婚約破棄を学内パーティーでされたから拳銃で解決した話
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婚約破棄を学内パーティーでされたから拳銃で解決した話
「浅井政美、貴様との婚約を破棄する!」
そう声を大きく宣言したのは朝倉影俊様、大企業社長の御子息でいらっしゃいます。
今日は日本のお金持ちの御子息ご令嬢が通う日ノ本高校の高校生活で最も大切なパーティーの一つである3年生の先輩方への送別会です。
送別会パーティーと言ってもドレスではなく、あくまで学生のパーティーですので制服ですが。
先程までガヤガヤと談笑していた皆さんもしんっと静まり返って朝倉様を見ていらっしゃいます。
(一体全体、何事でしょう……?)
名前を呼ばれた私は頭の中に『はてな』をたくさん浮かべております。
「どうした、驚きすぎて声も出ないか!」
いつの間にか壇上へと上がっていた朝倉様の傍らにはとても愛くるしいご令嬢がいらっしゃいます。
確かに朝倉様は私の婚約者ですが一体何があったのでしょう?
「はぁ、破棄でございますか?」
私は未だに状況が掴めず、生返事をしてしまいす。
その返事に気を悪くしたのか、朝倉様はお顔を真っ赤にして大声を出されます。
「なっ、俺には貴様のような女と結婚するつもりはない!婚約を破棄する権利だって持っている。」
「確かに権利はあると思います。私にもありますし……。」
「そう言うことを言ってるのではない!貴様のような性格の悪い女とは結婚しないと言っているのだ!」
「まあ!性格が悪いだなんてはじめて言われましたわ。」
私ははじめて言われた言葉にフフッと笑みをこぼしてしまいました。
普段兄上や妹からはおっとりしすぎて心配だと言われますが、性格が悪いとは初めて言われたので楽しくなってしまいました。
「笑ってごまかしたって無駄だぞ、貴様がこの六角義子に陰湿ないじめをしたと言う証拠だってある。」
そう言ってすぐそばに侍っている令嬢に目を向けます。
どうやら彼女が六角義子さんなのでしょう。
しかし、初めて会う方をいじめたと言われましても私も困ってしまいます。
「はて、その六角さんとは初めてお会いしたものですからいじめと言われましても……。もしかして気が付かないうちに不快な思いをさせてしまいましたか?」
「この期に及んでしらばっくれるか!貴様はこの義子嬢の教科書を破り、水を浴びせ、孤立させたり、しかも階段から突き落として怪我までさせたそうじゃないか!」
「まあ!それは大変です!しかし、私には覚えがありませんのできっと人違いではありませんか?」
「貴様……、まだ言うか!」
と朝倉様は怒声をあげています。
しかし、本当に私には身に覚えが有りませんので認めるわけにはいきません。
すると、六角さんが甘い声を上げます。
「朝倉君、きっと彼女も朝倉君がとられちゃうって嫉妬があったのよ。あまり攻めないであげて。私はこうして無事だったんだし……。」
「六角嬢は優しいな!しかしそれに引き替えお前ときたら!自らの罪すら認めようとしないで言い訳ばかりして。この俺の婚約者に相応しいのはどちらか言うまでも無いな!」
と、朝倉様は胸を張っておっしゃいます。
しかし、私が嫉妬で六角さんをいじめたというのは聞き捨てなりません。古来より浅井家は戦況を鑑みて強きものと手を組み、絶対的な力でねじ伏せるのが浅井家の戦い方です。
これだけ聞くと虎の威を借りているように聞こえますが、そうではありません。
時代の流れを読み、浅井の女性の持つ不思議な直感で未来を予測して必ず勝つ方に味方としてはせ参じるのです。
つまり、いじめのようなコソコソとした戦い方をしていては浅井の名が廃ります。
「あの、お二人様、このままではお互いに水掛け論になってしまいます。私が六角さんを虐めたという証拠は御座いますか?」
「なに?証拠だと?それなら彼女が証言していると言うので十分ではないか!」
「いえ、当事者による証言は証拠になり得ないかと……。例えば物的な証拠や目撃者は居たりしませんか?」
はて、なぜ私が私を責めそしられるための証拠集めを自分でしているのでしょう?
