第18話 なぜ台風の日はコロッケなのか問題

 どうやら、着替えをネコソギ忘れたらしい。タオルは持ってきていたが。


「オマエ、制服の下にスク水着て登校したのか? 小学生か!」


 そんな背徳的行為が許されるのは、小学校卒業までだ。


「どうしよう。このまま帰ったら風邪引いちゃうよ」


 身体を拭きながら、琴子は自分の身を心配する。


 その前に公然ワイセツ罪で補導されるだろう。


「ちょっと待ってろ」

 孝明はコンビニでスポーツショーツを買ってやった。

 できるだけ色気を感じない、機能性重視のモノをチョイスする。


「ほら、さっさと着替えろ」

 店に戻り、琴子に下着を押しつけた。

「可愛くない」

「ガマンしろ!」


 着替えるからと、琴子は大将ともども孝明を店から追い出す。


「お、お待たせ」

 すぐに、モジモジしながら琴子が出てきた。


「なんかゴワゴワするね」

「着心地の悪さはガマンしろ。あと実況するな」


 琴子の制服の下は、孝明が買ってきた下着姿なんだなと、想像してしまう。

 頭の中で妄想を払った。


「あーっ、今想像した! そんな顔してた!」


「しました! ごめんなさい!」

 琴子に指さされ、孝明は素直に認める。


「しょうがねえだろ、買ってきて早々だから、記憶が鮮明なんだよ!」

「でも、ちょっとやらしい!」


 それは認めざるを得ない。


「とはいえ、これで帰れるよ。ありがとね」

「それはいいけど、オマエさ、オレがいないときって、メシどうするの?」


 今回の台風は大型だ。さすがに大将以外の店も、すべて閉めるという。

 さっき決まったそうだ。


「コンビニでお弁当でも買うよ。久しぶりに、一人でまったりしようかな。撮りためたビデオでも見てさ」

「分かった。じゃあ今日はここで」

「ばいばーいコメくん。大将ごちそうさまー」


「おう」

 大将は無愛想ながらも、琴子に手を振る。


「家でも一人なら、オレの家に来いよ」なんて、孝明は言えない。今はまだ。


 雨脚が強くなる前に、スーパーへ寄った。適当に弁当でも買って。


 会話アプリが鳴った。琴子からである。


「晩ごはんはね、コロッケにしたよー。ネットのウワサだとね、台風の日はコロッケなんだって。どうしてだろうね?」


 大量のコロッケを持った写真付きで、メッセージが送られてきた。

 二十個近くある。全部食べる気か?


『台風の日はコロッケ』、と誰が言い出したのだろう。いつの間にか浸透している。


 無性に、孝明もコロッケが食べたくなった。

 スーパーでコロッケを買い込んで、自室でムシャムシャと食べる。


 ちょうど、台風が孝明の住むエリアに直撃した。

 逸れると予想して出社していたら、帰れなくなるところだ。


 ガタガタと震える窓を眺め、コロッケを頬張る。




 一人で食べる食事のわびしさが、募るだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る