【本編完結済】召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

第1章 異世界バカンスの始まり

第1話 プロローグ (家主の少女視点)

「おいしくない……」

 わたしは手に持っていた黄色い粘土のようなソレを投げ捨てた。

 コツンと小さく音を立てて石畳に落ちたソレは霧のように消えた。


 ――食べ物を粗末にはしてはいけませんよ、ノア


 少し前であれば、そうやって叱ってもらえた。

 今や、そんな人は誰もいない。独りぼっちだ。

 石を投げられ怪我をした額がズキズキと痛んだ。治っているはずなのに、痛い。


「どうしよう」


 それから程なく魔法陣が輝き人影がみえた。

 ママだ、きっとママだ。


 ……ちがった。

 

 期待は裏切られ、現れた人は知らない人だった。

 魔法陣は、その後も人を呼び出し、ゆっくりと輝きを小さくしていった。

 少し離れたところに、魔法陣より現れた男の人や女の人が何人かいる。そして、悪魔が彼らとなにやら話をしていた。

「なに? ココ? 私しらないんだけど」

「いや、ボクに言われてもわかんないっスよ」

 話は言い争うような声になってきた。密室がどうとか、そんなことを話しているようだ。

 あの悪魔は、きっと私が原因だと伝えるに違いない。もしかしたら、怒られるかもしれない。殴られるかもしれない。


「どうしよう」


 今や、私を助けてくれる人はいない。あの悪魔に期待しても仕方ないだろう。

 私は独りぼっちだ。


「どうしよう……どうしよう……」


 魔法陣は、今もなお、ほんの少しだけ輝いている。

 両ひざを抱え込む腕に力をいれて、私は泣くのを我慢した。

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