と不思議がっていると、朝倉様はそれを待っていたと言うお顔をされました。
「物的な証拠ならあるぞ!それはこれだ!」
そう言って簪かんざしを掲げました。
私はその簪かんざしをみて頭に血が上っていくのを感じます。
「この簪はな、六角嬢が突き落とされた階段に落ちていたそうだ。どうだ見覚えは……ひぃ!」
何か朝倉様が得意げに話しておられましたがほとんど耳に入っておりません。
私はブレザーのしたに付けたショルダーホルスターからSIGP230拳銃を引き抜いてウィーバースタンスの構えで朝倉様に向けます。
パンッ!
小口径特有の軽い発砲音がパーティーホールに響きます。
その音を皮切りにキャーキャーッ!と他の生徒さん達がホールから逃げ惑っていきます。
当然、当てるつもりなど有りませんが朝倉様は「あわあわ」言いながらへたり込んでしまいました。
「朝倉様には聞きたいことがあるのでそのまま座っていていただけると有難いです。そして…。」
そう言って逃げだそうとしている六角様の爪先5㎝ほどの場所をパンッ!と撃ちます。
今にも走り出そうとしていたところを撃たれた六角様はお顔を真っ青にして走り出そうとした格好のまま動かなくなってしまいました。
「当然貴女にも聞きたいことが御座います。」
朝倉様に近づこうとすると、バリーンッと窓ガラスが割れそこから黒ずくめのボディーアーマーを身につけた人が5人ほど入ってきました。
全身黒ずくめの特殊部隊のような見た目をした人達はMP5kサブマシンガンを構えて私に近づいてきます。
視界の端に朝倉様がほっとした顔をしているのが見えましたが、何にほっとしたのでしょう?
その特殊部隊のような見た目をした人達のリーダーがヘルメットバイザーをあげて、私に話しかけます。
「お嬢様、あれほど緊急時以外に拳銃を抜かないで下さいと言ったではないですか!お嬢様のホルスターには拳銃を抜くと我々即応部隊に出動命令が出るように発信器がついてるんですよ!」
「半蔵、勿論存じています。でもついカッとなって…。」
彼らは浅井財閥のPMC部門警備課の方々で、私達浅井家の人間の私的なボディーガードです。その証拠に背中には『浅井コーポレーションPMC警備課』の白い文字がベルクロワッペンでついています。
「このことは御当主様に報告させていただきます。」
「お祖母様には言わないでくださいまし!また折檻されてしまいます……。」
私はお祖母様の折檻を思い出して顔を青ざめます。
そこで半蔵が助け船を出してくれました。
「まあ、理由によりますけどね。今回はどうして拳銃を抜いたんですか?」
「そうです!朝倉様が先日盗難されたお祖父様に頂いた形見の簪を持っていたんです。それを見たら我を失ってしまいましたの。」
「…っ!」
半蔵は驚いた顔をするとコツコツと靴を慣らして、へたり込んでいる朝倉様に歩み寄ります。
「おい小僧、どういうことだ?」
「お、お前達、ぼ、僕にこんなことしてタダですむと思うなよ!」
朝倉様は虚しい威勢を張ります。
しかし、ダンッ!と半蔵の持つMP5kサブマシンガンが銃声をあげます。
朝倉様のすぐ近くに弾着した弾は床に弾痕を残して跳弾の音と共に何処かへ飛んでいきました。
「んなことどうでも良いンだよ、その簪をどこで手に入れたンか聞いてるんだよ!」
「し、知らない、これは六角嬢が落ちてたって持ってきたんだ。」
それを聞いた半蔵は今度は六角さんのほうへ向きます。
しかし半蔵が六角さんとお話しする前にバタンと言うドアの開く音と共に入ってきた人によって中断されました。
「動くな!」
