第14話 昼からの飲み会は背徳的すぎる問題

天城あまぎさんに、津村つむらくん、きみらまで」


「高倉先輩が辞めるなら、ここにいる理由はありません!」

 プリプリと肩を怒らせながら、天城はスタスタと歩く。


「まったくだ。ボクのグータラ師匠二人を失っては、ボクのグータライフは完成しませんから」

 メガネをクイッと直しながら、津村はダメな発言をする。


 しかし、頼もしい。




「先輩、ウチの会社から社員が続々と自主退社していくそうです。その数は千人にも及ぶと。若手ベテラン問わず。あの社長にはついて行けないと。SNSでニュースにもなってますよ」

 津村が、スマホのニュースサイトなどを巡回し、情報を見せてくれた。



「当たり前だ。それだけのことをしたんだからな」

 

 出世するために、彼は色々なものを他人から奪ってきた。

 地位も、権力も、金も。



 これまで社長は、すべてを手に入れたと思っていただろう。

 しかし、これからどんどん、色々なモノを失っていけばいい。

 どうせまた奪い返せると思っているだろうが、そうはいくものか。

 あんなヤツは、一度ゼロになって反省するべきだ。

 橋の上に、藤枝課長がいた。最近までやつれていたが、今は血色がいい。 



「藤枝課長。いや、若菜わかな。みんな、アンタの新会社に来てくれるそうっすよ」

 孝明が告げると、藤枝若菜は深々と頭を下げた。


「ありがとう、みんな。付いてきてくれて」

 頭を上げると、若菜が笑顔になる。


「よっしゃ。お別れ会と親睦会と立ち上げを一度にやろうぜ。昼間から飲むか!」

「いいね! どこ行く?」


 早速、津村がスマホを取り出す。打ち上げの店を調べるのは、いつも彼の役目だった。

「検索かけます。この近くだと、三件です」


「公爵は開いてるか?」

「もちろん! 飲み放題一九八〇円、予約なしで入れます」

「決まりだな」



 そのまま、全員は『豚公爵』へなだれ込む。

 二時間飲み食いした後、カラオケでハッスルした。



「いやー楽しかったな、孝明!」

 孝明の肩に担がれながら、ベロベロの建一が白い歯を見せる。


「何を言ってやがる。まだこれからだ。夏から忙しくなるぞ。よろしくな、建一」

「だな。それまで英気を養おうぜ、孝明」



「おう。あ、ちょっと悪い」

 孝明のスマホが振動した。



「どうした、女か」





「まあな。どれどれ……はあ!?」

 変な声が、孝明から漏れた。





「どうした孝明? 孕ませちまったか?」


「アホか。でも、ちょっとヤバいかも知れん」

 口を手で覆い、孝明は考え込む。


「スマン、みんなはこの後も楽しんでくれ。オレは若菜と行くところがあるから」

「おー。じゃあな」

「また連絡する。津村、建一を頼む」 



 建一を津村に預け、解散する。



「若菜、スマンが付いてきてくれないか?」



 孝明は、若菜にスマホを見せた。メッセージには、こう書かれている。




『橋の上で泣いてた女の人に会わせて』

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