第32話 おこさまランチは何歳までOKか問題
今日は久々に、姉・若菜一家と夕飯をごちそうになっている。
琴子がいないからだ。
昼頃、メッセアプリに飛行機内の写真が送られてきた。
見送りもできなかったが、それでいいのかもしれない。
最近は、踏み込みすぎている。
若菜の運転で、ファミレスへ。ビールを飲むというので、帰りは孝明の運転だ。
ファミレスなんていつ以来だろう。
「それ、もーらい」
若菜のフォークが、孝明のプレートからエビフライを突き刺した。
「あってめ、姉貴!」
孝明の講義もむなしく、エビフライはフヨフヨと飛行する。
若菜は昔から、孝明のおかずを一つ取っていくクセがあった。悪趣味な姉である。
「へっへーん。あんたがおいしそうに食べてるからやないのー」
理由が実に理不尽極まりない。いつもそうやって、孝明の皿を狙うのだ。
「ええかげんにせえよ、姉貴よぉ」
思わず、孝明からも故郷の言葉が出てしまう。
「はい
若菜が、息子のプレートにエビフライを置いた。そう言われると弱い。
「ありがとうございます。エビフライは大好物なのです」
ハキハキとした口調で、清太郎が答える。本当に七歳なのだろうか。
「オーディション、どないやったんや?」
清太郎は、とある小さな劇団で子役をしているらしい。
「清涼飲料水のCMで、高校生の女優さんと共演が決まりました」
「ええやんけ! がんばったなぁ清太郎。おめでとうな」
「ありがとうございます」
方言が抜けなくなるからと、孝明の前以外では標準語で会話しているそうだ。
徹底した教育の結果、清太郎はクラスメイトが相手でも敬語を話すようになってしまった。方言が出る必要がないから。
親に似て、実に合理的な手段であり、歪んだ処世術である。
息子がエビフライを堪能しているのを、若菜が大切そうに眺めていた。
ようやく、若菜が手に入れた幸せである。
若菜が、店員を呼ぶ。
「すいません、おこさまランチって、大人でも頼めますか?」
無茶な質問をぶつけられ、店員も首をかしげた。
「いいです」と孝明は告げて、店員に下がってもらう。
「何考えとんねん?」
「あのボリュームが丁度ええねんて。プリンついてるしやぁ」
「そのために、大人には定食があるんやんけ」
おこさまランチのボリュームが丁度いいのは分かる。
だが、『とりあえずビールセット』というバッチリ大人メニューを頼んでいる人間が食べていいメニューではない。
孝明が頼んだのも、ボリュームセットだ。揚げ物の大半は清太郎の胃袋へ消えたが。
「多いねんて。ほとんど清太郎が食べてるやん」
「こいつ、食い過ぎやねん」
「普段は食べさせてへんみたいに言わんといてよ」
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