そう言って入ってきたのは警視庁特別強襲部隊SATと背中に白く刺繍され、MP5Jを持った黒ずくめの人達でした。
SIGP230を私は地面に置き半蔵も同じくMP5kを地面に置きます。
5人ほどのSATが部屋に入ってきたところで、六角さんがホッとなさっています。
しかし、SATのリーダーが半蔵に話しかけるのを見て訳がわからないといった表情をなさります。
「なんだ!磯崎じゃないか!」
「やめてください、藤堂先輩もう自分はSATではないですから。」
SATのリーダーがヘルメットのバイザーを上げると美人な女性の顔が現れます。
半蔵は迷惑そうに返しています。
「それより何で先輩が来たんですか?先輩はもっと重大事件の時に出動するじゃなかったんですか?」
「何言ってるんだ、お坊ちゃま学校で乱射事件なんて十分重大事件じゃないか。まあ、撃ったのがあの浅井家の令嬢とその子飼いの有能PMC社員ならたいした事件性はないな。とりあえずここに居る全員事情聴取するから下の車に乗ってくれ。」
そう言って私達は1人ずつ白のセダンに乗って近くの警察署に行きました。
▼△▼△▼△
その後私たちは拳銃を撃ったことを簡単に注意され、事情聴取も終わりました。
そしてその後一昼夜中に浅井家と朝倉家の婚約は解消されました。
元々朝倉家からのお願いで渋々と婚約をしていたので、向こうからの破棄は願ったり叶ったりです。
戦国時代のある時期を堺に浅井家では長女が次期当主になることが決まっているので、本当は嫁入りではなく、婿入りして貰う予定でしたので浅井家にはあまり影響は無いのですが。
ちなみに今回の事件を受けて様々な業界に手を伸ばしている浅井家から新興勢力の朝倉家への報復があると考えられ多くの企業が朝倉家との取引を一時中断したせいか、朝倉家が少し傾いたそうです。
しかし、結局簪の出所は解らないままです。
六角さん曰く、朝学校に来たら簪と手紙が置いてあったとのこと。
その内容はこの簪は浅井政美のものだからこれを使ってうまく婚約破棄を狙えとのこと。
一体誰がなんの目的でこんなことをしたのか皆目見当持つにませんが、浅井家にケンカを売ったことを近いうちに後悔させてやりたいと思います。
……口が過ぎました。
私は警察署から帰るなりお祖母様にこってりと絞られました。
曰く、何故1発位くれてやらなかったのか?と。
お祖母様、それでは私傷害事件として検挙されていましたよ。
いくら怒りで我を忘れていたとしても当てることはなかったと思います。多分ですが。
△▼△▼△▼
その後、少し月日がたち私達は2年生に進級しました。
桜舞う中、入学式に出席するため校門をくぐると可愛らしい女の子が走っているのが見えます。
女の子は入学式に遅れそうだと思っているのか、かなり焦っています。
かなり時間はあるのに。と、思っていると
あらっ、かなり派手に転びました。
女の子に駆け寄り声をかけます。
「大丈夫ですか?」
声をかけて起こしてあげると頭の上に桜の花びらをのせて居るのに気が付きます。
女の子は茶色のショートヘアに大きな目と一つ一つのお顔のパーツがとても整っているのがわかるくらい可愛らしい子でした。
「ありがとうございます!」
と言って女の子が顔を上げ、私の顔を見るとみるみるうちに顔が真っ青になり一言
「あ、悪役令嬢だ……。」
かすれた声で呟くなり落ちていた鞄を拾い上げ走って行きました。
「私わたくしそんなに人相が悪いかしら?」
失礼しちゃいます。
しかし、まだ銃を抜くほどではありません。
銃で解決するのはとても難しいですから。
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