい。
「綺麗」
「なんスか、それ」
ノアと、プレインが即座に反応してくれたが、どうにも期待したリアクションとは違った。
そっか、若者は知らないのか。
「母ちゃん、頼むわ」
「……次、母ちゃん言ったら、頭に電撃叩き込みますからね」
調子にのっていたらカガミに怒られた。昨日電撃の魔法を試してみたと言っていたからリアルでできる話なだけに怖い。まぁ、実際にそんなことされないだろうけれどさ。ちょっと反省。
「2000円札。図画……進化した遺物……唯一の存在」
いつものように、看破の呪文の結果をカガミが読み上げる。
唯一の存在。なんかすごい結果でたな。
2000円札が無くても困らないし、これで試すか。
食事を手早く切り上げて、風呂場へと向かう。昨日、ミズキが居間で蜂蜜酒を増やしたとき大変なことになったらしい。
風呂場に桶と魔法陣の書かれた板を準備する。魔法陣は大きさが決まっていたらしく、本に書かれていたものを木の板に転記したらしい。
「複雑な魔法陣だね、コレ。転記するの大変だったでしょ」
「ミズキ氏が、半日くらいかけてがんばったんよ。なんど失敗しても、めげずに」
「鬼気せまる必死さを感じたっス」
ミズキが必死になったというエピソードを聞いて何とも言えない。
なんだろう。あいつのお酒にかける情熱……アル中だったりしないよな。心配になる。
そんな思いは別にして、サムソンがテキパキと準備をすすめて詠唱を始めた。
途中、サムソン一人では魔力が足りなくなり、みんなで詠唱することになったりと紆余曲折はあったが魔法は成功したようで、ゴポゴポと音をたて、小瓶からエリクサーがあふれ出てくる。こぼれても大丈夫なように桶へ小瓶ごと投げ入れる。
「あれ、とまらない」
「止まらないっスね」
「桶からこぼれ出しました。お風呂で試して正解だったと思うんです」
最終的に、浴槽いっぱいになるまでエリクサーは増え続けた。この浴槽は小さめのプールくらいあるので、相当な量になる。
というか増えすぎだし、これ効くのかな。薄まっててダメでしたとかならないかな。
「ちょっと試してみましょう」
カガミが、小瓶に増えたエリクサーを掬い取ってどこかへ歩き出した。みんなでゾロゾロとついていったら、ミズキが寝ている部屋だった。
「ミズキ、お薬もってきたよ」
「ありがとー」
薬を渡されたミズキは、特に疑問をもつことなく一気に飲み干した。すると、ミズキの体が光に包まれ、ほどなくして消える。
「なにこれ、すごい」
二日酔いは一瞬で解消されたらしい。本当にすごいな。
みんなで成功したことに喜んでいると……。
「マジかよ……いきなり人体実験しやがった」
サムソンがボソっと呟いたのが聞こえた。
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